第9話 ジズァーの狙い

とある森の中。ジズァーとシニタは木の根や草をかき分けて移動していた。


「全く、あのオッサンの弟子はここにいるんですかね~?」


 ぼやきごとを呟きながら、シニタは歩いていた。


「お前がここにいるって言ってたじゃないか」


 木の枝をかき分けながら、ジズァーはこう言った。しばらく先に進むと、ジズァーは何かを見つけ、シニタを呼んだ。


「これを見ろ」


「見ろって……ただの枝じゃないですか」


「お前から見たらただの枝だな。だが、これはこの近くにあいつがいるという証拠だ」


「へ?何で分かるんですか?」


「切り口を見ろ。踏んで折ったり手で折ったりすれば、切れ口はばらばらだ。だが、この枝は綺麗に斬られている。刃物で斬られた証拠だ」


「本当だ」


 会話を終えると、ジズァーは大きな声で叫んだ。


「バヌア!私だ、ジズァーだ!姿を見せてくれ!」


 この叫びの直後、後ろの木から物音が聞こえた。音を聞き、ジズァーはにやりと笑って後ろを向いた。


「久しぶりだな。バヌアよ」


「お久しぶりです、ジズァー様」


「アンタも歳とったわね。確か今年で三十四だっけ?」


「お前も変わってないな。三十路のくせに」


「アンタも三十路じゃないの。あ、三十路越えてたか」


「年齢の話はこれで終わりだ。人は減ったとはいえ、十四年前の主要メンバーがそろった」


 ジズァーはシニタとバヌアを見て、こう言った。


「あの時は魔法結社のせいで大きな痛手を負ったわね」


「師匠も命を落とす事になった……あいつらだけは許せん!」


「さて、今回は確実に成功させよう。巫女を手に入れ、世界をこの手にするほどの力を手に入れるのだ」


 ジズァーの声を聞き、シニタとバヌアは笑みを見せた。その後、三人は魔力を解放させ、森を焼き払った。


「さぁ行こう!世界を手に入れるために!」




 夜。三刃は修業を終え、帰路についていた。しばらく歩くと、何かの気配を感じた。姫乃や服部は先に帰っている。やるしかないかと思い、三刃は宝石を持って気配を感じた方へ向かった。


「やっぱり。モンスターがいたか」


 気配の元はモンスターだった。数は三匹ほど、大きさは三刃より少し大きめ。三匹とも、鋭い爪と背中に羽をはやしていた。


「修業の成果を試すか」


 三刃は剣を出し、近くにいるモンスターに斬りかかった。三刃に気付かなかったモンスターはそのまま三刃に斬られ、消滅した。


異変に気付いたモンスターが三刃の方を見たのだが、三刃は剣を構え、近くにいたモンスターに斬りつけた。 やったかと三刃は思ったが、モンスターは攻撃を察して防御していた。しかし、三刃の攻撃が早く、モンスターは片手を失っていた。


「好都合!」


 モンスターの隙を狙い、三刃はモンスターの頭めがけて突きで攻撃した。攻撃が届くようにと風を纏わせたため、攻撃の鋭さは普通の突き攻撃より威力が増していた。そのため、攻撃時に鋭い風がモンスターの体を貫いた。


