第11話 護天一家の隠された秘密

 三刃はモンスターを倒した後、家に戻って休んでいた。修業の疲れもあってか、三刃は自分の体が重くなったと感じていた。それに、腕を上げようとすると、ズキンと痛みが走る。


「ぐうっ!」


 右腕の痛みを押さえるため、力強く腕を握った。


「無理……しすぎたかな……」


「お兄ちゃん。今痛そうな声が聞こえたけど、大丈夫?」


 外から翡翠の声が聞こえた。三刃は大丈夫と返事をし、部屋から出て行った。


 その後、三刃と翡翠はキッチンで夕食を食べ始めた。三刃が箸で鮭の身を切っている時、翡翠が口を開いた。


「お兄ちゃん、最近どこかに行ってるの?何か前よりたくましくなった気がするんだけど」


「近くで鍛えてるんだよ。高校生になったからな」


「ふ~ん……」


 三刃は察した。翡翠は今の言葉を嘘だと思っている。自分が魔法使いだという事がばれれば、何か言われるに違いない。それに、翡翠も父親の血を引いていて、魔法使いかもしれないと。


「お前は何も心配知るな。お兄ちゃんが守ってやるから」


「本当に?」


「僕は嘘をつかない」


 翡翠にこう言うと、三刃はほぐした鮭の一部を口の中に入れた。


 その日の夜。三刃は風呂からあがり、自分の部屋でパジャマに着替えていた。この時、自分の携帯を見ると、着信を知らせるマークが付いていた。相手は湯出だった。三刃はすぐに湯出に電話をかけた。


「もしもし」


『あ、三刃君?』


「はい。すみません、電話に出れなくて」


『いやいいんだ。それより、今話いいかい?かなり重要な事だから』


「……はい」


 三刃はベッドの上に座り、湯出との会話を始めた。


『巫女の存在について、君に知っておきたかったんだ』


「巫女?神社にいる人の事ですか?」


『同じ様なもんだ。だが、今から話す巫女は、龍の力を持っているんだ』


「龍って……そんなゲームじゃあるまいし」


『いいからしっかり聞け』


 湯出の言葉を聞き、三刃は事の重要性を悟った。


『巫女は龍の力を持っている。普通の魔法使いと比べ、巫女の持つ魔力は多い。そこに目をつける犯罪者もいる。今話題の魔法犯罪者も、狙っている』


「……で、誰なんですかその巫女って?」


『まだ説明の途中だ。巫女の一部は自分の力を知り、全世界にいる魔法結社の人達に伝え、保護してもらっている。だけど……まだその力を持っている事を知らない巫女もいる』


「そうですか……湯出さん。その一部の巫女がこの近くにいるってことなんですか?」


『ああ。君の身近な人物だ』


 話を聞き、三刃の脳裏に一瞬だけ姫乃の顔が浮かんだ。まさかだと思い、三刃はこう聞いた。


「まさか、姫乃ですか?」


『そうだ。だけど、姫乃は自分が巫女である事を知っている。随分前からな。でも、姫乃は異様に強いから、犯罪者共は近づかないんだ』


「ですよね」


『だけど、姫乃以外にも巫女がいる。翡翠ちゃんだ』


 少しの間だけ、三刃の動きは止まっていた。三刃の様子を察し、湯出は咳払いしてこう言った。


『そんなに心配しなくてもいい。結社の魔法使いが翡翠ちゃんを守ってくれるから』


「やっぱり……翡翠は父さんの血を引いていたんですね」


『いや。正確には君のお母さんの血を翡翠ちゃんは引いているんだ。若干相葉さんの血はあると思うけど』


 ここで母の事が話題となり、三刃は慌てながら湯出に話した。


「母さんが?何でここで母さんが出てくるんですか?魔法使いは父さんだけじゃないんですか?」


『……ごめん。君のお母さんの事は少し話すのをためらっていたんだ。ここで君の両親について全てを話すよ』


 湯出は一旦深呼吸し、話を始めた。


『君のお母さんは風の巫女だった。名前は風原美晴。相葉さんとは護衛任務で出会った。目茶苦茶な相葉さんに対して、美晴さんは最初嫌ってたけど、徐々に真っ直ぐでバカ正直の相葉さんに魅かれ、そして結婚した。その後は君が生まれ、翡翠ちゃんが生まれた。そして……相葉さんと一緒に死んだ』


