メリコメリークリスマス〜クリスマスが誕生日な私に贈られた、大切なプレゼント〜

アステリズム

短編です。短い時間、お付き合い下さい。

クリスマスイブと誕生日が同じ人っているでしょ?

 誕生日プレゼントもクリスマスプレゼントもワンセット。パーティーだってワンセット。


 子供の頃に誕生日会を開いても、友達が来るのはいつだって、クリスマスパーティーのついで。


 世の中の人が祝うのはキリスト様の誕生日。私にとっては、特別な日が人より一日少なくなるだけ。だから私はクリスマスが大っ嫌い。


 そして今年も、もう少しでクリスマスがやってくる。私の特別な日がついでになってしまう嫌な日が。メリークリスマスなんて、一生言わないでしょうね。


「メリコ〜なんでそんな鬱ってんのさ〜」


「メリコじゃなくてマリコ!私の名前はマ・リ・コ! 」


 そう、私の名前は真理子。でも12月24日が誕生日だとわかるなり、付けられたあだ名はメリコ。メリークリスマスなんてクソ喰らえ!


「何年言ってんだよメリコ〜諦めろよぉ〜」


 ちくしょうめ。え? このゆる〜い奴は誰かって? この子は産まれた病院から幼稚園に小中高、そして大学、更には職場までうっかり被った私の親友、楓だ。本当、腐れ縁って奴ね。

 ――――ちくしょう、自分だけ可愛い名前しやがって。


「アンタが言わなくてもみんなメリコって呼ぶのよね……納得いかないわ。次にメリコ言ったら次の台湾旅行は一人で行くことになるわよ」


「なにをぉぉ!私に逆らうような悪い子にはサンタさんが来ないんだぞぉ」


「何者よあんた! 」


  楓は友達というより、むしろ姉妹に近い。こんなゆる〜い奴だけど、子供の頃からクリスマスじゃなくて、私の誕生日を祝ってくれた一人だ。本当に大切な、私の親友。


 そして今、いつもの様にカフェでダラダラと会話を楽しむ。女二人で探り合いってのも中々面白いもんよ。今更探ることなんて無いけどね。


「んで? メガネとはどうなんよ」


「メガネはやめなさいよ。メガネだけど」


「やっぱメガネじゃ〜ん」


 おい楓、何故そこでドヤ顔するんだ。因みにメガネってのは、子供の頃からメガネを掛けていた私たちの幼なじみ、海斗の事だ。誕生日を祝ってくれる、もう一人の友人。そう、友人だ。


 楓……ムカつく顔だなぁちくしょうめ。


「今ムカつく顔だなって思ったでしょ〜、お見通しよ? 」


 ――――くっ!


「分かった分かった! 降参! 海斗とはなーんにもないよ」


「マジで? あのヘタレめ。メリコに惚れてんの見りゃわかるってのにな〜」


「メリコ言うな」


 海斗は2つ歳上のド真面目人間だ。昔から引っ込み思案というかなんと言うか、インドア派を絵に書いたようなガリ勉君。そしてエリート街道まっしぐら。家が近所じゃなかったら絶対に住む世界が違ってただろうなぁ。


