第5話 魔法犯罪者との戦い

 その日の夜。三刃は翡翠に出かけると伝え、宝石を持って外に出た。モンスターの急襲に気をつけながら近所を歩き、様子をうかがっていた。


 出かけて数分後、三刃の後ろから足音が聞こえた。三刃はすぐに剣を出し、相手の様子をうかがった。


「誰だ……」


「私よ。私」


 そう言って、姫乃が姿を現した。姫乃の姿を見て、ホッとした三刃は剣をしまった。


「姫乃でよかった。モンスターかと思ったよ」


「あらそう。三刃君の方も何もなくてよかったわ」


「もしかして姫乃も周囲を見張ってたのか?」


「ええ。この子達と一緒にね」


「この子達?」


「私達の事よ!」


 上空から女の子の声が聞こえた。三刃が上を向こうとする前に、女の子が三刃を襲った。犯罪者と思い、再び剣を取ろうとしたのだが、右足を誰かに踏まれた。激痛を感じ、三刃は悲鳴を上げてしまった。


「ぐあああああああああ!!」


「なっさけない!この程度で私達のお姉ちゃんと一緒に戦うつもりなの!」


「片腹痛いです」


 この言葉を聞き、腹が立った三刃は左手で女の子に向かって風を放った。だが、女の子は攻撃を回避しつつ、三刃に接近した。


「ば~か!こんな攻撃当たらないよ~だ!このば~~~~~~か!」


「ば~かば~かば~かば~かば~かば~か」


「姫乃、何だこの非常識な子供達は?」


「私の妹よ。ちなみに双子」


「お前、妹がいたのかよ!」


「そんなに驚く?まぁ話をしなかった私も悪いんだけど。それより、凜子りんこ凛音りんね、しっかりと挨拶しなさい。犯罪者以外の人には敬意を払えって言ってるでしょ?」


「え~?何で私達がこの雑魚に挨拶しなきゃならないの~?」


「挨拶は最初、格下がやるんです」


「あなた達が強くてもね、挨拶はしっかりとするものよ。これが常識よ」


 この時の姫乃の目は、とても恐ろしく、冷めていた。逆らったら地獄を見ると察した姫乃の妹はすぐに態度を裏返し、三刃に挨拶をした。


「私は白雪凛子と申します!中学三年です!」


「私は白雪凛音です。お姉ちゃんがお世話になっています」


「あ……ああ」


 生意気な態度から一変し、凛音と凛子は素直に自己紹介をした。この様子を見て、三刃は決して姫乃を怒らせてはいけないと悟った。


 姫乃達と合流して数分後、前を歩いていた姫乃が動きを止めた。


「モンスターが来るわ、皆武器を持って」


 姫乃の声を聞き、三刃は剣を出して戦闘に備えようとした。だが、凛子が武器の槍を出す際にわざと武器を三刃にぶつけ、転倒させた。


「イッテ!何すんだ!?」


「何の事ですかー?」


「二人とも、喧嘩をしている暇があったら前を見て!モンスターに狙われてるわよ!」


 この直後、モンスターが三刃と凛子に向かって突進してきた。二人は攻撃をかわし、モンスターの首に攻撃をした。


「今の攻撃が効いたようだな」


「よし!このままこいつをブッ倒すわよ!」


「待て!一回下がって相手の様子を見るぞ!まだ確実に倒したわけじゃない!」


「うっさい!まともに戦った事が無いくせに、偉そうなことを言うな!ば~か!」


「凜子!ここは三刃君の言う通りにしなさい!彼の言ってる事が正しいわ」


「ぶ~」


 凛子は渋々後ろに下がり、モンスターの動きを見計らった。だが、モンスターの首がぐらりと動き、下に落ちた。


「……へ?」


「まさか、凛音がやったの?」


「そうです」


 モンスターの死体の上に立っていた凛音が、持っていたチェーンソーの電源を切り、こう言った。


「この子恐ろしいな……」


「凛音はおとなしいけど……あれで結構凶暴な性格なのよ。怒らせたら命はないって思って」


