第2話 モンスターとの遭遇

 三刃は姫乃の言う事を信じてはいなかった。魔法とかモンスターとか、ファンタジー物の作品に出てきそうな設定があるように言われ、更にモンスターに気を付けろと言われた。モンスターなんてそんな生き物が存在するはずはない。内心、三刃は姫乃の言った事を馬鹿にしていた。


 それから、三刃は帰路に着いた。道中コンビニによって買い物をしていた。その時に宇野沢からメールが届いた。姫乃と何かあったかの連絡で、何もなかったと返事を送った。しかし、それからずっと宇野沢から茶化すようなメールがいくつも届いた。バカ野郎と返事を送るやり取りをしていたせいで時が流れ、もう外は暗くなっていた。きっと、家では翡翠が頬を膨らませて怒ってるんだろうなと思いながら、急いで自転車をこいで家に向かった。


 しばらく走っていると、三刃の耳に何かの羽音が聞こえた。その直後、三刃の目の前に黒い物体が前に降りて来た。


「な……何だ!?」


 自転車を止め、三刃は目の前の物体に近づいた。直後、鋭い何かが三刃を襲った。三刃はそれをギリギリで後ろに下がったのだが、制服が斬れてしまった。この時、三刃は姫乃が言っていた言葉を思い出した。モンスターに気を付けろと。


「嘘だろ……本当に存在するのかよ!モンスターなんて!」


 モンスターは大きな鳴き声を発し、三刃に襲いかかった。三刃は自転車に乗り、モンスターから逃げようとした。だが、モンスターの方が早く、すぐに三刃に追いついてしまった。


 やるしかないと思い、三刃は左手をモンスターに向け、力を込めた。三刃の左手から巨大な風が発生し、風の衝撃でモンスターを傷を付けた。攻撃を受け、モンスターは怒りの咆哮をし、荒々しく腕を振って三刃を襲った。腕は三刃に当たり、そのまま壁に叩きつけた。


 三刃は悲鳴をあげ、その場に倒れた。立ち上がろうとするも、腕と足に力が入らず、なかなか立ち上がれなかった。動けない三刃に止めを刺す為、モンスターは鋭い爪を構え、三刃の胸に突き刺そうとした。


 ここで死ぬのか……


 心の中で三刃は思った。しかし、三刃の目の前に誰かが現れ、モンスターの爪を折ってしまった。


「三刃君、生きてるなら返事して」


 現れたのは、日本刀を持った姫乃だった。三刃は声を出そうとしたのだが、血が口の中に入り、声が出せなかった。


「生きてるみたいね。治療は後でするから、そこで待ってて。すぐに終わらせるから」


 姫乃はこう言うと、鞘から刀を抜き、モンスターに向かって飛んで行った。モンスターは宙にいる姫乃に向かって残った爪で攻撃を行ったのだが、その攻撃をかわし、姫乃はモンスターに近づいた。


「これで……おしまい」


 刀を振り、モンスターの頭を半分斬った。頭部を半分失ったモンスターの体は、徐々に灰色になり、灰になって消えた。


「これで安心と……」


 刀を鞘に納め、姫乃は傷ついた三刃に近づいた。姫乃の手が三刃の胸に当たると、三刃は小さな悲鳴を上げた。


「あ~、これ骨が何本か折れてるわね」


「平然と恐ろしい事を言うなよ……入学初日で入院生活なんて……」


「大丈夫よ。じっとしてて」


 その直後、姫乃の手が暖かく光り出した。その光を浴びた三刃の傷ついた体が、徐々に楽になっていった。


「嘘だろ……痛みが引いてく」


「癒しの魔法よ。私、下手だからうまく治せないけど」


「これだけ治ればいいよ。ありがとな」


「いいえ。私は当然のことをしただけよ」


 治療が終わると、三刃はふらつきながら立ち上がり、自転車に乗ろうとした。だが、よろついて転んでしまった。


「不安ね。送ってくわよ」


「大丈夫だよ。家近いから、何とか帰れる」


「あ、そう。じゃあまた明日ね」


 話を終えると、姫乃は空を飛んで去っていった。飛んで行く姫乃を見て、三刃は小さく呟いた。


「……魔法少女かよ……」




 数分後、痛みに耐えながら三刃は帰宅した。


「お兄ちゃん!どうしたのその服!?」


 翡翠が綺麗に斬れた三刃の制服を見て、大きな声を出して驚いた。


「驚くことは無いだろ。ちょっと転んだだけだ」


「転んでこうなるの!?」


「なるんだよ。派手にやったんだ」


 三刃は制服を脱ぎ、洗面所へ向かった。傷だらけとなった体を見て、三刃はこの先生きていけるかを心配した。もし、今日みたいな化け物がまた襲ってきたら、どうしようもない。魔力を持っている以上、また襲ってくる可能性はある。今回は姫乃が助けに来てくれたから助かったが、いない時の事を考えると恐ろしい結果が待っている。


