第7話 蘇る悪
ファミレスに着き、三刃達は店員に案内された席に座った。メニューを見て話をする三刃達を見ながら、輝海は大きな欠伸をしていた。その後、周囲を見回し、平穏な時間だと思いながらくつろぎ始めた。
そんな中、コートを着た男性が輝海の横を通った。輝海はコートの男性の顔を見て、驚きの表情を見せた。
「どうしたんですか輝海さん?」
「悪い。急用を思い出した。一万あれば足りると思うから好きなの選べ」
「デザートもいいの!」
「好きにしろ」
と言って、輝海は去っていった。
ファミレスから離れた公園にて。コートを着た男性がその場に立ち、夜空を見上げていた。
「相変わらず夜空は美しいな、闇夜の中にポツリポツリと光る星、そして時によって形が変わる美しい月……」
「何綺麗事言ってんだクソ野郎!!」
輝海が武器を持ち、コートの男性に襲いかかった。
「おやおや。構えを取っていない魔法使いに奇襲をするなんて。結社の魔法使いは卑怯な事をするな。恥を知った方がいいんじゃないか?」
「黙れッ!!恥を知るのはお前の方だッ!!」
輝海の武器がコートの男性に直撃しそうになった。だが、魔法で作られた壁で攻撃は遮られ、輝海の攻撃は弾かれてしまった。
「クソッ!」
次に輝海は槍を出し、再び襲いかかった。
「冷静になれ。当たる攻撃も当たらなくなるぞ」
輝海を見下したような笑みで見て、コートの男性は右手を前に出した。直後、手の平から魔法の波動が次々を出されていき、輝海を襲った。
「ガハァッ!!」
出されていく波動は輝海の全身に切り刻んでいった。攻撃を受け続け、輝海を口から血を出し、その場に倒れてしまった。
コートの男性は倒れた輝海に近付き、輝海の腹の上に手を置き、波動を放った。波動を受け、輝海は更に吐血してしまった。
「今の攻撃で内臓を潰してやった。もう動くな、まだ相葉とか言ったバカな魔法使いの所に行きたくないだろう?」
「お前が相場の事を……あいつの事を……」
輝海は地面に落ちた槍を持ち、歯を食いしばって力を込め、コートの男性に向けて槍を投げた。
「バカって言うな!クソ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おやおや、悪あがきか。無駄な事を」
片手を掃って輝海が投げた槍を跳ね返し、コートの男性は倒れた輝海の顔を上げた。
「そろそろ楽にしてやろう。大丈夫だ、一瞬であの世へ行ける」
コートの男性は輝海の頭部を破壊して止めを刺そうとしたが、後ろから誰かの足音が聞こえた。コートの男性は腕を下ろし、少し笑って輝海にこう言った。
「君は運がいい。寿命が延びたな」
そう言って、コートの男性は消えた。輝海は安堵の息を吐き、しばらくして立ち上がった。
「クソ……あいつが復活していやがったのか……」
「輝海さん!」
公園の入り口から湯出の声が聞こえた。湯出は大型バイクに乗っており、前に付けられたかごにはアニメキャラのフィギュアが大量に入っていた。
「湯出か……アニメショップの帰りか?」
「そうですけど、何ですかその傷、強い奴と戦ったんですか!?」
「ああ……名前を言ったら驚くぜ」
「誰ですか?」
「ジズァー・ヴァルザード。あのクソ野郎、復活しやがったんだ」
「……とりあえず俺の家に行きましょう。後ろ座れますか?」
「何とかな」
その後、輝海は湯出の後ろに座り、湯出宝石店に向かった。店の奥に行き、湯出は輝海を寝かせ、治療魔法を使い始めた。
「ありがとよ」
「いいって事です。でも、俺ができるのは応急処置レベル程度ですから、結社に戻ってからはちゃんと治療して下さいよ」
「分かってるって」
