さよなら、咲耶


「お昼休みに呼び出されまして、天音さんとやり直す事になったと。今も彼と会って来たんですよね? ……良かったです」

「咲耶……」


 彼はベンチに腰を下ろし、天井を仰いで長く息をついた。


「僕と付き合ってくれたのは彼への当てつけだって事、知ってました。僕、耳だけは昔から良くて、聞きたくない事まで聞こえちゃうんですよね……」


 頬をポリポリとかいて苦笑い。

 あの時のミカの言葉、やっぱり拾われてたんだ。


「でも、それでも構わないと思ってました。だって天音さんの傍で、話しかけてもらえて、たまにですけど笑った顔が見れて……」


 なんでドモらないで喋ってるの。こんなの私が知ってる咲耶じゃない。


「その奇跡に比べたら、傷つくことすらおこがましいというか……、だから」


 メガネをクイと押さえて、ゆっくりと彼が私をみつめる。 


「僕たち、これでサヨナラです」

「…………っ」

「今までありがとうございました」


 ペコリと頭を下げ、最後までドモリも噛みもせずに咲耶は別れを告げた。


 コスモスが同じように頭をもたげて、サワサワと風に揺れる。


「私、は……」


 うまく息ができない。胸がバクバク音を立てて私を殴る。

 痛い、痛い、ただ痛い……! それでもなんとか声を絞り出さないと。

 

「今日は水曜日……。毎週水曜は私、委員会だよ。忘れたの……?」


 咲耶が顔を上げ、訝し気に眉をひそめた。


たけるがなんて言ったか知らないけど、彼とは今日会ってない。やり直したいってメールはあったよ、でも私」


 信じてもらえなかったのは仕方がない。だって私、まだ何ひとつ伝えてないんだもの。


「彼氏いるからって……その場で断った」


 咲耶がどんな顔をしてるのか、見るのが怖くて下を向いてしまう。


「でもあんたはもう、私の彼じゃないんだね……」

「天音さ……」

「待って!」


 うつむいたまま、私は震える唇でひとつ深呼吸をした。



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