第6話 モンスターの作り方

 翌日、三刃は大きな欠伸をしながら登校していた。自宅と学校の中間にある住宅街を歩いていると、上から人の気配がした。あいつだと思いながら、三刃は声を出した。


「何か用か服部?」


 声をかけられ、服部は慌てながら地面に降りた。降りた際、彼女は転倒してしまった。


「いつつ……」


「オイオイ大丈夫か?」


 心配した三刃は服部の元に近づき、服部に怪我がないか調べた。三刃は服部の左膝に擦り傷がある事を知り、持っていた絆創膏を傷の上に貼った。


「これで心配ないな」


「む……すまない」


「いいってことさ。今度から無茶して上から来るなよ」


「そうでなければ忍者としての誇りが……」


「そんなの知らないよ。また無茶して怪我しても知らないぞ」


「むぅ……」


「どうした?僕を睨んで」


「何でもない。ではまた学校で」


 と言って、服部は煙玉を地面に叩きつけて煙を発生し、その場から去った。


「ったく……煙玉で逃げるなよ……ゲホゲホ!」


 咳き込みながら、三刃は小さく呟いた。


 学校に着いた直後、姫乃が挨拶をしながら近寄り、そのまま三刃と共に歩き始めた。


「昨日はお疲れ様。初めて犯罪者を相手にした感想は?」


「僕が活躍したってわけじゃないだろ。君の妹達があいつを酷い目にあわせただけだろ」


「でも、三刃君が見つけなかったらあいつを捕まえられなかったわ」


「そうだな。今日の夜、またパトロールするのか?」


「もちろん。三刃君も来るよね?」


「ああ。翡翠になんていうか考えてるよ。の、前に」


 三刃は姫乃に待つように言い、後ろを向いて歩いて行った。実は、宇野沢がこっそりと三刃と姫乃の後を追っていたのだ。それを知った三刃はクラス内で変な噂をされないため、宇野沢を捕まえ、睨みながらこう言った。


「宇野沢。分かってるよな?」


「はいはいはいはいはいはい!この事はクラスの皆様には絶対に!絶対に絶対に絶対にぜぇ~~~~~~~~~~~ったいに話しません!」


「分かってるならいいが、もし話したら……」


「分かってます!自分が地獄を見る事を承知しておりますぅぅぅぅぅぅ!!」


「ならいいけど……」


 話を終え、三刃は姫乃の元に戻ろうとした。宇野沢は三刃の背中を見て、ため息を吐いてこう言った。


「お前、何か悩みっぽいものを抱えてるだろ?」


「……別に何も抱えてないけど。どうした急に?」


 魔法の事がばれたかと思い、三刃は少し焦ったが、宇野沢は三刃の顔を見て、笑いながらこう言った。


「何か抱えたら相談しろよ?長年の付き合いじゃねーか」


「宇野沢……」


「姫乃さんの事で何かあったら言えよな~」


「大丈夫だ。その事についてはお前には絶対に言わん」


「お?その言葉は姫乃さんと何かあったな~」


「何もない!」


 自分をからかう宇野沢に向かって叫んだ後、早足に三刃は戻って行った。


 教室に入り、三刃は自分の席に座った。机の中にある教科書の整理をしていたが、後ろから手紙らしき物が飛んできた。教室の後ろにいた服部が、一瞬だけこっちを見た。きっと何か用があるのだろうと思いながら、三刃は手紙を見た。


