第10話 修行で得た力

 湯出宝石店から帰宅途中、三刃は小腹を満たす為にコンビニへ向かった。


 パンのコーナーにあるハンバーガーと、カフェオレを持ってレジに向かった。


 レジで待っている時、三刃の背筋に寒気が走った。この直後、三刃の背中から少し汗が流れた。今、三刃は禍々しいものを感じたのだ。すぐに周囲を見渡し、不審者がいないか探し始めたが、それらしい姿は見えなかった。


「あの、お客様……」


 店員の声を聞き、我に戻った三刃はハンバーガーとコーヒーを買い、そのまま店から出て行った。


「ほう……あの小僧……我らの魔力に気付いていたのだな」


 三刃のかなり後ろにいたジズァーが、小さな声でこう言った。バヌアは歯ぎしりをしながら、拳を握りしめていたのだが、シニタがバヌアを押さえてこう言った。


「落ち着きなさい。アンタの師匠を殺したのはあの坊主じゃないわよ」


「分かってる……だが、あいつの仲間だとすれば……」


「バヌア。まだ戦う時間ではない」


「そーよ!それに、もしかしたら戦わないかもしれないし」


「ふざける……」


「大声を出すな。大丈夫だ。我らの目的を阻むために戦うかもしれないし、我らの目的を果たした後でも、あいつの仇は取れる。慌てるな、確実にズスを死に追いやった奴と戦う時が来る」


「……はぁ……はぁ……すみません。少し興奮してました」


 バヌアは深呼吸しながら、その場に座った。ジズァーは少し笑い、振り迎えって歩き始めた。


「あれ?ジズァー様、どこへ行くんですか?」


「アジドへ戻るぞ」


「あ、はい」


 その後、シニタはうずくまっているバヌアを立ち上がらせ、ジズァーと共にアジトに戻って行った。


 帰る中、シニタは三刃を見ていた時のジズァーの顔を思い出していた。昔の事を思い出していたのか、それとも新たな敵を見つけたのが嬉しかったのか。そんな事より、シニタはジズァーの笑みを見れた事が嬉しかった。だが、それと同時にシニタは三刃に対して嫉妬していた。


「ジズァー様、ちょっと外れます」


「ああ。結社の奴らには見つかるなよ」


「はいはーい」


 その後、シニタは周囲を見ながら走り回った。


 シニタは察していた、ジズァーは三刃の強さを察知し、あの笑みを見せた事を。自分の強さよりも、三刃の強さをジズァーが気にした事を、シニタは嫉妬していた。


(あの坊主の強さ、本当かどうか試してあげるわ)


 シニタは強力なモンスターを作り、三刃に襲わせようと考えていた。もし、三刃の強さが本物であれば、三刃を認めようと思っていた。


 しばらくし、公園で座っているだらしない男性を見つけた。シニタはその男性に近づき、話しかけた。


「こんにちわ~」


「ああ……何かくれるのか?」


「うん。とってもいい物よ。私の後をついて来て」


 自分の胸元を開けて誘惑し、男性の興味を引かせた。そして、誘惑した男性を人気のない近くの林の所まで歩き、その場に止まった。


「ここでいいのか譲ちゃん?おじさん、もう何年も女の子と遊んでないんだよ……もうやりたくてたまんないんだよ……」


「譲ちゃんって言ってくれてありがとう。これでも私、三十路越えてるんだよね」


 シニタはこう言うと、宝石から鎌を出現させ、男性の首を一瞬のうちに斬ってしまった。


 周囲に鮮血が飛び散る中、シニタは鎌に魔力を集め、鎌を男性の死体に突き刺し、魔力を注いだ。しばらくし、死体が黒く光り出し、骨の折れるような音を出しながら体が変形していった。数分後、巨大な翼が生えたモンスターが生まれた。


「うん。この子ならあの坊主の力を試せそう」


 その後、シニタはモンスターに三刃を襲うように命令した。モンスターは雄叫びをあげ、大きな翼を広げて飛んで行った。


 同時刻、三刃は自室でマンガを読んでいた。その時、三刃は魔力を感じ、窓を開けて外を見た。


「音がする……」


 三刃の耳に、かすかだが何かの羽音がした。モンスターだと察した三刃は、宝石を持って外に出た。この時、耳にモンスターの悲鳴が響いた。三刃は上空を見て、モンスターの姿を確認した。


