可愛げのない女

 


 ──1年の2学期から先月までの1年間、私には周防すおう たけるという彼氏がいた。


 サッカー部のエースストライカー、人懐こくて明るい性格。

 仲良くやっていたつもりだったのに、たけるにある日こう言われた。


【俺、他に好きな子できた。天音あまねを嫌いになったんじゃないけど、お前ってキツいし、あんま可愛げがないよな】


 そして次の日、尊とその新しい彼女が廊下で話しているのを見かけた。


 確かにキャッキャとよく笑い、かと思うと唇を尖らせて拗ねてみせる……可愛げのある女の子だった──。



 私はあんな風に笑えないから。

 あんな風に、上目遣いで頬を膨らませて拗ねたりも出来ないと思う。


 だから可愛げがないと言われても、何も反論できない。


「ご、ごめん天音。今の、スキニーマンに聞こえちゃったかな」

「……大丈夫、教室うるさいし」


 本当に、当てつけなんて考えてなかった。


 あの時、私は尊が彼女と一緒に近づいてくるのに気がつき、慌てて水飲み場の陰に隠れた。

 彼女の甲高い笑い声が頭をガンガン揺さぶって、尊の楽し気な笑顔が胸を斬りつけて。


(咲耶は気がついてたはず。そんな顔しないでって言ったもん……)


 あの吐き気がするほど傷ついていた時、咲耶が好きだと言ってくれたことで私は少なからず救われた。


 だから、つまり恩返し?


 もう少し堂々と、背筋も伸ばして。

 私との付き合いで女の子に慣れれば、いつか彼女だってできるかも。


 漠然とだけど、そう思ったんじゃないかな……。




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