 しばらく、三刃は声を出さなかった。湯出は申し訳なさそうに、話した。


『ごめんな、こんな事話して』


「いや、いいんです。僕の両親の事と、翡翠が巫女とかいう何か特別な人間だって事を教えてくれて」


『あ……ああ』


「大丈夫です。何かもやっとしてたのがすっきりした感じです」


『そうか』


「明日、また修業に行きます」


『分かった。こっちも準備して待ってるから』


「……この事、姫乃達には話しましたか?」


『親父さんの方が伝えておくって』


「姫乃の父親も結社の人なんですか?」


『お偉方だ』


「そうなんだ。姫乃、何も教えてくれなかったからな」


『親の事を言うのが恥ずかしかったんだろ。まぁ、明日姫乃の方から何か言うと思う。その時は二人で今後の事を打ち合わせしてくれ』


「服部にも、この話を聞かせた方がいいですよね」


『ああ。仲間は多い方がいい』


「分かりました。では明日」


『おう。早く寝ろよ』


 その後、三刃は電話を切り、ベッドの上に寝転がった。


 翡翠の中に、とんでもない力が隠されていた。だが、翡翠はこの事を知らない。そして、この力を手にしようとする者がいる。守りきれるのだろうかと三刃は思った。だが、姫乃や服部、凛子と凛音の顔が浮かんだ。皆と一緒なら、翡翠を守れる。こう思った三刃は安心し、そのまま眠った。




 翌日。三刃は学校に登校し、いつも通り過ごした。放課後、三刃が帰ろうとした所、姫乃に呼びとめられた。


「……あの話か?」


「ええ。学校じゃあ話しにくいから、すぐに湯出さんの所に来て」


「ああ」


 その後、姫乃は教室から出て行った。姫乃と一緒に出て言ったら、宇野沢辺りに変な事を言われるだろうと思い、三刃は時間が経過した後、教室から出て行った。


 湯出宝石店の前。もう姫乃と凛子と凛音、服部が集まっていた。


「皆来てたのか」


「おっそーい!」


「何してたの?」


「いや、姫乃と一緒に帰ると怪しまれるだろ?うちのクラスにこういう噂話好きな奴がいるから」


「納得!」


「お姉ちゃんがこんなのと噂になるなんて……妹として屈辱」


「それどういう事だ?」


「口喧嘩はこれで終わりにしろ。今から重要な話があるのだろう?」


「ええ。服部さんの言う通りよ。三刃君。昨日湯出さんから話を聞いた?」


「……ああ。お前達も聞いたか」


 三刃の返事に対し、姫乃達は首を縦に振った。


「まさか、三刃君と妹さんが風の巫女の血を引いていたなんて思ってもいなかったわ」


「驚いたのは僕の方だよ。僕だけじゃなくて、翡翠も魔力を持っているって知らなかった」


「お~い。話は中でしよう。掃除したから」


 店の中から、湯出が出て来た。その後、三刃達は店の中に入り、リビングで話を始めた。


「さて、今日は修業の前に今後の事を話しあおう」


「翡翠の事ですね」


「ああ」


 三刃の言葉に返事した後、湯出は続けて話をした。


「翡翠ちゃんの事は結社の魔法使いが守ってくれると言ったけど……本音で言うと、翡翠ちゃんを狙ってる奴はかなり強い」


「結社の人達でもかなわないんですか?」


「そうだ。……三刃君。ここからの話は相葉さんの死の真相を話す。話を聞いても、無茶な事をしないと返事してくれ」


 父である相葉の事が話題となり、三刃はまさかと思い、湯出にこう聞いた。


「まさか……父さんを殺した奴が翡翠を狙っているんですか?」


「……ああ。今追っている魔法使い、ジズァーは十四年前、相葉さんと美晴さんを爆死させた張本人だ」


 この話を聞いた三刃の体は固まった。湯出はため息を吐き、三刃にこう言った。


「三刃君。冷静になれよ。感情的になって相手に挑んでも、逆にやられるだけだ」


「……大丈夫。僕は……冷静です」


 動揺したと思ったが、三刃は普通に湯出の言葉に返事をした。だが、湯出は三刃は冷静のフリをしているかもしれないと思い、続けて話をした。


「大丈夫なのは分かった。だけど、無茶をするのは止めてくれよ。もし、今日の修業で無茶をするような事があったら、ジズァーとの戦いの時、君を外す」


「どういう事ですか?何で僕を外すんですか!?」


「両親の仇を取る為に、君の無茶な行動を封じるためだよ」


「……」


「冷静になれ。無茶な行動は負ける原因の一つだ。相手を倒す為に攻撃に集中して、他の事がおろそかになって隙ができ、そこを突かれてあの世行き。そうなりたくないだろ」


「……はい」


 三刃はうつむきながら、返事をした。湯出は立ち上がり、リビングの扉を開けた。


「さて、修業に行くぞ。今日から少し厳しめにする。服部ちゃんも気を引き締めてかかれよ」


「了承」


 服部は返事をした後、三刃の様子を見た。三刃はうつむいており、顔の表情が見えなかった。それを見た服部は、少し不安になった。

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