第3話 亡き父の正体
その後、三刃は姫乃に連れられて学校から離れた住宅街に来ていた。
三刃は近くにクラスメイトがいないか周囲を見回しながら歩いていた。もし、この状況を誰かに見られたら明日色々と聞かれるだろうと思っているのだ。
「おい、いつまで歩くんだ?結構歩いたと思うんだけど」
「ここでいいわ。丁度ついたわよ」
姫乃は『湯出宝石店』と書かれた店の前で歩くのを止めた。そして店の戸を叩き、声を出した。
「
「ん?姫乃か!ちょっと待ってな~」
その後、中から何かが落ちる音と、慌てて走る音が聞こえた。しばらくし、頭にバンダナを巻いて、アニメキャラの服を着た男性が姿を見せた。
「相変わらず酷い恰好ね」
「そんなこと言うなよ。周りの服屋、こういう服しか売ってないんだから」
ぼさぼさの頭を書きながら、湯出と呼ばれた男性は三刃の方を見た。
「嘘……相場さん?いや……そんなはずは……」
「え?何か……」
「いや、何でもない。それより、君は新しい魔法使いか?」
「ああ……はい。でも、戦うことは……」
「あ、そ。でもまぁいいや。危険な目にあうのはごめんだもんな。姫乃、戦う気のない奴を連れて来て何をするつもりだよ」
「ただ結社の案内をするためよ」
「そうですか。じゃあ中に入れよ。あ~、ちょっと散らかってるけど気にするなよ」
そう言って、湯出は三刃と姫乃を店内に入れた。店の入り口には剣の形や槍の形をした宝石が売られており、奥には宝石を加工する機械が置かれていた。
その横の扉を開き、中に入って三刃は驚いた。部屋の中で響く訳の分からないアニメソング、壁にはきわどい衣装を着たアニメキャラのポスターがまんべんなく貼られており、近くの布団には無数の裸に近いアニメキャラのイラストが描かれた抱き枕が置かれていた。
「うえ……」
「何だどうした?」
「いや、何もありません」
「そうか。ならいいよ」
気分を悪くしたかと思ったのだろうか、湯出は三刃の様子をうかがっていた。しばらく廊下を歩き、三刃達は押し入れの前に着いた。
「さて、開くぞ」
「ええ」
湯出が押し入れの扉を開き、中に入って行った。不審がる三刃の手を取り、姫乃は湯出の後に着いて行った。
「オイオイ、この何もない押し入れの中に何があるんだよ?」
「それがあるんだな」
笑いながら湯出がこう言った。湯出は一部分の壁に手を置き、ゆっくりと押し始めた。壁は鈍い音を立てながら動き出し、中から銀色の扉が現れた。
「秘密基地みたいだな。この中どうなってんだ?」
「ここが入り口だよ。魔法結社のね」
湯出は扉を開き、大きな声で中に入って行った。
「湯出、入りまーす」
「おいおい湯出。遅かったじゃねーか。約束の時間から随分経っているが……また変なアニメの変な歌でも聞いてたのか?」
入り口近くに立っていた男性が、苛立ちながら湯出に近づいた。焦りながら湯出はあれこれいい訳をしたのだが、男性はため息を吐いて姫乃に近づいた。
「よく来てくれた姫乃。そして三刃君」
「え?どうして僕の名前を?」
「色々とな。おっと、俺の自己紹介がまだだったな。俺は
「あ、はい。よろしくお願いします」
握手をした後、輝海は簡単にこの施設の説明を三刃に聞かせた。
魔法結社は世界中を監視し、魔法を使った犯罪やテロを監視している。もし、魔法使いが大きな犯罪やテロに関わった時、ここで働いている魔法使いが現地へ飛び、問題を解決する。以上が魔法結社で働く魔法使いの仕事である。
説明を聞いた後、三刃は輝海と湯出に呼ばれ、結社の中にある休憩室にいた。出されたコーヒーを飲み、輝海は三刃にこう聞いた。
「三刃君。君はお父さんの事を何か聞いたか?」
「父さん……いえ。事故で母と一緒に死んだとしか聞いてません」
「では、今から君の父さんについて話そう」
「父さんについて何か知ってるんですか?」
「ああ。俺はあいつ……相葉の友人だからな。湯出は後輩だ」
「まさか父さんも魔法使いなんですか……」
「ああそうだ。バカな奴だったが、腕はよかった。仕事を確実にこなす優秀な奴だった」
輝海はコーヒーを一口飲み、思いだしながら語りだした。
