第43話

43.

 

 

 無事にタイノの街へ到着した。

 門番にいつもどおり冒険者タグを見せれば騎獣の施設へ案内された。

 

 

 まあ、どこの街でも同じなのだけれど、 騎獣はこの街でも基本的に出歩きは禁止されているそうだ。それも当然の話で、人同士の争いに少しでも騎獣を巻き込まないためでもあるそうだ。

 

 騎獣というのは、誰にとっても財産であり家族なのだというのが、この世界での常識でもあるという。そんな中で、この領地では騎獣を飼育、調教、売買まで行っているため厳格な規則をつけて取り扱っていることが多いそうだ。

 

 基本的に、この世界のどこに行ったとしても、この騎獣を預かるシステムはあるのだという。門番に申請すれば、それだけで施設を利用させてくれる。ただし、その分の料金も発生するのだが騎獣ギルドのお陰もあって料金システムは一律だし、飼育員や調教師、管理人に至るまでギルド本部での指導を受け、なおかつ試験に受かった者しか職員になれないそうだ。

 

 フェネスの街にいたクレアさんの兄、ナキもまた騎獣ギルド本部にて、数年の指導を受け調教師になったのだと聞いている。だからこそ、安心して騎獣を預けられるのだと、彼は言っていた。

 

 施設にしても職員たちにしても、大元の騎獣ギルドが管理しているため、問題が起こらないように最新の注意を払ってくれている。もちろん、バカがいないわけじゃないのだが――ギルド本部同士で繋がりを持っているため、問題行動を起こした者に対しての罰則は個別のギルドのそれよりも大きいものとなるらしい。

 

 と、まあ、この辺はナキさんが教えてくれたことなのだけれど。

 

 

 施設に入ると、職員たちに微笑ましいというよりも、生暖かい目で見られはしたが、お揃いの騎獣契約タグを確認されると割札を渡されて『大切にお預かり致します』と言われた。

 ただ、キョウとパドルのお別れ儀式を見ていた職員さんたちからは『相性が良すぎると結婚できないんだけどな』という言葉には、シュウとふたりで大爆笑をさせてもらったけれど。

 

 

 そんなこともありつつ、門番たちから『街での規則』というものが記載された木の板を渡され、出るときには返却するよう伝えられた。こんなものを渡すなんて珍しいな……と思っていたのだけれど、木の板を見て納得してしまう。

 

「そういや、そろそろ国境なんだな」

「……あ、そうか」

「――この先って国境なんですか?」

「そうなんだよ。自分たちの目的のある国」

 

 キャラバンを作ってくれるドワーフがいる場所である! のだけど、実際には国境付近でなら、ドワーフが売りに来てたりするから、別に国境を渡る必要もないのだということは、どこのギルドでも教えてくれる話。

 

 それでも、できることならば――オーダーメイドのキャラバンが欲しいのである!!

 

「そのまえに、カナ」

「ん?」

「宿屋、な?」

「言わずもがなだな」

 

 

 

 タイノの街にも多くの宿屋があるけれど、フェネスほどの宿屋街というものはないのだと、教えてくれたのは騎獣施設の管理職員だった。ついでに、自分たちのような新人冒険者でも二泊くらいできそうな宿屋はと問えば、三つの候補を教えてくれた。

 その中でも二人部屋をふたつ用意できるという宿屋に決めたのは、店主や従業員がセントたちを思い起こさせたからだ。

 

 食堂完備の宿屋だけれど、新人だからと部屋で取ることをオススメしてくれた店主は『ちびっこがいると、揶揄ってくる中年冒険者も多いからな』と笑いながら言っていた。

 女将さんという人もいるそうだけれど彼女は基本的に厨房を管理してるそうで、リクエストがあるなら言ってくれれば作ってくれるぞとまで言ってくれる。こんなやり取りも、やっぱりこの領地ならではなのかもしれない。

 

 冒険者ギルドでチームを組む申請をするのだと言えば、午前中を狙うと良いだろうと教えてくれたのは宿屋の従業員さんで、朝は依頼を受けに来る冒険者でごった返すし、午後からは早くに依頼を終えた人たちや素材を売りに来る冒険者で、これまたごった返すそうだ。なので、職員の手が空くだろう時間が午前中から昼にかけてなのだと、コッソリ教えてくれた従業員さんには、自分たちのお財布から少しだけお礼をしておいた。

 

 

「さて、名前も決まったことだし――」

「マジでそれでいくのか?」

「ああ、三人で決めたんだから文句ねえはずだろ?」

「あー、うん、まー、ねー」

「でもってリーダーはカナで」

「それも、絶対なわけ?」

「「「絶対!!」」」

 

 食事も終わり、夜の歓談の時間――少しだけ緩めの結界を掛けたのは、冒険者で魔術師のいるチームなら当たり前にしているから。

 だけど、そんな中での話し合いはこんなくだらないことで。

 しかも、弱いとは言え結界を張ってることで声を大にして言いやがった、この三人。

 