『今日の放課後、学校の近くにある公園に来て欲しい』


「何の用だか……」


 三刃は呟きながら、手紙をしまった。


 放課後、三刃は学校の近くの公園に来ていた。服部の事だから、木の上にいるだろうと三刃は考え、木を調べ始めた。木を触っていると、木の中から女の子の声が聞こえた。


「お前!ど……どこを触っている!!」


「服部!まさか……」


 改めて木を触ると、一部分だけ布らしき物で出来ていた。三刃はその布を取り、目を丸くして驚いた。


「服部……忍者キャラを貫くのにそれ必要か?」


 隠れていた服部を見て、三刃はこう言った。だが、服部は少し涙を浮かべてこう叫んだ。


「うるさい!私の胸を触ってそんなセリフを言うか!」


「え?ごめんごめん!こんな所にいると思わなかったんだよ!」


「そうか……悪気はなかったのだな」


「ああ。本当にすまなかった」


「その言葉は嘘ではないな。なら許す」


 その後、服部は三刃が持つカモフラージュの布を受け取り、持っていたバックにしまった後三刃にこう言った。


「お前に相談がある」


「僕に?」


「お前、夜に現れる化け物と戦っているようだな」


「モンスターの事か」


「そうだ。実は、そいつらを操る者がいる」


「服部さん、この話本当かしら?」


 姫乃が現れ、話に割って入って来た。三刃は驚き、服部は目を丸くしていた。


「姫乃!お前いつの間に!?」


「三刃君が間違えて服部さんの胸を触った所から」


「ほぼ最初からいたじゃないか!」


「面白そうだったから様子を見ていたのよ」


「お前……気配を隠していたな。まさか、本当は忍者なのか!」


「違うわよ。それより、詳しく話を聞かせて」


 その後、服部はモンスターを操る人の事を、三刃と姫乃に話した。


 昨日の夜、服部はモンスターがいないか町を回っていた。途中小さなモンスターと戦ったが、大した強さではなかった。


 だが、モンスターの数が異様に多かったのだ。不審に思った服部はモンスターが現れた周辺をくまなく調べたのだ。調べるうち、不審な人物を見つけ、後をつけた。そして、服部はその人物が魔力を使い、小動物の死骸からモンスターを生み出していたのだ。


 捕まえて話を聞こうとしたのだが、モンスターの数が多く、苦戦すると予想した服部は一旦戻った。


「モンスターを作る奴……高度な魔法使いね」


「モンスターって作れるのか?」


「ええ。簡単に説明すると、モンスターの元は動物の死骸。それに空中に漂っている微量の魔力が徐々に死骸に蓄積されて、モンスターになる」


「じゃあ、誰かがわざと死骸に魔力を入れてモンスターにする事も出来るのか?」


「可能よ。本当は規則で禁止されてるけど、守らないバカもいるの」


 話を終え、服部は三刃と姫乃にこう聞いた。


「私の願い、聞いてくれるか?結社には私から話を通しておく」


「分かったわ」


「僕も手伝うよ。犯罪者は倒す」


「すまない。では今宵、またこの公園に集まってくれ。では」


 と言って、服部は去っていった。


「モンスターを作る奴か……どんな奴なんだろう」


「輝海さんが言ってたわ。モンスターを作る輩はバカしかいないって」


「そうか。ま、犯罪だしな」


「じゃあ私達も帰りましょ。また夜に会いましょう」


「ああ」


 その後、夜に会う約束をして二人は帰った。




 数時間後、三刃は翡翠に出かけると言って集合場所の公園に向かった。公園に着き、三刃は周囲を見回した。


 辺りには誰もおらず、三刃は自分が先に着いたのかと思った。座って待とうとしてベンチに座ったのだが、後ろから何者かが三刃の後頭部を強く叩いた。


「イテッ!」


「アーッハッハ!ざまーみろばーか!お姉ちゃんと二人っきりにはさせないよーだ!」


「残念でした」


「この憎たらしい声……お前ら……」


 三刃は後ろを振り向き、凛子と凛音を睨んだ。二人の後ろにいた姫乃は慌てて三刃の元に近づいた。


「ごめんね。この二人に公園に行く事がばれちゃった」


「謝らなくてもいいよ。仲間は多い方がいいんだけど……できれば輝海さんか湯出さんが来ればよかったな」


「仕方ないわよ。あの二人は忙しいんだから。でも、噂の魔法使いは雑魚らしいから、私達だけで大丈夫よ」


「あ、そう。それより服部はまだいないのか?」


「もういる」


 公園の中央に落ちていた大量の落ち葉の中から、服部が現れた。


「うわ!」


「何なのこの人!?」


「お姉ちゃんのクラスメイトよ。ちなみに忍者」


「忍者だから隠れて移動しなければ……」


「その設定はいいから。で、モンスターを生み出す奴はどこにいたの?」


「この辺りだ。案内する」


 その後、服部の案内で三刃達はモンスターを作る魔法使いの元に向かった。


 服部が言う目撃場所まではかなり険しい道筋だった。塀の上を走っていくと思ったら、次は下水道の中、そして屋根の上を飛んで移動したりした。隣町の住宅街の外れに来て、服部が指を刺した。