 仲間を一瞬で倒され、残されたモンスターは三刃に恐怖を抱き、後ろを向いて逃げようとした。


「モンスターでも逃げたいと思う時があるんだな」


 逃げるモンスターを見て、三刃は小さく呟いた。この直後、上空から炎の雨がモンスターを貫いた。


「どう?修業の成果はあった?」


「姫乃……帰ったんじゃなかったのか」


 屋根の上にいる姫乃を見て、三刃はこう言った。姫乃は屋根から降り、三刃に近づいた。


「モンスターの気配を察してね。でも、三刃君が一瞬で片づけたから私の出番はなかったわね」


「出番を奪ってすまないな」


「別にいいわ。こんな短期間で強くなるなんて、三刃君本当は魔力の才能あるんじゃない?」


「かもな。そうだ、話変わるけど、輝海さんの容体は?」


「大丈夫のようだけど、まだ面会謝絶。完全には治ってない」


「そうか……また父さんの事を教えてもらおうと思ったけど」


「三刃君のお父さん……私、少し知ってるわ。輝海さんから聞いた事がある」


「本当か?」


「ええ。バカだけど、優秀な魔法使いで、どんな任務も完璧じゃあないけどごり押しで全て解決したごり押し野郎って」


「……性格が僕と正反対だ」


「お母さん似なのね」


「母さんね……父さんの事は話に聞いたけど、母さんの事はまだだな……」


「また輝海さんに聞けば分かると思うわ。面会ができるようになったらまた連絡するわ」


「ありがとう。じゃあ僕は帰るよ。翡翠が心配してると思うし」


「そうね。あの子達も先に帰らせたから遅く帰ったら後でなんて言われるか……」


「確かにあいつらなら何か言うな。じゃあまた明日な」


「ええ。気をつけて帰ってね」


「お前もな」


 と言って、二人は帰って行った。




 輝海は病室のベッドの上で、自分の手を動かしていた。ジズァーとの戦いの後、大怪我を負った輝海はすぐに治療されたが、しばらくの間は動くなと医者から言われたのだ。指を少し動かしても痛みは来ないが、大きく動かしたとたんに全身に痛みが走った。


「グッ!」


「輝海さん、無茶しないでくださいよ」


 湯出が病室に入り、輝海にこう言った。


「……そうだな……少し焦り過ぎた」


 輝海は息を吐き、上げていた腕を下ろした。湯出は近くの椅子に座り、置いてあったお茶を入れて飲み始めた。


「おい、三刃達の修業はどうだ?」


 修業の事を聞かれ、湯出は持っていた茶飲みを机の上に置き、返事を変えした。


「少しずつ強くなっていますよ。忍者の子も一緒にやっています」


「もしかしたらあの家の子か。そうか」


「……でも、このままでも無理なんですよね。ジズァーとの戦いには」


「ああ。十四年経って腕は落ちたもんだと思ったが、実際は違ってた。確実にあの頃より強くなってる」


「……輝海さん。相葉さん達の死因を三刃君に詳しく教えた方がいいですかね?いずれ、知ることになるだろうし」


「いや、止めておけ。逆に三刃を熱くさせるだけだ。相葉もそうだったろ、熱くなったら誰の言う事も聞かずに突っ走る。三刃君もあいつの血を引いている。きっとあいつみたいに突っ走ると思う」


「……ですよね。でも、俺何だか三刃君が何らかのきっかけでジズァーが親の仇だって知るかもしれないって思うんですよ……」


 湯出のこの言葉を聞き、輝海はため息を吐いてこう言った。


「そん時は俺がカバーしておく。それまでに怪我は治す」


「そうですか……あ。一つ聞きたい事があるんだった」


「何だ?」


「風の巫女の事です」


「風の巫女……ね」


 しばらくの間、輝海は黙っていた。この様子を察し、湯出は声を出した。


「あの、まだ見つかってないのならいいんですよ。ただ、ジズァーの狙いが巫女の可能性もあるので」


「分かってるのは火の巫女だけだ。そっちは何とかなるけど、風の方はいるかもしれないという可能性なだけだ」


「でも、あいつらが動くとなれば、もしかして……」


「分かってる。俺は怪我を治す事に集中してるから、お前はお前で出来ることを精一杯やれ」


「分かりました。では」


 と言って、湯出は去って行った。一人になり、輝海はため息を吐いて小さく呟いた。


「風の巫女……もしかして……な」




 翌日。三刃は湯出の修業を行っていた。激しいモンスターの猛攻が三刃を襲うが、隙を見て三刃は風の刃を出してモンスターを切り裂いて行った。


「よし!次!」


「次からは百単位でモンスターを出すぞ!気を抜くなよ!姫乃も凛子も凛音も忍者の子もな!」


「はい!」


 その後、三刃達の目の前に大量のモンスターが現れた。三刃が剣を構え、モンスターの群れに向かって走って行った。その後ろに姫乃がいた。三刃が数匹のモンスターを倒したのを見計らい、姫乃は高く飛びあがって炎を放った。炎は広い範囲に広がり、モンスターを灰にしていった。