数分後、治療を終えた輝海は結社に戻って行った。湯出はため息を吐き、自室に向かった。奥にある棚を開け、中にある小さな箱を取り出した。
「俺も戦う時が来たのかな……」
ジズァーは輝海と戦った後、住宅街を歩いていた。涼しい風を感じつつ、鼻風を歌いながら歩いていた。
しばらくし、三人組の不良が彼を見て、いいカモが来たと思いながら近づき、わざと肩にぶつかった。
「あいた!あいたた~」
「オイ!そこのコートのオッサン!」
「何俺のダチにぶつかってんだ!謝れよ!」
「おお、これはこれは。すまない事をした」
「言葉で済む問題じゃあね~よな~?あぁ?」
「おい、大丈夫かダブちん?いたくねーか?」
「痛いよ~、肩が動かね~よ~」
「まさか肩が折れたのか?」
「みたいだ~」
「肩が折れた?」
ジズァーはタブちんの肩を見て、小さく笑った。
「折れては無いようだな。折れたというのはこういう事を言うのだ」
そう言うと、左手でダブちんの肩を触り、力を入れて肩の骨をへし折った。
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うわ!」
「このオッサン、タブちんの肩を!」
「痛い!マジで痛い!救急車呼んでくれよ!早く!」
「その前にあの野郎をぶっ殺してやる!」
「今度は殺意を見せたか。面白い輩だな」
ナイフを持った不良に対し、ジズァーは右手を前に構え、魔力を込めた。次の瞬間、ナイフを持った不良の上半身は木端微塵に吹き飛び、残った下半身はその場に倒れた。肉片や血、臓器の欠片がくっつき、もう一人の不良の顔が真っ青に染まった。
「う……うわあああああああああああ!!」
「大丈夫だ。すぐにお前のダチの所に行かしてやる」
「その役目、私に任せてよ!」
上空から女性の声が聞こえた。不良の一人が空を見ようとしたのだが、その前に彼の体は真っ二つに斬られてしまった。
「シニタか。相変わらず派手な登場だな」
「お久しぶりですジズァー様!十四年ぶりですね!」
「ああ。あの頃から時間が経過したが、お前は大人っぽくなったな」
「あの時は私十六歳でしたから、もう三十路突入ですよ~」
「その歳でその喋り方は止めた方がいいと思うが……」
「そうですか~?皆から受けてるのに~」
「お前が変える気がないなら、それでいい。すまん、ちょっと待っててくれ」
ジズァーは会話を止めた後、折れた肩を支えて逃げるダブちんの姿を見つけた。
「殺しますか?」
「私がやろう。ウォーミングアップのついでだ」
そう言うと、右手の人差し指を少し動かした。それと同時に、ダブちんの首が切断され、頭部が遠くに飛んで行った。
「これでよし」
「エグイ殺し方ですね~」
「真っ二つにして殺すよりましだろ。それより、他の仲間はどうなった?まさかお前だけか?」
「……はい。後の皆は皆魔法結社の連中に捕まりました。そして、全員処刑されました」
「そうか……仕方ない、残った我々で野望を達しよう。死んでいった者たちへの復讐もついでにな」
「それいいですね!」
「しかし、動ける時まで待て。それまではどこか身を休める場所で休もう。久しぶりに魔力を使ったせいか、少し疲れた」
「大丈夫です!私、いい場所知ってます!廃墟ですけど」
「休む事が出来るのであれば何でもいい。そこまで案内してくれ」
「りょーかい!」
その後、ジズァーとシニタの姿が一瞬のうちに消えた。
翌朝。三刃は欠伸をしながら起き上がり、リビングに向かった。
「お~す翡翠」
「おはようお兄ちゃん」
と、テレビを見ながら翡翠は挨拶をした。
「何だ?おっかない事件があったのか?」
「うん。何か昨日の夜中に殺人事件があったんだって」
「夜中?どうせヤンキーの喧嘩だろ?」
