第8話 修行開始

 夕方、三刃は出かけてくると翡翠に伝え、湯出宝石店に向かった。歩いていると、横の道から姫乃と凛音、凛子と合流した。


「三刃君」


「姫乃、お前も今行くところだったんだ」


「あんた!お姉ちゃんと会うようにして時間調整したんじゃないでしょうね!」


「そんなストーカーみたいな真似はしない」


「そうよね。時間の無駄だもんね」


 くすくす笑いながら、凛音が呟いた。その後、姫乃達と湯出宝石店へ向かい、店の入り口で待っていた湯出の元に向かった。


「よう。待ってたよ」


「湯出さん。修業って何するんですか?」


「体を鍛えるだけだ。鍛えられた分だけ魔力が増えるんだ」


「そうなんですか?」


「ああ。君も感じてるだろ?鍛えた分だけ魔力を使う時間が増えたって」


「なんとなくは使える時間が増えたと思っていますけど」


「強くなってる証拠だ」


「でも、それ以上に強くならないといけないんですよね」


「ああ。じゃあ早速俺の部屋に行くぞ」


「え~?あの気持ち悪い部屋に~?」


「気持ち悪い言うな!」


 その後、三刃達は湯出の部屋に向かった。


「ちょっと待ってろよ」


 湯出は床を叩き始めた。すると、床から取っ手が現れた。その取っ手を握り、床を上に上げた。


「さて、修行場へ行くか」


 梯子を使って下に降り、三刃達は湯出の修行場へ向かった。修行場は体育館みたいなつくりになっているだけで、周りには何もなかった。


「何もありませんね」


「当たり前だ。壊れた時に金がかかるからな」


「あ、お金の問題か……」


「これ作るのに何万もかかったからな。話は置いておいて、修業を始めよう」


 その後、三刃達は宝石を取り出し、各々の武器を取りだした。


「よし、武器を出したな」


 そう言うと、湯出は手元のスイッチを操作し始めた。しばらくし、三刃達の目の前にモンスターの形をした物体が現れた。


「何だこれ!?」


「魔力で作られた偽物のモンスター。偽物だけど、戦闘力は本物と変わらない。死にはしないけど怪我はすると思う」


「修業ってまさか……」


「そう。自分より強い奴と戦って成長しろってこと」


「基本とか学ぶんじゃないんですか!」


「戦い方の基本なんて人それぞれだ。まだ決まってないのなら自分で自分の戦い方を見つけ、それを物にしておけ」


「無茶言わないでください!」


「無茶言わないと強くならないの!それじゃあ修業始め!」


 そう言うと、湯出はスイッチを押して偽物のモンスターを出現させた。数は百体以上。そのほとんどが三刃達に向かって襲いかかった。


「やるしかないわね!三刃君!私と一緒にモンスターの数を減らすわよ!凛子と凛音は援護して!」


「え~!私もお姉ちゃんと一緒にモンスターをやっつけた~い!」


「アンタ達は十分に強いからいいの。三刃君はまだ未熟だから、私が付いてあげないと」


「ぶ~」


「そんな事言って、お姉ちゃん本当は三刃さんの事好きなんじゃないの?」


「そんなわけないでしょ。慣れてる私が付いてあげないと、三刃君って意外と何するか分からない子なんだから」


「おーい!話は終わったかー?」


 前の方で三刃の声がした。姫乃が前を見て、声を失った。あれほどいたモンスターが、三刃の手によって半分ほど数を減らされていたからだ。


「三刃君!ちょっと無茶し過ぎよ!」


「お前らが話ばっかしてるから、危害が及ばないように踏ん張ったんだ」


 後ろに下がり、三刃は姫乃の目の前で倒れた。


「だ……大丈夫!」


「意識はある……ちょっと暴れすぎたから休ませてくれ」


「……分かったわ」


 三刃を寝かし、姫乃は刀を持ってモンスター達の前に立った。


「お、大技を使う気だな」


 姫乃の様子を見て、湯出は興味深そうに姫乃の方を見た。


 目を閉じ、深く呼吸し、姫乃は体の中にある魔力をゆっくりと溜め始めた。そのうちにモンスターの攻撃が姫乃を襲ったが、攻撃が当たる寸前に姫乃は攻撃をかわしていった。


「……今だ!」


 姫乃の目が開き、同時に姫乃の周囲で赤い霧が発生した。