 だが、倒せたのは目の前のモンスターだけで、両側にいるモンスターは倒せてはいなかった。


「凛子!凛音!両側のモンスターをお願い!」


「服部、あいつ等を手伝ってくれ。目の前のモンスターは僕と姫乃で片付ける」


「分かった」


 服部は後方に飛びあがり、両手に無数の手裏剣を持ち、両側にいるモンスターに向けて投げつけた。


「火遁……裂手裏剣!」


 投げられた手裏剣から炎が発し、激しい音を立てながらモンスターに向かって飛んで行った。モンスターに刺さった手裏剣は、激しく燃え上がり、爆発した。


「すご……」


「最近の忍者さんは凄いんですね」


「当たり前だ。忍者も時代に合わせ、成長している」


 ドヤ顔混じりの笑顔で、服部はこう言った。


 一方、三刃はひたすら目の前のモンスターを斬っていた。一太刀で確実にモンスターを倒す三刃の姿を見て、姫乃は動きを止めていた。


「姫乃、どうしたんだ?怪我でもした?」


「ううん。三刃君が本当に強くなったなって思って」


「強くなったか……確かに自分でも思うよ」


 この時、三刃は後ろを振り向いて襲ってきたモンスターを斬った。すぐに姫乃の方を見て、話を続けた。


「今、分かってたの?」


「モンスターの唸り声が聞こえてさ」


「そう」


 この時、三刃の体がよろめき、その場に倒れた。


「あ……あれ?」


「頑張り過ぎた様ね」


「まだ……やれる」


 と言ったが、三刃の体は立ち上がろうとはしなかった。足に力を入れているせいか、足が震えていた。


「嘘だろ……足が動かない……」


「動き過ぎたのよ。後は私に任せて」


 姫乃は三刃の前に立ち、刀を装備してモンスター達に向かって行った。


 走って行く姫乃の姿を見て、三刃は無茶だと言いかけたのだが、その言葉は途中で止まった。


 姫乃の強さはそれなりに知っている。モンスターの一匹は軽く倒せ、炎の魔法を自由自在に操れる。姫乃はこの程度の実力だと三刃は勝手に思っていた。


 姫乃は炎を刀に纏わせた後、目の前のモンスターの頭を刺して倒した。続けて、倒したモンスターを踏み台にし、空高く飛びあがった。姫乃の後を追うように、下にいたモンスター達が飛びあがったが、飛びあがった時の隙を狙い、姫乃は炎の魔法を飛んでくるモンスター達に浴びせたのだ。


 しばらくし、姫乃の体が徐々に落ちて行った。この時、姫乃は刀を構え、大きいモンスターの方に向かって少しずつ体をずらしていた。そして、落下スピードを利用して、姫乃は大きいモンスターを一太刀で始末した。


「どう?これでもまだ半分ほど本気出してないんだけど」


 三刃の方を見て、ウィンクをしながら姫乃はこう言った。


 数分後、百匹以上いたモンスターは全て倒された。三刃も立ち上がれるほど体力が回復し、姫乃と共に歩きだした。


「三刃君、本当に強くなったわね」


「いや……姫乃より弱いよ。お前、本当はどんだけ強いんだ?」


 三刃にこう聞かれ、姫乃は考え始めた。しばらくし、姫乃はこう三刃に答えを変えした。


「秘密」


「秘密って……強さに秘密もないだろ」


「私は女の子なのよ。男の子より強いんじゃあちょっと……ね」


「別にいいだろ。いずれ姫乃より強くなってやるんだから」


「言ったわね」


「男に二言は無い」


 姫乃と会話をする中、凛子が飛び蹴りで三刃に襲いかかった。


「楽しそうにおしゃべりをする暇があったらさっさときなさァァァァァァァァァァい!!」


「ウボァァァァァァァァァァァ!!」


 凛子の飛び蹴りを喰らい、三刃は後ろの壁に吹き飛んだ。さらに追い打ちを仕掛けようとしている凛子を止め、姫乃は湯出の方を向き、大声でこう言った。


「湯出さん!三刃君の治療をお願いします!」


「分かった。じゃあお前はそのじゃじゃ馬を何とかしててくれよ」


「はい」


 その後、湯出は三刃の治療を始めた。治療する中、湯出は昔の事を思い出し、少し笑った。


「何がおかしいんですか?」


「いや、いつも無茶する相葉さんをこうやって治してたなって思い出して」


「父さんですか……僕の父さん、他の皆さんに迷惑をかけてたんですね」


「ああ。いっつもセクハラまがいの事言ってたし、現場でも何も考えず先走ってたな。でも、あの人のおかげでいろんな事件が大事になる前に解決していった」


「優秀だったんですか?」


「一応ね」


「じゃあ母さんはどうだったんですか?僕、母さんの事は何も知らされてないんです」


「……君の母さんか……あの人は……」


 この直後、湯出の携帯が鳴り響いた。湯出はポケットの中の携帯を取りだし、会話を始めた。


「はい湯出です。え!はい……はい……分かりました。すぐに結社に向かいます。三刃君達は帰らせます」


 と言って、湯出は携帯をしまった。


「皆、悪いけど急用が出来た。ちょっと早いけど、今日はこれで修業は終わりだ。各自家に戻って休むように」


「はい。分かりました」


 その後、三刃は修行場から外に出た。姫乃達の姿を見なかったため、先に帰ったんだなと三刃は思った。

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