もう少しだけ、このままで

 

 すると、ニコニコ私を見ていた咲耶がまたもやハッと息を飲んだ。 


「い、いやあぁぁ! はず、恥ずかしいーー!」

「だから女子か! 男じゃなかったんかい!」



 ──こんな風に、私と咲耶の日々は過ぎていく。


 ゆっくりと穏やかに。時々ちょっとズレたすれ違いはあるけど、それも楽しかったりして。


「天音さん。ブ、ブルーベリー食べませんか。もう最後の収穫なんで……」

「嫌いじゃないかも」


 気が小さくて臆病で、ダサくてモサくて都市伝説の怪物に喩えられるような人だけど。


「天音さぁん。ほら、可愛いのがいました。どうしたのキミ、迷子……?」

「そのダンゴムシ乗っけた手で私に触らないでね……!」


 咲耶は、とても優しい。


 私が座るベンチには、いつの間にかシートクッションが置いてある。


 昨日は温室のドアに小さなベルを取り付けていた。

 奥で作業していても、私が来たらすぐに気がついて飛んでこられるようにって。


「ねえ、咲耶」

「はい、天音さん」


 こうして名前を呼び合う時間がとても柔らかい。


 私はいつまでこの人の彼女でいるんだろう。


(もう少しだけ、このままでいてあげてもいいかな……)


 そう思っていたのに──。



【尊:天音へ。俺やっぱお前じゃなきゃダメだ。もうワンチャンスくれよ。明日の放課後、屋上で待ってる】

  

 数日後の夜、私のスマホにたけるからそんなメールが入ったのだった……。


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