「お姉ちゃん。仕事終わったよ」


「う……うん、分かったわ凛音」


 その後、三刃達は周囲にモンスターがいない事を察し、家に戻ろうとした。


「さて、明日も学校だし、早く帰ろう。家で待ってる翡翠が心配してるだろうし」


「え?あんた翡翠ちゃんの事知ってんの?」


「知ってるも何も、翡翠は僕の妹だけど」


「ええええええええええええ!?」


「翡翠ちゃんのお兄ちゃんだったんだ。何か似てると思ったけど、やっぱそうだったんだ」


「何だ、君達と仲がいいのか?」


「クラスメイトだけど、翡翠ちゃんかわいいし、スタイルもいいから結構人気者だよ」


「私達もあんなスタイルになりたいな~って思ってるの」


「あ、そう」


 凛子達の話を流し、三刃は家に帰ろうとした。だが、遠くから自分達の姿を見て、逃げようとする人の姿を見つけた。


「悪い。早めに帰る」


「分かった。また明日」


 姫乃は去っていく三刃を見て、何かを察した。


「何かあったか、何か見つけたわね」


「お姉ちゃん、あいつの後を追うの?」


「ええ。危険だと思うから二人は帰っていいわよ」


「やだ。私達もお姉ちゃんと一緒に行く」


「あの野郎を助けるのが気にいらないけど、仕方ないわね」


 その後、姫乃達は三刃の後を追いかけて行った。


 その頃、三刃は町から離れた場所にある港に来ていた。怪しい人物が、ここに逃げたのを見たからだ。魔法使いとの戦闘になる可能性があると考え、三刃は剣を構えて周囲を見回していた。


「さて……片っ端から調べるとするか」


 三刃は港にある倉庫の入り口を開け、逃げた人の姿を探し始めた。それから数分が経過したが、人の姿は見つからない。いつ戦闘になるのか分からない。緊張する中、何者かが三刃の肩を叩いた。


「うわあああ!!」


「また肩を叩かれて驚いたわね……私よ三刃君」


「肩触られただけでビビるなんて、おっかしーい!」


「ビビり……プッ」


「お……お前らか。驚かすなよ」


 三刃は安心して声を出すと、この時の三刃の顔を見て、姫乃が少し笑った。


「ふふふっ、三刃君ってこういう変な顔をするのね」


「え?今変な顔してた?」


「してたしてた。あ~あ、もっと早く来て写メしておけばよかった」


「そんな面白くない写真を撮って何をするつもりだ?」


「翡翠ちゃんに見せるの」


「それだけは止めろ!」


「話はいいから、皆で行動しましょ。三刃君、変な奴を見たんでしょ?」


「あ……ああ。僕達の戦いを見てた奴がいたんだ。僕がそいつを見つけた時、すぐに逃げて行った。怪しいと思わないか?」


「それは怪しいわね。犯罪者の可能性もあるわ。でも、これだけ言わせてちょうだい」


 そう言うと、姫乃は三刃の顔に近づき、こう言った。


「三刃君はまだ魔法使いとの戦闘をやってないんだから、一人で行こうとしないでね。私達がいるんだから。頼って」


「ああ。分かったよ」


「それならよろしい。無理しないでね」


 この光景を見て、凛子は微笑みながら姫乃にこう言った。


「お姉ちゃん、この情けない人に興味あるの?」


「それはね……秘密」


 と言って、姫乃は三刃の後を追って行ってしまった。




 三刃達は手当たり次第倉庫の中を調べて行った。三刃達の戦いを見ていた人物がどこかの倉庫に隠れた可能性が高い。


 あの人物が三刃の戦いを見て逃げたというのなら、魔法で何か犯罪を行った可能性がある。相手が魔法使いなら、正体も何も分からない上、どんな魔法を使うのか分からないし、もしかしたら武器を持っているかもしれない。もし、犯罪者なら、戦闘に入るかもしれない。戦闘に入っても対処できるよう、三刃達は武器を持っていた。


