魔法少年風の三刃

万福 刃剣

第1話 全てのきっかけは出会いから

 桜が舞い、鶯の鳴き声が周囲に響く。その道の中を眼鏡をかけた一人の少年が歩いていた。道中、少年はコンビニに寄り、ハンバーガーを買って再び歩き始めた。しばらく歩くと、不良が少女に絡んでいる光景を見かけた。


「よー嬢ちゃん。俺らと遊ばねーか?」


「ちょっとホテルに行くだけだからよ。ね、ね、いいだろ?」


 少女は呆れた顔をして、その場から去ろうとしたのだが、二人組の不良の一人が少女の手をつかんだ。


「逃げたって無駄だよ~ん」


「ちょっとぐらい相手になってもらうだけだからよ。そんじゃあ行こうぜ」


 不良の一人が嫌がる少女を無理矢理連れて行こうとした。少年はため息を吐き、右手の人差し指を少し動かした。その直後、不良が履いていたズボンのベルトが切れ、下に落ちてしまった。その時、自転車に乗った警官がこの光景を見た。


「おい君達!そんな恰好をして一体何をやっているんだね!」


「え?なー!?俺のベルトが切れてる!?」


「何で下に落ちてるんだ!?畜生!このベルト万引きしたばっかなのに!」


「待て!逮捕する!」


 その後、二人組の不良は警官から逃げるため、走ってその場から去っていった。少年も厄介事に巻き込まれる前に去ろうと思い、足早にその場から去った。絡まれていた少女は去っていく少年の後ろ姿を見て、小さく笑みを浮かべた。


 この少年の名前は護天ごてん三刃さんば。高校一年生になる少年である。幼い頃に両親を亡くし、今は一つ下の妹と二人暮らしである。


 暗い過去がある以外は普通の少年だが、彼には誰にも言えない秘密がある。それは風を操られるという謎の力を持っているという事。三刃が六歳の頃、テレビで流れていたマジシャンの真似をして右手に何か出ろと念を入れた時、目の前の窓を風で真っ二つに斬ってしまった。それがきっかけで三刃は自分が変な力を持っていると自覚した。だが、その力を使う度に腹が減るし、周りに迷惑をかけるので、その力をあまり使わないようにしている。


 三刃はコンビニで買ったハンバーガーを食べながら、自分が行く高校の周囲を歩き始めた。すると、三刃の目の前に今さっき助けた少女が姿を現した。


「今さっきはありがとね」


「え……今さっきって……」


 三刃は少し焦った。あの少女は自分が風を使って危機を救ったと知っていた事をきっかけに、自分の秘密がばれたんじゃないかと。


 実は三刃はこっそりと力を使い、困った人を何度か助けた。だが、その人達は三刃の力で解決したことを、何も知らない。何とかごまかそうと思い、三刃は返事を返した。


「何の事ですか?僕は何もしていませんよ」


「とぼけたって無駄。私、君の秘密知っちゃったんだから」


 少女は焦る三刃に近づき、ゆっくりと話続けた。


「君は、魔法使いなんだから」


 少女がこう言った直後、恐怖を感じた三刃は、すぐに走ってその場から逃げ去った。




 三刃は住んでいるアパートに着き、息を整えながら玄関に入った。


「あ、お帰りお兄ちゃん」


 妹の翡翠ひすいが出迎えてくれた。翡翠は息を上げている三刃を見て、不思議そうにこう聞いた。


「何かあったの?すごい疲れてるじゃん」


「ああ。変な少女に絡まれたんだ」


「変な少女?どんな子だったの?」


「綺麗な子だったよ。齢は僕と同じぐらいだと思う。あの子、僕が魔法使いだとか変な事言ってたんだ。変な宗教だと思ったから、慌てて帰って来たよ」


「ふ……不思議な人だね。でも変な声に騙されないでね。お兄ちゃんスケベだから、美人にはすぐに騙されるわよ」


「お前も気を付けろよ。近頃不審者がいるって話だから」


「は~い」


 その後、三刃は自室に入り、入学時に持っていく荷物の整理を始めた。整理を終え、三刃はベッドの上に座り、あの少女の言っていた事を思い出していた。魔法なんてものはマンガやアニメ、ゲームなどの設定だと思っていた。現実に存在するはずもない。


「……何マジに考えてるんだ僕は……」


 こんな事に本気で考えてバカみたいだな。三刃はこう思いながら近くにあったゲーム機を手に取り、遊び始めた。




 数日後、三刃が通う事になる高校で入学式が行われた。その日にクラスの発表などが行われる。三刃は学校に着き、自分の名前が書いてあるクラス表を探した。探していると、後ろから肩を叩かれた。


