ビビリなカレシ


「目玉なんて直接は触んないよ。レンズをペタッとくっ付けるだけ」

「くっ付けるんですよ!? 目玉に、みずから! ひいいいぃぃ!」

「私なんてこの前、寝ぼけてさ。コンタクト入ってないのに外そうとして角膜つまんで引っ張ってたよ?」

「いやあぁぁあ! 天音さんの目、目えぇぇ! 無事だったんですか!?」


 弾かれたように私の両肩を掴み、咲耶が泣きそうな顔で目の中を覗き込んでくる。


「…………」


 初めてこんな至近距離で咲耶の目を見たけど、ちょっと色素が薄くて外人さんみたい。おまけに肌なんか私より綺麗かも。

 ううん、そんなことより。


(なんでこの人って、他人を心配してこんな顔するんだろ……)


 あの時もそうだった。

 まるで私の顔を映したみたいに、今にも泣き出しそうな顔をしてたっけ。


「すっ……!!」


 ハッと我に返ったように、彼の茶色い瞳が大きく見開かれた。


「すいませんすいません! あ、天音さんのか、肩っ……! つ、掴んじゃって、馴れ馴れし……な、なれなれれれ……!」


 跳び退って、ベンチの端っこギリギリの所に掴まってる。真っ赤な顔して、いつも以上にドモり倒して。


「別に……いいけど」

(私、一応あんたの彼女なんですけど。肩掴むくらいなんだってのよ)


 なんでだろう。私もいつも以上にイラついてる。


「……ビビり」

「え? あ、はい……。昔からお化けも苦手ですし、暗い所も高い所も注射も……。ましてや目玉を触るなんて」

(あーそーですか!)


 項垂うなだれる咲耶にお尻二個分くらい近づいて、今度は私がその顔を覗き込んだ。


「ねえ、ところでさ。咲耶は私のどこが気に入ったの?」

「ええ!? そ、そんな突然……、はず、恥ずかしい……!」

「女子か! いいから教えてよ」


 もじもじとまたタオルハンカチを畳んだり開いたり。やがて、蚊の鳴くような声で答えが返って来た。


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