ヘタレなカレシ


※※※※※



 咲耶は園芸部。放課後はいつも南校舎裏にある温室で、菜園と花壇の世話をしている。

 園芸部といっても、部員は咲耶一人だけど。


「僕、土いじりが好きで……。ほ、ほら一昨年までウチの学校って農学科があったでしょう? 園芸部はその名残らしいです」

「でも今は咲耶だけじゃん。廃部にならないのは、庭師代わりでしょ」


 彼が土を掘ったり植え替えをしたり水を撒いたりする作業を眺めながら、傍のベンチから話しかける。


「その通りです。はは……」


 そんなたわいもない話をしながら放課後を一緒に過ごすのが、最近の私たちのルーティンだ。

  

「じ、実は僕、天音さんにご報告が……」

「ん?」


 咲耶は水道で丁寧に手を洗い、ベンチの端っこにチョコンと腰かけた。でっかいくせに。


「き、昨日……僕、眼科に行って、コ、コンタクトレンズを購入しました……」

「え、そうなの? じゃあなんで今日もメガネ……」


 手元でハンドタオルをいじいじと弄ぶ咲耶に、微妙な予感しかしない。が、しかし。


「まあいいわ、聞こうじゃないの。話を」

「あ、ありがとうございます。天音さんが高価な物だと言うので、僕は定期預金を解約して向かいました……」

「定期解約!? 高価のレベルが違くない!?」


 いやいや、ここは落ち着いて、冷静に聞く耳を持たなくては。


「はい……緊張の検査を乗り越え、金額を聞いてホッとしたのも束の間。次に医師せんせいは練習として自分で入れてみろと……!」

「まあそうだよね。それでっ!?」


 いけない、聞かなくても先が読めちゃうからついイラッと。


「じ、自分の指で目玉を触るというのがどうしても……。ど、どうしても、こ、怖くて……!」

「出来なかったのね?」


 コクンとデカい男が頷く姿は、なんというか……かなりシュールだ。



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