「本当になんの連絡も無いの?」


「無いよ。なんでそんな念押しすんのよ」


「うぇ?いやぁ? だって気になるじゃないの」


 気になるねぇ……。

 大体楓がこういう時は何かを隠しているってのがお決まりのパターン。


 楓はスマホ片手にアイスコーヒーをすする。また新しいゲームでも始めたのかねぇ。


「ま、今年の誕生日は開けておきなさいなぁ、サプライズパーティーするからねぇ〜」


「言ったらサプライズじゃ無いでしょうが」


「内容はサプライズだから良いの〜」


 そういうもんなのだろうか、そうなのかな。そうなのかも。うん。絶対違うね。

 しかし、楓は必ず誕生日と言ってくれるのだ。クリスマスじゃなくて。本当は自分の予定もあるだろうに。


「どうせその日は暇だしね……」


「あっ……うん……」


 うん。自分の予定、無いみたい……。


 そんないつも通りのやり取りをしていると、スマホアプリの着信音が鳴る。着信音はクリスマスより嫌い。どうせ録な連絡じゃないからね。


「着信鳴るだけでそんなげっそりしちゃってさぁ……メリコ〜休日足りてないんじゃないのぉ?」


「アンタと同じ日数でしょうが」


「そりゃそうか! じゃあ寝不足だ〜」


「寝不足は……そうかも」


「寝不足にはお酒だ〜! 飲みに行くぞ〜! 」


「帰って寝るわ! 」


「ぶぇ〜」


 着信のあったアプリのメッセージ項目に赤い丸が着いている。開いてみると、噂のメガネ君からのメッセージだ。


 24日。6時、いつもの所集合。お楽しみに。


 ――――不器用なんだから。


「メリコ〜何ニヤニヤしてんのさ〜」


「ニヤニヤなんてしてないでしょ!」


「嘘つきめ〜気持ちがニヤニヤしてんのよ〜」


「何それ、超能力者じゃあるまいし」


「なんでもお見通しなのよ〜」


 本当にお見通しなのかもしれない。

 だって、本当はちょっとだけワクワクしてたから。

 ――――――――ちくしょうめ。


 ◇◇◇


「真理子先輩、真理子先輩」


 あれから数日、海斗からはなんの音沙汰も無し。返信してそれで終わり。なんだかなぁ。もうちょっと、何かあっても良いと思わない?


「メーリーコーせーんーぱーいー!」


「メリコ言うな!」


「だってメリコって言わなきゃ返事しないじゃないですか!」


 確かに。条件反射って怖いわ。


「違う!そうです!大変です!」


 どっちよ!


「部長が結婚するんですって!あんな堅物を好きになる物好きっているんですねぇ〜」


「そりゃ事件だわ。本当に?」


「私がガセネタ掴んだ事ありますか!? 」


「8回くらいね」


「6回位しかないです!」


「うんそうね。確かに6回だったわね。さっさと仕事しなさい!」


「ううぇぇ」


 しかし部長が結婚ねぇ。毎日几帳面に鉛筆削ってる真面目で鰹節みたいな人なのに。って言うか彼女いたのね。ああ見えて結構やるのかしら。いや、あの若さで部長やってんだから、そりゃやり手よね。ホント人は見かけによらないのねぇ。


「今、人は見かけによらないって思ったでしょ? さっきの部長の話〜?」


 椅子のキャスターをコロコロと動かし、楓がこちらへとやって来る。……コイツはニンジャか何かなのだろうか。なんで知ってんの。


 しっかし、堅物と結婚ねぇ。っていうかそもそもどっから洩れたのこの噂。


「部長もやるわね。相手は幼なじみだってよ〜、堅物と幼なじみの恋愛なんてどっかで聞いたことある話ね〜気になるね〜」


「そう言えば真理子先輩、聴きましたよ! お医者さんと良い感じとか! 良いですね〜! 」


  「コイツらはいつか締めないといけない」


「待って、それ心の声よね〜? 心の声が外に出ちゃってるよね〜?」


「お仕事頑張りま〜す!」


「まぁそれはともかく楓、今年はどこで飲むのよ」


「秘密よ〜秘密、お楽しみにぃ〜」


「毎年そう言ってるけど、結局いつも通りじゃない。どうせフェンリルでしょ?」


 フェンリル、私たちの行きつけのバー。毎週一日は必ず行く大人のオアシス。最近は新しいものが怖くなってきたのよね。いつもと同じ、いつもの場所が一番落ち着く。まだ25なのにどっと老けたような気がする……。


「そりゃアンタだけよ」


「心を読むな!」


「以心伝心って奴よ〜」


「一方通行な気がするけどね」


「照れるなよ〜メリコ〜」


「照れるどころか怖いわ! あとメリコじゃない!」


 そんな中、咳払いの音が私の真後ろから聞こえてくる。嫌な予感しかしない。


「君達が祝ってくれるのは嬉しいんだけどね」


 うーん聞き覚えのある低い声。


「申し訳ないが、堅物からのプレゼントだ。チェックと整理を頼むよ」


 私と楓、そして後輩の机の上にドサッと紙の束が置かれてしまう。ちくしょうめ!