「何だあの霧?」


「魔力の渦よ。よく見なさい、微妙に右周りに動いているでしょ?」


「右……」


 よーく霧を見ると、少しずつだが霧は姫乃を中央にして右に回っていた。


「三刃君。しっかり見てて、魔力を多く使うと技も強くなるって」


 その後、姫乃は右手を前に出した。この時に姫乃の周りに発生した霧が徐々に右手の前に集まって来た。


「喰らって消えなさい、炎滅砲」


 直後、姫乃の右手から激しい炎が直線状に放たれた。姫乃の目の前にいたモンスターは炎に飲まれ、灰になって消えていった。


「な……あ……」


「これが私の全力の技。これでも手加減してる方なんだけどね」


「た……たまげた」


「いずれはアンタもああいう技覚えないといけないわよ」


 腰を抜かしている三刃を立たせながら、凛子がこう言った。それに対し、三刃は凛子と凛音にこう聞いた。


「なぁ、お前らも今みたいな技使えるのか?」


「お姉ちゃんより威力は弱いけど、一応使える」


「私の場合は……相手をバラバラに……」


「凛音、それ以上言わないで」


 凛子が凛音の口を押さえ、こう言った。




 翌日、学校は普通に行く事になった。早朝に連絡網で学校に来ても大丈夫と言う連絡が来たからだ。数分後、登校した三刃はだるそうな足取りで教室に入った。


「三刃、お前何があった!?体傷だらけだぞ!」


 宇野沢が三刃の体を見て、驚いてこう言った。


「ああ……ちょっと派手に転んでな」


「嘘が下手だなー。転んでこうなるわけねーだろ!」


「僕の場合はこうなるんだよ」


「そうよ。私、昨日三刃君が派手に転んでるの見たんだから」


 教室に入って来た姫乃が、宇野沢にこう言った。姫乃の言葉を聞いて納得した宇野沢は、三刃にドンマイと言って席に着いた。三刃も自分の椅子に座り、大きく深呼吸をした。


 昼休み、三刃は食堂で売っているハンバーガーセットを買って食べていた。


「なぁ、三刃お前知ってるか?近所で起きた殺人事件」


「ん……確か今日のニュースで騒いでたな。結構エグイようだな」


「ああ。まだ危険な奴が近所にいるってだけで恐ろしいぜ全く」


 宇野沢は三刃のフライドポテトを手に取り、食べようとした。だが、それに気付いた三刃が宇野沢の腕を掴み、宇野沢の顔を睨んだ。


 その後、三刃は屋上に行き、誰もいない事を察知してため息を吐きながら声を出した。


「服部、僕の後をつけて楽しいか?」


「何故気付いた!?」


 三刃の後ろにあった謎の布から、服部が姿を現した。


「誰だって分かるよ。変な布切れがちょこまか動くなんて、誰だって不審に思うだろうが」


「くぅ……不覚」


「何が不覚だよ」


 三刃はため息交じりにこう言うと、服部に質問をした。


「で、また何か厄介事か?」


「厄介事ではない」


「じゃあ何だ?」


「実は、お前達が修業をしているという話を耳にしてな」


「誰から聞いた?」


「湯出とか言うオタクみたいな人だ。昨日、そこの宝石店からお前達が出てくるのを見てな。そこで店主の湯出と言う奴に聞いたんだ。それで修業しているという事を知った」


「湯出さん……」


「あいつは何者だ?私が忍者と言う事を察知した。まさかあいつも」


「忍者じゃなくて魔法使いな」


 この事を姫乃に伝えよう。三刃はそう思い、携帯を取り出して姫乃に連絡をした。


 数分後、姫乃が屋上に来て、服部と話を始めた。


「服部さん。もしよかったら、あなたも魔力の修業をしない?」


「忍術と言え。だが、お前らと修業か。悪くないな」


 服部が楽しそうにこう言った。三刃は姫乃を呼び、小声でこう言った。


「おい、いいのか?」


「ええ。服部さんの魔力の使い方は特徴的よ。そこから技を盗むのもいいかもしれないわ」


「まぁ……そりゃそうかもしれないけど」


「三刃君、覚悟しておいてね。輝海さんを倒した奴は修業した程度で、倒せないかもしれないわ」


 真剣な顔つきで、姫乃はこう言った。

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