 調べ始めて数分が経過した。港の倉庫を半分ぐらい調べたが、人影は見当たらなかった。


「ねぇ、本当に怪しい奴なんていたの~?」


 凛子が疑いの眼差しを三刃に向けた。三刃は凜子の言葉を聞き流し、何も聞かなかったかのような態度をしていた。


「何か言えコラ。槍で心臓刺すよ?」


「うるさい。人が集中して不審者を探しているのに声をかけるな」


「不審者なんていないだろうが、こっちは早く帰りたいんだ、むかむかしているから今すぐ槍でお前の心臓を突き刺してやろうか?」


「やってみろ、僕は強いぞ」


「子供みたいな喧嘩は止めなさい。凛音のチェーンソーの犠牲になるわよ」


「ごめんな」


「こっちこそ」


 凛音の犠牲になるのを防ぐため、二人はすぐに仲直りした。その直後、三刃の前に置いてある建物から、不審な物音が聞こえた。


「今の音、聞いたわね」


「ああ。僕が行く」


「ちょっと待って、私と三刃君でいくわよ。二人はそこで待ってて」


「え~、私も行く~」


「凛子、ここはお姉ちゃんの言う通りにしましょ。お姉ちゃん達が倒されたら、私達が頑張るしかないんだから」


「ええ。それもあるけど、その前に応援を呼んで頂戴。じゃあ行きましょ、三刃君」


「分かった。だけど、僕が前に行く。これでも男だからさ、女の子は守らないとね」


「ありがと、頼りにしてるわ」


 会話後、三刃と姫乃は凜子と凛音を外に残し、物音がした建物に向かった。


「誰かいるのか?」


 三刃が声をかけた後、コンテナから氷柱が飛んできた。三刃は剣でそれを叩き落とし、姫乃は炎で氷柱を溶かした。


「く……来るな!来たら殺すぞ!」


 臆病そうな男の声が聞こえた。三刃は剣を構えて男に接近していった。怯える男は氷柱を何度も飛ばしたが、それを全て三刃は叩き落とした。


「ヒィッ!」


「さぁ、話してもらおう。お前は何者だ?」


「子供にこんな話をする義務はない!」


「面倒だな……脅しになるから仕方ないけど、話さなければ風であなたを斬ります」


「クソ魔法使いが……」


「風で斬られるのが嫌なら、炎で灰になる?」


 笑顔で姫乃がこう言った。両手からは炎が勢いよく発していた。三刃も右腕に風の渦を出し、男に圧力をかけた。男は歯ぎしりをした後、後ろに逃げて行った。


「あ!また逃げた!」


「追うわよ!捕まえて話を聞き出しましょ!」


「了解!」


 三刃と姫乃は逃げた男の後を追い始めた。男は近くにある荷物を後ろに投げ、追ってくる三刃と姫乃を妨害していった。飛んでくる荷物を対処するため、三刃と姫乃の走る速度が徐々に落ちて行った。


「クッ!めんどくさい!」


「一気に焼き払うしかないわね……どいてて!」


 姫乃が魔法を使おうとした直後、彼女の足元に何かざわざわした感触がした。恐る恐る姫乃が足元を見ると、そこには無数のネズミがいた。


「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「ひ……姫乃!」


「いや!いやいやいやいやいやいや!!私ネズミ嫌いなの!」


「今そんな事言ってる場合じゃないぞ!」


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!三刃君助けて!男ならあれを何とかしてぇぇぇぇぇぇ!!」


「ちょ!抱きつくな!倒れる!」


 姫乃に抱きつかれ、三刃はバランスを崩してしまった。その結果、二人は倒れてしまい、隙を見せてしまった。


「ケッケッケ……運が俺に向いてきたな……あなよ、くたばれ!クソガキ共!」


「クソガキ共はここにもいるわよ。おっさん」


 凛子が槍で男を攻撃し、相手の攻撃を妨害した。荷物の上にいた男は攻撃を受けた際、下に落ちて行ったが、地面に激突する寸前に氷を出して防御した。


 何とかなったと思った男だったが、槍を構えた凛子が男の元に向かって落ちて来たのだ。


「くたばれ!犯罪者ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「ひっ……ひあああああああああああああああああ!!」


 凛子の持っている槍が、男の足元に突き刺さった。刺されたと勘違いした男は白目を見ており、口から泡を出し、気を失っていた。


「本当に殺すわけないじゃん。ばーか」


 槍をしまい、凛子はこう言った。


 その後、凛音が男を六甲縛りで縛り、三刃と姫乃が男から話を聞いていた。


「で、あなたは何で私達から逃げたの?」


「何か怪しい事をしてたんだろ?それで僕達に見つからないために逃げた」


「そうだ!私はこの力を使って盗みをしてたんだ!」


「窃盗ね。しかも余罪持ち。自分がやらかしたことを告白したし、さっさとこいつを結社に連れて行って裁いてもらいましょ」


「止めろ!そこだけは行きたくない!」


「駄目なものは駄目よ~。魔法を使った犯罪者はみーんなあそこに行かなきゃならないんだから。ルールは守らないとね」


 その後、三刃達は男を連れて魔法結社に向かった。男は結社の役員に連れられ、取調室に入れられた。三刃が帰ろうとした時、輝海が話しかけて来た。


「お疲れさん。ここに入ってすぐに犯罪者を捕まえるなんてすごいじゃないか」


「僕は見つけただけです。本当は姫乃の妹が捕まえたようなもんですよ」


「見つけただけでも凄い手柄さ。で、怪我とかはなかったか?見た感じ全員怪我無しに見えるけど」


「姫乃がネズミに驚いて僕に抱きついた」


 三刃がこう言った直後、姫乃のストレートが三刃の脇腹に沈んだ。


「ぐほっ!!」


「じゃあ私達はこれで。ごきげんよう」


 と言って、姫乃は白目をむいている三刃を連れて帰って行った。帰り際、姫乃は三刃の方を睨んでこう言った。


「私がネズミ嫌いなの、絶対に秘密ね。ばらしたら灰にするから」


「は……はい」


 冷や汗をかきながら、三刃は返事した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る