「「「ええええぇぇぇええ」」」


「大丈夫、君の誕生日までには大体の仕事は片付けるさ。私にも大切な日になる予定だからね。半分はもう片付けたから、あとは頼むよ」


 ――――――――君の誕生日ねぇ。やっぱこの部長やり手だわ。やる気ができちゃうじゃないの。



◇◇◇


  そしてクリスマスイブが来た。

 世の中はクリスマスムード一色。街はキラキラと輝いて、赤と白と緑があちこちに散りばめられる幻想的な光景。


 毎年、この景色を見る度に、今日の主役はお前じゃないと言われているような気がして、なんだか虚しくなるような、そんな気持ちにさせられる。いつも待ち合わせに使うモニュメントの前で、ふとそんな事を考えてしまう。


「そりゃ被害妄想ってやつよ〜」


 また心を読まれた。一体こいつはいつの間にこの特技を習得したのか。


「でもなんでこんなしっかりと決めてこなきゃならないのよ。ドレスコードの店にでも行くの? 」


「秘密〜、それにしても、そんなに嫌がる事無いじゃないの〜相変わらず拗れた性格してんだからもぉ〜。だからメリコって言われるのよ?」


 絶対にだからの使い方間違ってるよね?


「メリコっていう」


「お待たせ。久しぶりだね、二人とも」


 私のセリフと被る、聞き覚えのある優しい声。噂のメガネ。海斗が現れた。


「来たわねぇメガネ〜、でもまだ30分前よ? 相変わらず真面目なんだからぁ〜」


「メガネはやめてよ楓ちゃん……そりゃ感謝はしてるけどさ」


「はいストップ〜、余計な事は言わな〜い! そして、ここで私から悲しいお知らせがあります」


 楓が唐突に話題を遮る。唐突なのはいつもだからいいんだけどね。


「なんと〜! 楓さんは今から緊急の用事でここを離れなければならなくなったのです! ごめんねマリコ」


「メリコって……もう癖になってるのね。いいのよ楓、アンタがそういうならよっぽどの用事なんでしょ? 」


「人生に関わるレベルよ」


「なら、早く行かないと。でも何だか嬉しそうね」


「やっぱり、以心伝心なんだ〜。また会いましょ」


「見ればわかるっての。それに毎日会ってるじゃないの」


「それもそうね〜」


「ありがとう、楓ちゃん」


「え?なんて言ったの?」


「ん? なんでもないよ。なんでもない」


 そうして、楓は笑いながら街中へと去っていった。誕生日に寝る前まで楓と一緒に居なかったのは、人生で初めてかもしれない。もしかして誰かと予定があったのかな。


「さてと、移動しますか」


「うん。行こう。どこ行くか知らないけど」


 海斗がイレギュラーにあっさりと対処するなんてそうそう無い事だと思う。仕事での判断力は凄いらしいんだけど。でもなーんか怪しい。


 そうして着いた先は、まさかの夜景が綺麗な高級レストラン。こんな所を予約していたとはね。そりゃドレスコードだわ。


 レストランの個室へと通される。こんなしっかりとした所じゃ無くて良いのに。ていうかめっちゃ高そうなんだけど大丈夫かな。


「さてと、まずは誕生日おめでとう。メニューはもう決まってるから、あとはゆっくり景色と会話を楽しむだけだ」


 当たり前だけどメニューはクリスマスディナー。それでも私には凄い贅沢なんだけどね。なんだかなぁ。


「…………」


「…………」


 話が続かない! そもそも二人きりになるなんて想定外だったし!

 楓が居ないとこんなに静かなんてねぇ…………。


「あまり、連絡出来なくてゴメン。僕はその……話すのがあんまり得意じゃないからね」


「何年の付き合いだと思ってる? よ〜く知ってるわよ」


「だよね」


「…………」


「…………」


「楓がいないと静かね」


「楓ちゃんか……そういえば」


「そう言えば?」


「君たちと僕が初めてあった時を覚えてるかい?」


「初めて、あった時…………確か……」


 そう。海斗と私達の出会い。それは20年前の出来事。楓が幼稚園のジャングルジムから、ダンボールで出来た羽を持って空を飛ぶと言い始めたあの時。私が必死に止めたあの時。


