可愛い生物


「私が今日話したかった事、言ってもいい……?」


 そうじゃないと、咲耶と向き合う資格なんてないから。


「咲耶に告白されてOKしたのは、当て付けなんかじゃない。他にも理由付けしてみたけどやっぱりどれも違う。ただ……」


 咲耶がどんな気持ちでいたのか考えもしないで、言いたい放題ワガママ放題。


「寂しかっただけ。そんな勝手な理由で付き合いだしたの。ごめんなさい……」


 それをきちんと謝って、その上でリセットしたかった。図らずも私たちの関係は白紙になってしまったけれど。

 

「あ、天音さん……」


 頭の上に降ってくる、戸惑ったような声と気配。

 

「……今度は、私が」

「え?」


 震える手でスカートを握りしめる。こんなに苦しくて、何かを伝えるのに緊張するなんて初めてだ。


「猫背でメガネがダサくてモサモサ頭で、ビビりであがり症で全然頼りない都市伝説男だけど……」


 それでも伝えずにはいられない。


「草花が好きで、ヒョロッとしてるのに実は細マッチョなのがカッコ良くて」

「え? え、ええ?」

「素直で純粋で、誰かの悲しい気持ちを自分の事みたいに感じられる……」


 これが今の私の、丸ごとのキモチ。


「優しい咲耶くんが、好きです……!」


 さわさわ……チリン。


 コスモスと鈴の音に誘われて、私はそろそろと目を上げた。そこには呆然とした、ちょっとメガネがズレてる咲耶の顔。


「か、可愛げのない私だけど、つ、つ、付き合ってもらえませんか……?」


 不安と期待がごっちゃになって、極度の緊張に今にも倒れてしまいそう。


「いえ……、こんなに可愛い生物せいぶつ、初めて見ました……」


 うわ言のようにそう呟いた咲耶。


「ぼ、ぼぼ僕で、よろしければ、その……改めてよろしく、お願いします」


 その返答に私の緊張の糸がプツンと音を立てて──切れた。


「えぅ……、う、ぁ、うわぁぁぁあん!」

「ええ!? な、なんで!? よ、よしよし。よーしよーし……」

「ああーーん! ぅあああぁぁぁ……」 


 いつからなんてわからないけど、今は絶対私の方が”好きのキモチ”が大きいと思う。


 だってこんなに幸せなんだもの──。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る