「でも、ヤンキーの喧嘩で体が真っ二つになる?上半身が無くなる?頭が吹っ飛ぶ?」
翡翠のこの言葉を聞き、三刃は少し疑問を持った。
「どのあたりだ?」
「この地域よ。しかも、お兄ちゃんの学校近くの住宅街で起きたって」
「僕の学校の近くか……」
この直後、家の電話が鳴り響いた。翡翠が受話器を取って応対したが、すぐに三刃に変わるよう促した。
「誰?」
「クラスメイトだって。女の人」
翡翠の変な視線を感じながら、三刃は受話器を取った。
「どうした姫乃?」
『あら、どうして私と分かったの?』
「大体僕に連絡してくる女の人ってお前しかないと思ってさ」
『そりゃそうね』
「で、話って?」
『今日学校休みみたいよ』
「危ない殺人事件が起きたからな。そりゃ学校休みになるよな」
『だけど、今日の夜その件を調べるわよ。犯人が魔法使いの可能性があるから』
「かもな」
『かもなじゃないわよ。昨日、湯出さんから緊急で連絡があったのよ。輝海さんが大怪我を追って結社に戻って来たって。輝海さんを倒した奴が今話した殺人事件の犯人の可能性があるわ』
この一言を聞き、三刃の血相が変わった。三刃は翡翠の方を見て、少し考えながら姫乃にこう言った。
「この話は後で」
『妹さんがいるんだっけね。巻き込むわけにはいかないわね』
「ああ。悪いな」
『じゃあまた夜に会いましょう。あと一つ、犯人らしき人物にあっても絶対に戦わないでね』
「分かってるよ。じゃ、夜にな」
その後、三刃は受話器を置き、朝食が置かれているテーブルに向かった。椅子に座ってニュースを見ながらパンをかじる中、三刃は翡翠にこう伝えた。
「そうだ。僕んとこの学校休みになったから」
「私もそうよ。多分この地域全体学校が休みになったよ。それより、電話の相手の女性とどんな関係?やけに親しそうだったけど」
「よく話す仲だよ。腐れ縁だ」
「へ~」
本当に腐れ縁?と、言いたそうな視線を向けられ、三刃は口を閉じてしまった。
その後、三刃は自室でゲームをしていた。しばらく遊んでいると、携帯電話が鳴り響いた。相手は非通知、少し不信感を持ちながら三刃は携帯に出た。
「もしもし?」
『あ、三刃君か?』
電話の相手は湯出だった。安心してため息を吐き、三刃は湯出と話を始めた。
「僕の携帯の番号知ってたんですね」
『ああ。姫乃から聞いたんだ』
「姫乃にも言ってませんが……」
『君の友人辺りに聞いたんだろ』
「そうかもしれません。それで、用件は何ですか?」
『輝海先輩の事だが……』
「姫乃から聞きました」
『やっぱり。じゃあ次の話をしよう』
「次の話?」
『そうだ。内容は君と姫乃と凛音と凛子の修業だ』
「……もしかして話題の殺人犯に対抗するために」
『その通り。今輝海さんが傷ついて動けない。だから、君達の強化が必要なんだ』
いつもより真面目な湯出の言葉を聞くうち、三刃は話題の殺人犯がどれだけ強いかが気になった。湯出の語りが終え、三刃は殺人犯について話題を切り出した。
「その殺人犯って、やっぱり魔法使い何ですか?」
『ああ。ジズァー・ヴァルザードって名前なんだ……この話は時間がある時にしよう。後、修業は今日の夕方から。俺の宝石店前に集合。もう姫乃達には伝えておいたから』
「はい」
『じゃあ待ってるよ』
と言って、湯出は電話を切った。三刃は悟った。ジズァーという魔法使いが、どれだけ強いのか、自分がどれだけ弱いのか。確実に今のままジズァーと戦ったら確実に負ける。三刃は話を聞いてそれを理解した。
強くならねば。
心の中で、三刃はこう誓った。
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