「やめなよかえでちゃん! あぶないよ! けがするよ!」


「でも〜、このあいだテレビでやってたんだもん。ダビンチせんせいってひとがこれでとんだって〜」


「違うよ。ダビンチ先生は空を飛べなかったんだ。飛行機を飛ばしたのは、ライト兄弟だよ。つまり君は落ちる。落ちたら危ないし、みんな傷つく」


「やってみなきゃわかんないでしょ〜! ていっ! 」


「「あっ」」


 そうだ。そうして海斗と私に楓が突っ込んできて、何故か3人で先生に怒られたんだった。


 なんだかムカついてきたわ。しかも海斗、なんて生意気なの。楓ったら、あの時論破された事ずっと根に持ってんのね。


「そうそう、あの時止めたのに、楓ちゃんが落ちるもんだから、先生からたっぷり怒られたんだ。ひどい話だ」


「そうね、しかし楓ってば、あの時から今もあんまり変わってないんだから。ほんとに」


「確かにね、君たちは二人とも全然変わらないんだもんなぁ」


 昔話に花が咲き、会話が弾む。こうして海斗と話すのはいつぶりだろう。結構間空いた気がするなぁ。


「君は今も、クリスマスと誕生日が同じ事を嫌がっているよね」


「クリスマスって聞くだけで滅入るくらいにはね」


「そりゃ、重症だ。複雑過ぎてバイパス手術でも治せない」


「…………今のって、ジョーク? 」


「一応、ドクタージョーク…………かな? 」


 ドクタージョークって初めて聞いたかもしれない。


「…………あの時」


「あの時? 」


「ジャングルジムで楓ちゃんを止めた時、なんで僕が止めたか、わかる?」


「そりゃ普通止めるでしょ。危ないもん」

 

「いや、そうなんだけど。ほんとはね、心配だったんだ。下にいた君が」


「え?」


「僕の気持ちは、あの時から止まっているんだ。あの時からずっと」


 これは、この流れは、まるで告白シーンみたいじゃない。


「なんて言うか、君はクリスマスに誕生日が重なって、損している気分になってるのかもしれない。でもクリスマスなんて関係なくて、君の誕生日は君の誕生日なんだ。そうだろう? 」


「うん」


「それでも、君にとってクリスマスをもっと特別な日にしたいんだ。そうすれば、毎年この日を喜べるようになるかなって。例えば、交際記念日とか、結婚記念日とか、婚約記念日とかなら」


「それって……海斗? 」


 海斗はいつの間に持っていたのか、テーブルから席を立ち、私に膝まづいてカーネーションの花束を渡してくれた。中にはネックレスまで入ってる。


「今更なんだけど、今日まで待ってたんだ。真理子。僕とお付き合いしてくれませんか」


 まさか、ここで、このタイミングで告白されるなんて思いもしなかったけど。けれども。


「はい、喜んで」


 ◇◇◇


「楓ったら、結局フェンリルで飲んでるんじゃないの」


「飲みすぎじゃないの、楓ちゃん」


「な〜んで二人してこっちに来ちゃうかな〜んで?どうなったのお二人さん?」


 こいつ、やはりぐるだったのか。


「丁重にお断りしたわ」


「「えっ!? 」」


 やった!久々に裏をかけたわ。


「ジョーク返しよ」


「なぁんだ〜やっぱりね。おめでとう。散々葉っぱかけた甲斐があったわ〜」


「!?」


「楓ちゃんにちょくちょく相談してたんだ。そしたらノリノリではっぱかけられちゃってね」


「なるほどねぇ、でも、人生に関わるって、私の人生だったのね」


「違うよ〜、メリコの人生は私の人生だもの。ハッピーバースデー、メリコ。誕生日プレゼントは彼氏とこ〜れ。多分直ぐに使うでしょ 」


 本当に良い友達。そして、本当に良い人と付き合う事になった。


 私の誕生日。私の記念日。そしてクリスマスイブ。


 私だけの、特別な日。


「ほらね〜使う事になったでしょ?」


 結局お見通しか。


 メリコと印字されたハンカチで涙を拭きながら、3人で一晩飲み明かす。


「二人とも」


「う〜ん?」 「なんだい?」


「その……メリークリスマス!」



 終わり

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