オトコですから


「さ……最初から、です……」

「最初?」

「入学式の自己紹介の時……。天音さん、綺麗でハキハキしてて真っ直ぐみんなを見て。なんてカッコイイ女の子なんだろうと、憧れました……」


 言われてみれば咲耶とは1年の時も同じクラス。だからなんとなく私、下の名前も覚えてたんだ。


「僕は……気が小さくて、あがり症で。目立ちたくないのに小学生の時にはもう身長170越えちゃって。なんとか小さく見せようと猫背になる癖が、未だに抜けません」


 ああ、そうか。

 もしかしたら心無い嫌がらせや、からかいなんかもあったのかな……。


「そんな僕だから、いつも堂々として物怖じしない天音さんは凄く眩しかったんです……」


 頬を染め、本当に眩し気に目を細めて咲耶が私を盗み見る。

 でも、その好きな理由って……。


「つまりあんたは、なんでもズバズバ物言ってふてぶてしい態度の私が羨ましい。そんで気になるようになったと」


 私の言葉に、ハンカチの上から覗いた茶色い瞳がパチパチと瞬いた。


「でもさ、それって恋愛感情じゃなくて、親分に憧れる子分の気持ちじゃない? そんな私、女の子としては……可愛げがないよ」


 ポツンと胸に落ちる、苦い思いと記憶。


「可愛いですけど……?」

「は?」


 眉をひそめる私に、咲耶は不思議そうに小首を傾げる。


「そんな親分っぽい天音さんなのに、いちご牛乳好きなトコとか。僕、甘くてあんなの飲めません」

「なっ……! そ、そんなの、食の好みの問題じゃん!」

「あと教科書に載ってる説話に感動して密かに泣いちゃうトコとか」


 現国の授業!? ごんぎつねか! てか、気付かれてたの!?


「あとちょっと音痴なトコとか」


 音楽の実技テストーー!


「あとは……、照れると口が悪くなるトコ」

「う……っ」


 エヘエヘと嬉しそうに、しかもドモリもせずに。

 調子乗ってんじゃない!って言いたいのに、顔がジワッと熱くなってなぜか声が出ない。


「僕も男ですから。可愛いと思うトコがなければ、憧れが恋に変わったりはしませんよ」

「……!」


 頭の中が、真っ白。

 ただ自分の心臓の音だけがやけに大きく耳を打つ。


 ビビりのくせに、ビン底メガネのくせに、髪型モッサリしてるくせに……


(お、男とか……! いきなりイッチョ前のクチきくな!)


 それも唇が震えるだけで声にはならない。


 


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