「なんか、コクーンとか弱そうじゃない?」

「暖かいからいいの!」

「音的にカッコイイから」

「いいじゃねえか、オレたち三人で話し合いの末決めたんだからよ。カナもウダウダ言うなっての」

「そうだけど……リーダーってのは、性に合わないんだよ」

「けど、この中で一番の物知りで、オレたちを救ってくれたのはカナなんだ。必然的に頼られる存在なんだって」

 

 頼りになるかならないかと言われたら、はっきり頼れないと思う自分だ。過小評価ではなく、自分は思いつくままに生きているところがあるし、好き勝手にしているのが多いタイプだ。そのせいで調和が取れなくなる可能性だってあるわけで――それを考えたらリーダーに向かないと思うわけよ。

 だけど、自分を除いた三人が一致団結してそんなことを言うものだから……ここは諦めたほうがいいのだろうか?? いや、諦めたくないんだけど、無理なんだろうか???

 

 

「とにかく、そこは決まり! 明日の午前中には行くわけだし――ところで、この街では捜索しないんだよね?」

「あー、うん。少し見て回っても気づいただろうけど、裏道らしい裏道ってのがないんだな、このタイノって街は」

「そうだったな。警邏隊もやたらと多かった」

「そりゃ、この先には国境もあるしキャラバンを欲しがる冒険者が馬鹿な真似をしたこともあったっていうし」

「キャラバンなー……手に入るのか?」

「入れるんだよ!!」

 

 そう言い切れば、全員が目を白黒させて――でもって笑いだした。

 なんだ、なんだ? この対応は初めてなんだが??

 

「カナさんらしいよ!」

「うん、カナさんなら手に入れてくれるかもって思える!」

「いや、カナだから手に入れるまで粘るんだよ!」

 

 おいっ! なんでアヤまで納得してるんだ!? ってか、なんなんだよ……悪いけどほしいんだから、絶対に手に入れるのは当然の話だろう? それにキャラバンがあれば完全に自分たちの行きたい場所へ連れてってくれるんだ。騎獣たちは好きに出たり入ったりできるし、これ以上素晴らしい乗り物はないはずじゃないか!

 

「でも、うん! 欲しいです」

「オレも絶対欲しいな」

「僕、自分のお金もいっぱい出す」

 

 そんな言葉で締めくくられた夜のひととき。

 けれど、それを実現させるには――きっと自分たちは、ドワーフの国へ入らなければならないだろう。

 

 だって自分が欲しいキャラバンは、オーダーメイドなんだからな!!!

 

 

 

 翌日、朝の早い時間帯に朝市があると聞いて乗り出した。

 ここは情報の宝庫でもあるため、買い物をしながら多くの商人たちと話をする。もちろん住民たちの情報も侮れないため、決して聞き逃さないようにしておいた。

 

 それぞれ買い物をしながら、お喋りがてら『この辺りで美味しいものは?』という話題から入り、たくさんの情報を手に入れていく。

 そんな中でも、自分だけは美味しそうな食材や野菜、そして調味料だけはゲットしまくっている。

 だって、生きていく中で食はいちばん大切なものだと思うのだ。しかも、今は料理スキルを持っているシュウがいるんだから、美味しいものを食べたいだろう?

 

「ほんと、カナさんの買い物の仕方って――」

「目立ちたくねえんじゃねえのか?」

「……だって、美味そうじゃねえか。作んのはシュウだけど」

「あたしも美味しいもの食べたいです」

「そうだよな? なー? アヤ」

「うんっ!!」

 

 嬉しそうに同意してくれるアヤと同盟を組んで、男ふたりを無視しながら買い物を続けていく。それでも買うものというのは、それほどの価値があるものでもないため、目をつけられると言うよりも呆れの目を向けられるという方が多いのだけれど。

 だいたい、この程度ならば旅人でも普通だ――と思う。そりゃ少し量が多いかもしれないけどさ。

 

「グランたちも食べるし」

「あー、確かに最近はそのせいで食料が早くなくなるもんな」

「だろう?」

「パドルは野菜大好きだからなぁ」

「うちは――雑食すぎるんだ。マジで」

「確かにグランって雑食だよな。うちのも同じくだが」

「あー、キッドも確かに雑食系だね。でもカッコイイよねえ!!」

「見た目はな……カナにも言われたが、あいつは見た目しかかっこよくない。ときどき泣きたくなる」

「それでもカッコイイからいいじゃん!」

 

 我らの騎獣は大食漢ではないけれど、それでもよく食べてくれるため食料の減りが凄いことになっている。だから、これだけ買っても――問題ないのだ!!

 騎獣がいると知れば、商人たちの目も和らぐわけで、ときどきオマケまでしてくれるようになっていった。

 

 そうして気づけば――。

 

 午前9時。そろそろギルドの方も落ち着いている頃だろう。

 

 

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