「さて……どうすればいいのやら……」


 三刃は呟きながら私服に着替えた。




 翌日。宇野沢が三刃のボロボロの制服を見て、目を丸くしながら叫んだ。


「お前、何かあったのか?制服がボロボロだぞ」


「昨日、家の近くで派手に転んだ」


「派手に転んでこうなるのか……」


「なるんだよ」


 宇野沢にこう言った後、三刃は自分の席に座ろうとした。この時、後ろから誰かの視線を感じた。姫乃かと思ったが、今姫乃が教室に入って来た。じゃあ誰が?と思いながら後ろを見ると、者静かそうな少女が不思議そうに三刃の方を見ていた。また魔法の関係者かと心の中で思いながら、三刃は椅子に座った。


 休み時間。宇野沢と周りのクラスメイトとお喋りをする中、不意に姫乃の話題となった。


「オイ護天、昨日白雪さんと何かあったか?」


「一部の連中がお前と白雪さんが一緒に話してた所を見てたぜ」


「まさかお前、白雪さんと知り合いなのか?」


 次々とこう聞かれ、三刃は呆れながらこう言った。


「学校の案内だよ。話しやすそうな僕を選んで案内をしてくれって頼まれただけだ。特に何もないし、白雪とも互いを知ってるわけじゃない」


 と言って、何とかごまかした。自分と白雪が魔法を使えると言ったら、周りになんて言われるか分からない。


 それに、一部のクラスメイトがモンスターに興味を持ち、見に行ってしまったとなれば問題だ。自分の身も守れないのに、他人なんて守れないからだ。


「さて、そろそろ授業の時間だ。お前ら準備しろよ」


「ケチ~。もうちょっと何か教えろよ~」


「何かあったって教えても罰は当たらないぜ」


「本当は白雪の事が好きなんじゃないの~?それで声かけて無理矢理草むらの中に押し込んでその後は……」


「そんなことするか!!」


 馬鹿な事を言うクラスメイト達を追い払いながら、三刃は椅子に座った。


 放課後、嫌な意味で目立ってしまったと思いながら、三刃は歩いていた。あれからも姫乃との仲の質問をされたのだ。


 何で人と言うのは他人の恋に興味があるのだろうか。そんな事を思いながら近くのコンビニに向かっていた。その時、上空から三刃に向かって何かが飛んできた。音で気づいた三刃は左手を前に出し、風を飛ばして飛んで来た何かを吹き飛ばした。


「な……なんだよオイ……」


「手裏剣ね。忍者かしら」


「忍者?そんな物が現代に……って姫乃、お前いつの間に僕の後ろに立ってたんだ!?」


「今さっきよ」


「いるならいるで声をかけてよ……」


「話しかける暇がなかったの」


 姫乃は地面に落ちた手裏剣を見つめ、どこから飛んできたか周囲を見回した。


「何かいるのか……まさかモンスター?」


「あいつ等は夜にしか来ないわよ。まぁ一部の奴は昼に活動しているって聞いたけど……もしかして、私達と同類の奴ね」


「魔法使いか……またか」


 この直後、何者かが三刃に向かって突進してきた。慌てた三刃は反射的に足を大きく上げた。その時、突進してきた何かは三刃の足に当たり、後ろに吹き飛んでしまった。


「あいた!」


「……へ?女の子?」


 三刃は目の前で倒れている襲撃者の頭巾を取り、誰なのかを確認しようとした。襲撃者の顔を見て、姫乃が大きな声を上げた。


服部はっとりさん!?あなた、私達のクラスにいる服部さんよね!」


「いたかこんな子?」


「後ろの方で喋らずにいるから目立ってないのよ。何でこんなことを?」


「お前達の実力を試したんだ。それと、私の方からも質問はある。魔法結社のはざま……だったかな?そう言う名前の奴を知っているか?」


「はざま……まさかあの人」


「知ってるのか、ならこれを渡すよ。私の知り合いからこれをお前らに渡せと言われたんだ。はざまという奴に用があると言ったら分かるって伝えられて。じゃあ私は戻る」


 と言って、服部は剣の形をした宝石を姫乃に渡して去っていった。横にいる三刃はこれを見て、姫乃にこう聞いた。


「何このおもちゃ?」


「おもちゃじゃないわ。これは魔武器と言って、これに魔力を込めると武器の形になるわ。昨日私が刀を持って戦ってたでしょ?これも魔武器よ」


 姫乃はポケットから日本刀の形をした宝石を取り出し、三刃に見せた。三刃はそれを手に取り、観察を始めた。


「これが武器になるか……いつか僕もこれを手にして戦うのか?」


「できればね。輝海さんと三刃君って知り合いなのかしら」


「輝海さん?誰だ?」


「私の知り合いよ。それとこの魔武器の事は後でじっくりと教えるわ。とりあえず、今はこれをあなたに渡すわ」


「渡すって……これをか?」


 三刃は姫乃が手にしている剣の宝石を指さし、焦りながらこう聞いた。


「ええ。持っていても損はないわよ。輝美さんには知り合いの魔法使いに預けたって言っておくから」


「でも……」


「また昨日のように痛い目を見たくなかったら持っておくことね」


「そうだな……の前に、いろいろと教えてよ。魔法結社とか、その他もろもろの事とか。いろいろありすぎて頭が割れそうだ」


「そうね。今から教えるから、私の後についてきてね」


 三刃の方を見て笑みを作り、姫乃はこう言った。

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