「あいつは常に何も考えない奴だった。後先の事を考えるのが嫌いで、深く考えるよりも直感で行動しろっていっつも後輩に言ってた。ある日、あいつの嫁さんが悪い魔法使いに捕まった。相場と俺達で敵の本拠地に乗り込み、黒幕やその手下を相手に戦った。相場は黒幕と戦っている中、相手の卑怯な手にかかって体内に強力な爆弾を埋め込まれてしまった。そして、人質にされた相場の嫁さんも同じ爆弾を埋め込まれてしまった。それが爆発したら、町一つが木端微塵に吹き飛んでしまう。取り出す方法は無い。だから二人は身を犠牲にして町を守る事にした。そして、この結社の地下にあるシェルターの中で爆発して死んだ。君やまだ幼かった君の妹を残してな」
輝海の話を聞き終え、三刃は頭を抱えていた。
「輝海さん、どうやら混乱してるみたいです」
「だろうな。この事は君に秘密にしていたからな。でもいずれ話すときは来た。それが今だ」
輝海は三刃の様子を見ながら湯出に返事をした。その後、三刃はポケットから服部が持ってきた宝石を取り出し、輝海にこう聞いた。
「これはクラスメイトの忍者から渡された宝石です。もしかして、これは父さんの物ですか?」
「ああ、相葉の形見だ。俺の知り合いの忍者に渡したんだ。君が魔法の事を知ったらこいつを君に渡すように頼んでいたんだ。魔法の事は姫乃から聞いただろ」
「はい。それで、これで父さんはモンスターや悪い奴と戦って来たんですか」
「そうだ」
「これで、僕も一緒に皆さんと戦ってほしいと……」
「……出来ればそうしたい。最近モンスターの動きが活発になって来ているんだ。戦力は多い方がいいんと上が考えてね。クラスメイトになった姫乃に頼んで相場の力を持っているかもしれない君に近づき、結社に誘えと言われたんだ」
「そうなんですか……すみません。少し、考える時間を下さい。では」
と言って、三刃は去っていった。三刃が去った後、湯出は輝海にこう言った。
「いいんですか?三刃君を誘わなくて……」
「いいんだよ。あの子はあいつより頭の出来は良いようだ」
「本当の事を言ってください輝美さん。アンタは一体何を考えてるんですか?上からも言われましたよね。三刃君を誘って結社に入れろって……無理矢理にでもって……」
「……俺はあの子の気持ちを知りたい。俺達と一緒に戦ってくれるか、また同じように暮らし続けるか……」
「来なかったら……」
「それはそれだ。俺らで踏ん張るしかない。上には俺が何とかごまかしておく。それに、魔法使いはこの世界に何人もいるんだ。一人仲間に入らなくても、他の奴を誘えばいい。さて、俺達も戻ろう。お前は仕事なさそうだけど俺は仕事あるからな」
と言って、輝海は部屋から出て行った。
湯出宝石店から出て、三刃は自宅に戻っていた。玄関に入った直後、翡翠の怒声が三刃の耳に入った。
「お兄ちゃん!こんな遅くまで何やってたの!?」
「よ……寄り道だよ」
「そうだったの。今度から寄り道して遅くなるんだったら、電話の一本くらい入れてよね~」
翡翠はこう言いながら、キッチンに戻って行った。夕食時、三刃は箸で里芋を挟みながら翡翠にこうい聞いた。
「なぁ、父さんと母さんについて何か知ってるか?」
「え~?知るわけないでしょ。父さんと母さんが亡くなった時、わたし赤ちゃんだったんだからね。でも何でそんな話を?」
「……いや」
この直後、三刃の耳に大きな爆発音が聞こえた。モンスターの仕業かと思い、三刃は窓を見た。
「何やってるの?子供じゃないんだし、火事の現場なんて見に行かないでね」
「あ……そ……そうだな」
三刃は親の事や自分の秘密を翡翠にばれないように振る舞い、再び食事を取り始めた。だが、頭には昨日の戦いの光景が焼けついていた。姫乃達は裏でモンスター達と戦い、人々を危険から遠ざけていると。
だが、魔法が使える自分は何もせず、ただ飯を食い、普通に青春を謳歌している。そんなのでいいのか?三刃は考えた。その姿を見て、翡翠はこう言った。
「お兄ちゃん、何か悩んでるの?」
「べ……別に何も……」
「悩んでるんだったら、自分がしたい方を選んだら?遠慮せずにさ」
「自分がしたい方……か」
「お兄ちゃんの事だし、答えは出てるんでしょ?だから何も考えないで自分が出した答え通りに動けばいいじゃない。遠慮せずに」
この時、三刃は輝海から聞いた自身の父、相葉の事を思い出した。バカで何も考えもしない。考えるよりも行動する男だと。
「やっぱり……僕も父さんの血が流れてるんだな」
「何の事?」
「何も。悪い、ちょっと出かけてくる。すぐ帰ってくるから心配するな」
「うん……分かった。早めに帰って来てね」
三刃は父が残した宝石を取り、玄関に向かって走って行った。
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