二人のぬくもり

倉田京

二人のぬくもり

♀『ねえ裕也ゆうやくん。”ぬくもり”って何から生まれるのかな?』


♂「変な事聞くなよ」


♀『変じゃないよー』


♂「多分コンセントからだろ。こたつもストーブも電気がなきゃ温かくならないし。それよりこたつの温度ちょっと下げて」


♀『はーい、半分ぐらいにしとくね。でもコンセントなんて全然ロマンチックじゃないよー。現実的過ぎ』


♂「俺はクールな男なの。それより現実見ないとダメだぞ。さっきから宿題全然進んでないからな」


♀『うー、なんでうちの高校こんなに冬休みの宿題多いんだろうね。先生たちには”ぬくもり”が無いんだよきっと』


♂「まあ確かにこの量は冷徹れいてつだよな。あー、分かった。ぬくもりは”心”から生まれる」


♀『おお、それすごく素敵。裕也ゆうやくんにしては珍しくいい事言った』


♂「珍しくは余計だ」


♀『そっかー、心が入ってれば”ぬくもり”になるんだね』


♂「そうそう。たとえばアイスクリームでも、心を込めて渡せば、もらった方は”ぬくもり”を感じるだろ?」


♀『うん、感じる。そっかー、ぬくもりは温度じゃないってことだね。ねえねえ、来月どんな”ぬくもり”が欲しい?』


♂「来月って?」


♀『裕也ゆうやくんの誕生日』


♂「あーそっか。えーっと、まあ、心を込めてくれれば何でもいいよ」


♀『そんな返事じゃ困るよー。何でもいいなら、私が心を込めて履いた靴下とかになっちゃうよ?ぬくもり付きってことで』


♂「そんなものいらねーよ。変なこと言うなよ」


♀『え、男の人ってこういうの欲しいんじゃないの?』


♂「欲しがるのは一部の変なやつだけ。俺は普通だ」


♀『じゃあ普通の裕也ゆうやくんは何が欲しいの?あ、ちなみに私は宿題全部肩代わりしてくれる券が欲しいです』


♂「こら。まあ、しいて言うなら、手作りケーキかな」


♀『了解。じゃあ頑張って作るね。ちなみに何味がいい?』


♂「チョコ一択。ビターなやつで頼む。俺はクールな男だからな」


♀『うーん、ケーキが欲しい時点であんまりクールじゃない気がするけど…』


♂「うるさいなー」


♀『あ、そうだロウソク十七本用意しなきゃだね』


♂「そんなにロウソクいらねーよ。針山みたいになっちまうだろ」


♀『そっかー。LOVEとか文字書くスペース無くなっちゃうもんね。でも直径三メートルぐらいのケーキなら全然問題ないかも』


♂「でかすぎだろ。それだと”ぬくもり”通り越して”暑苦しい”になるわ」


♀『確かに。トラックとか必要になっちゃうもんね。そうだ、”ぬくもり”と”暑苦しい”の違いって何かな?』


♂「まーた変なこと言い出した」


♀『変じゃないよー。どこまでが”ぬくもり”で、どこからが”暑苦しい”になるのかなって思っただけ』


♂「うーん、相手が”嬉しい”なら”ぬくもり”で、”嫌だ”って思うようなら”暑苦しい”だな」


♀『おお、なるほど。分かりやすいかも』


♂「だろ?」


♀『じゃあ、宿題とかしてる最中に、私がこうやって裕也ゆうやくんに話しかけるのって、”暑苦しい”?』


♂「”ぬくもり”だ」


♀『じゃあ、もっと近くに座って、裕也くんの耳引っぱったりしてみたい言ったら、”暑苦しい”?』


♂「”ぬくもり”だ」


♀『へへ、ありがと…』


♂「でも、あんまそういう事すると、お前と…その……変な事したいって気分に、俺がなっちまうぞ。それは…”暑苦しい”だろ?」

裕也くんが両手をこたつに入れて、天板てんばんにあごを乗せながらそう言った。


♀『”ぬくもり”だよ…』

私も同じ体勢になってそう言った。

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二人のぬくもり 倉田京 @kuratakyou

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