 モンスターは地上にいる三刃目がけて、口から緑色の液体を吐きだした。何か危ないと思った三刃は風を発生させ、液体を吹き飛ばした。この後、三刃は力強く地面を蹴ってジャンプし、モンスターに斬りかかった。三刃の剣はモンスターの羽に命中、三刃は羽を斬り落そうと考え、剣を振りおろそうとした。


 だが、予想以上にモンスターの皮膚は固く、なかなか斬れなかった。羽を攻撃されたモンスターは悲鳴をあげ、壁に接近した。羽にいる三刃は壁に当たり、反動で地面に落ちてしまった。


「いたた……」


 体の痛みを我慢しながら、三刃は立ち上がり、再び剣を構えた。モンスターは立ち上がった三刃に向かって襲いかかって来ている。今がチャンスだ。三刃は剣の刃が縦になるように構え、向かってくるモンスターの中央に立った。


「来い!」


 三刃の声に応えるかのように、モンスターはそのまま三刃に向かって突進してきた。その結果、モンスターは縦に構えた剣によって真っ二つにされた。


「……ふぅ。相手がアホで助かった……」


 剣を宝石に戻し、三刃は自宅へ戻って行った。シニタは三刃にばれないように、近くの林の中でこの戦いを見ていた。


「ふっふ~ん。やるじゃないあの坊主。大胆に攻めたと思ったら、相手のバカを利用して自滅させる。そんな戦い方をする人初めて見た」


「ほう。面白い坊主だな」


 後ろからジズァーの声がした。声を聞き、シニタは驚いて後ろを振り向いた。


「ジズァー様!何でここに!?」


「何って、私もこの戦いの様子を見に来ただけだ」


「あ……気付いてたんですね」


「ああ。確かあの坊主、護天三刃とか言ったな」


 三刃の名前を聞き、シニタは頭を抱えて考え始めた。


「護天……どっかで聞いた事が……」


「十四年前、私を追い詰めた魔法使いだ。確か護天相葉と言ったな」


「あ~、あのバカそうな奴」


「どうやら、あの坊主はあいつの息子らしいな」


 こう言うと、ジズァーは少し笑い、再びこう言った。


「目的の前に、彼と一戦交えたいな」




 魔法結社内の会議室。結社の重役達が集まり、会議を行っていた。モニターの前に立っていた眼鏡の男性がパソコンを使い、モニターを操作しながら説明していた。


「先日、ごく僅かですが、風の巫女と思われる魔力を察知しました」


 この言葉を聞き、重役達がざわつき始めた。眼鏡の男性は咳ばらいをし、話を続けた。


「察知した場所は湯出宝石店から少し離れたアパートです。ここには今は亡き護天相葉氏の御子息、三刃氏と翡翠氏が住んでいるアパートです」


「まさか……風の巫女は翡翠氏か?」


「その可能性があります。それに、相葉氏の奥さんは風の巫女であった風原美晴氏。彼女の力を翡翠氏が受け継いだ可能性もあります。その点に関しては、湯出氏が察していたかもしれません」


 この時、一斉に会議に出席していた湯出に視線が集まった。湯出は渋々立ち上がり、手元のマイクを取って話し始めた。


「はい。その点に関しては自分も察知していました。翡翠ちゃんが美晴さんの力を受け継いでるという可能性も頭に入れていました」


「では何でその事を我々や三刃君に伝えなかった?」


「翡翠ちゃんを戦いに巻き込むのが嫌だったからです。三刃君と会った時のように翡翠ちゃんは戦う力がありません」


「……そうか。お前の気持ちは分かった。だが、ジズァーが復活した今、彼女も戦いに巻き込まれる可能性はある。その時、お前はどうする?」


「守ります。この命に変えても」


「……分かった。この事は三刃にも伝えておけ。必ずお前の力になる。娘達の方は私から話しておく」


「分かりました。白雪支部長」


 湯出はこう言うと、席に座った。その後、白雪支部長は大声でこう言った。


「いいか!次の我らのする事は風の巫女かもしれない護天翡翠を守る事!気付かれたら彼女も戦いに巻き込まれる可能性もあるため、気付かれずに護衛しろ!そして、ジズァー一味の討伐だ!分かったら返事をしろ!」


 直後、室内に大きな返事が轟いた。


「よろしい!では早速行動に移せ!」


 この一言で会議は解散した。会議後、湯出は自室に戻り、携帯を手にして考え事をしていた。そして意を決し、湯出は三刃の携帯に電話をかけた。

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