「ここだ。私がモンスターを作る奴を見かけたのは」


「そ……そう……」


 息を切らしながら、三刃が返事をした。姫乃は呼吸を整えようとしているのか、苦しそうな顔をして、凛子と凛音は疲れ果ててその場に座っている。


「だらしないな。この程度で疲れたのか?」


「当たり前だ。皆がお前みたいに素早く移動できるかよ……」


「これでもお前達の速度に合わせて移動したのだが……」


 呆れた服部がこう言うと、何かを察し、三刃達に大きな音を出すなと合図した。


「もしかしているのか?」


「ああ。昨日見た化け物を作る奴がいる」


「よし、相手が気付かないうちに奇襲して……」


「凛音、落ち着きなさい。相手は一人のようだけど、モンスターを作るのよ。モンスターに襲われるかもしれないわよ」


「いや……もう遅い。襲われてるよ」


 三刃は剣を出し、上空に向けて風を放った。服部は持っていた手裏剣を後ろに投げ、背後から襲おうとしたモンスターの額に命中させた。


「戦闘開始ね!皆、怪我しないでね!」


「分かったわ!」


「僕があの魔法使いと戦う!姫乃達はモンスターの相手をしてくれ!」


「偉そうにするな!私が行くからアンタは援護をしなさい!」


 相手の魔法使いがいる場所に向かって、三刃と凛子は走り出してしまった。姫乃は二人を見て、大きな声で叫んだ。


「二人とも無茶しないで!」


「お姉ちゃん、前にモンスターが!」


「クッ!邪魔よ、どきなさい!」


 姫乃は刀で目の前にいたモンスターを斬り払い、三刃と凛子の方に向かった。だが、服部が姫乃より早く三刃と凛子の元に向かっていた。


「先走った二人は私に任せろ。お前達は化け物の討伐を集中してくれ」


「……ごめんね服部さん」


「詫びの言葉を言うな、困った時はお互い様だ」


 と言って、服部は両手に手裏剣を持ち、三刃と凛子の前にいるモンスターを見て、両手の手裏剣を投げた。


「服部!」


「忍者さん!」


「私が後ろで援護する。お前達はこのまま相手の方に向かって走れ」


「ああ!ありがとう!」


 三刃は剣を構え、走って行った。


「ウッ……来るなガキ!俺の邪魔をするな!」


 怯えた魔法使いは、急いでモンスターを創り出し、三刃に向けて突進させた。三刃は突進してきたモンスターを剣で倒した。


 一撃で倒されたモンスターの死体を見て、魔法使いの顔が真っ青に染まった。更に、上空から凛子が槍を構えて接近してきたのだ。


「くたばれ!この犯罪者野郎!」


「う……うわああああああああああああああああ!!」


 凛子の攻撃を防御したが、勢いに負けて魔法使いは後ろに転んでしまった。起き上がろうとしたのだが、倒れた隙を狙って接近した三刃が、剣の刃を魔法使いの首に近づけていた。


「この次変な動きを見せたら、どうなるか分かるな?」


「あ……ああ……」


「後ろにある武器で奇襲しようとするな」


 三刃の背後にいた服部が手裏剣を投げ、魔法使いが取ろうとしていた宝石を破壊した。


「あなたを捕まえます。抵抗せずに僕の言う事を聞いてください」


「分かった!分かったよ……」


 魔法使いは三刃の言う事を聞いた。その後、魔法使いは魔法結社に連行され、三刃達も事の説明をするため魔法結社に向かった。


 数分後、三刃達は湯出宝石店から出て、話を始めた。


「私の用に付き合ってくれてありがとう。感謝する」


「いいえ。お礼を言うのは私達の方よ。あなたがいなければあの魔法使いは捕まらなかったし」


「そうか……」


「忍者もやるじゃない!」


「カッコいい……」


 凛子と凛音の言葉を聞き、服部の頬が赤くなった。その時、三刃の腹から音が鳴り響いた。


「悪い悪い。晩御飯食べてなくてさ、限界だったんだよ」


「私達もよ。鳴らさないように我慢してたのに……」


 姫乃は呆れながらこう言った。その後、携帯で時計を確認し、驚きの声を上げた。


「えええええ!もう八時回ってるじゃない!」


「隣町まで行ったもんな。さすがに生きと帰りで時間かかったか」


「どうしよう……晩御飯の支度したら九時になるわ……」


「大丈夫だ。今日のお前らの晩飯は俺がおごる」


 後ろから輝海が現れ、三刃達にこう言った。おごると言われ、凛子と凛音は喜びの声を上げなげた。


「近くにファミレスがある。そこで飯にしよう。忍者も来るか?」


「いや、私はいい。九時前に家に戻って祖父に連絡をしないと叱られるのでな」


「厳しいんだな、お前の家」


「私の家に代々伝わる法だ。仕方あるまい」


「真面目だな……」


「では私は帰る。また明日」


 そう言うと、服部は煙玉を地面に叩きつけ、煙を発生させてその場から去っていった。


「さてと、ファミレスに行くぞ」


「はい。ありがとうございます」


「私、ステーキとチョコレートパフェが欲しい!」


「私はハンバーググラタンとプリンアラモード!」


「デザートは無しな」


 凛子と凛音は輝海をボコボコにしながら、デザートをおごるように脅した。この光景を見て、三刃と姫乃は苦笑いをしていた。

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