「よー三刃!一緒のクラスだなオイ!」


「何だ宇野沢うのさわか。そのセリフだと、またお前と一緒のクラスか?」


「流石三刃君。俺の言うこと分かってんじゃねーか」


「最初に一緒のクラスだって言われると、誰もがそう思うだろ」


「そりゃそうだな。そーだそーだ。ほれ、お前の分のクラス表を持って来たよ。俺らのクラスは1Aだそうだ」


 友人の宇野沢がクラス表を持ってきた。そこに目を通すと、自分の名前が表の中間に書いてあった。三刃は知り合いがいないか、票を隅々まで調べ始めた。


「他の人はいないようだね」


「そりゃそうだろ。あの中学からこの高校に来たのあんまりいねーだろ。俺とお前入れても二桁行くかどうか」


「そうだな。少し僕たちの地元から離れてるからなここ」


「そんな事より早く1Aに行こうぜ。女子に挨拶してーしな」


「はいはい、初日からフラれるなよ」


 その後、三刃と宇野沢は1Aの教室に向かった。教室にはすでに数人が入っていた。


「それなりに人がいるな~」


「そうだな」


 返事をしながら三刃は周囲を見回した。その時、窓際に立っているあの少女の姿を見つけてしまった。


「あ……」


「どーした三刃?あの子に興味あるのか?あの子……かわいいし、スタイルもいいし、清楚そうじゃん。意外とスケベなお前が興味を持つのも当然だな」


「うっせ!」


「うげ!!」


 三刃は宇野沢にゲンコツを喰らわせた後、自分の名前が書いてある机に座った。宇野沢がナンパしてくると言い、三刃から離れた。そんな宇野沢の姿を見て、三刃は呆れて溜息を吐いた。その姿を、あの少女はずっと見ていた。


 数分後、入学式が始まる為、三刃達は会場である体育館に向かって行った。入学式は校長先生や市長などの話があったのだが、三刃はあの少女に言われたことしか頭になく、話は頭に入って来なかった。入学式が終わりに近づき、司会者である先生が咳払いをしてこう言った。


「では締めの言葉に入ります。この言葉は入学生の代表者に言ってもらいます。では、入学生代表、1Aの白雪しらゆき姫乃ひめのさん。お願いします」


 その直後、三刃の後ろから椅子が動く音が聞こえた。そして、ステージに上がった生徒を見て、三刃は目を丸くして驚いた。


「オイ、あの子お前が気にしてた子じゃねーか?お前、すげー子に目をつけたな~。確か代表の挨拶に選ばれるのって入学試験で相当高い点とらねーと駄目って話だけど」


 宇野沢が茶化すように、小声で三刃にこう言った。あの少女、姫乃がステージの上に立って挨拶を始めたからだ。だが、三刃は(頭のいい子だったのか。だけど少し変な子だったな)と思っていた。姫乃は話し終えると、ボーっとしている三刃の方を見て、少し微笑んだ。


 入学式が終わり、三刃達は教室に戻っていた。帰りの支度をしていると、姫乃が声をかけて来た。


「三刃君だっけ?ちょっといいかな?」


 この直後、教室中がざわつき始めた。変な事を言われると察した三刃は、すぐにバッグを持って姫乃と共にグラウンドの隅に移動した。


「えーっと……姫乃だっけ?話って何だ?もしかして魔法の話か?」


「ええ、そうよ。それと、人の名前ぐらいしっかり覚えて欲しいわね」


 返事を聞き、三刃は溜息を吐き、髪を触りながら姫乃にこう言った。


「あのなぁ……そんなもんあるわけないだろ?そんな話を教室でしてみろ、僕も君も皆から変な奴って思われるぞ」


「変な奴ね……他の人は魔法の存在なんて知らないからそう思うわよね」


「だから魔法なんて存在するわけないだろ」


「魔法は存在するわ。証拠を見せてあげる」


 姫乃はそう言うと、手の平に小さな火の玉を出した。不思議そうに三刃はその火の玉を調べた。


「これ、本当に火か?手品じゃないよな」


「本物よ。あなたもこれと同じように風を出せるわよね」


 風を出せれることを言われ、三刃の顔が少しひきつった。この顔を見て、姫乃は少し微笑んだ。その笑みが怪しいと察した三刃は、恐る恐る姫乃にこう聞いた。


「……僕をどうするんだ?無理矢理連れて危ない実験とかするのか?」


「何もしないわよ。だけど、これだけは注意して」


「注意?一体何に気を付けるんだよ?」


「モンスターに気をつけなさい。あいつ等は私達魔法使いを襲うわ。特に、魔法があまり使えない君は気をつけなさい」


「モンスターって何だよ?ゲームみたいにそんなもんが存在するのか?」


「簡単に言えば私達を狙う化け物よ。ゲームなんかじゃないわ。とくかく変な動物にあったら逃げなさい。以上」


 こう言って、姫乃は去っていった。

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