第42.5話
43. たまにはシュウの視点から。
タイノに到着する前日――チーム名のことで仲間たちと話し合った結果、もう少しちゃんと真剣に考えようという話で終わってしまった。
けれど、オレの中ではひとつだけ決まっていることがある。それは、やっぱりカナのイメージに添わせたチーム名がいいんじゃないかってことだ。
言い出しっぺはアヤだったけれど、アヤなりに考えているみたいだった。
少しだけふたりで話しをしてみたら――なんか、オレと同じ感覚を持っていることで驚いた。
「あのね、あたし……カナさんに助けてもらってからだと思うんだけど、ずーっと温かいところで寝ている気がしてたんだ」
「温かい場所――か。なんか分かるな。安心感ってもんだろ?」
「あ、それかも!? でも、こう、繭の中で丸まっててね――なんていうかさ、うーん、言葉にするのは難しいんだけど」
「絶対的な安心感じゃねえの?」
「え!? あ、そ、うなの、かな?」
「オレも言葉にするのは難しいって思うが――こう、アイツに助けられてからっていうか、今もそうだけど、カナの傍にいられるだけで安心するし安眠もできる」
「あ! そうそう、それなのっ」
「そうか――キョウも言ってたが、やっぱみんな同じ思いなんだな」
あぁ、そうなんだよな。
きっとオレのほうがカナより年上だと思うのに、決してそれを押し付けたりしないんだ。誰に対しても同じ対応で、出会ってすぐには大事に大事にして、言葉も選んでくれる。
カナは、きっと気持ち的な意味でたくさんの思いをいだきながら、たくさんの経験を積んできたに違いない。オレたちよりも多くの経験を――けれど、そのことで他人を下に見ることもないのだ。
オレには結婚して妻も子どももいた。まだ小さな娘だ――それと、妻のお腹には第二子になる子どもが。だから少しだけ焦る思いもあったのだけれど、そんな思いすらも理解してくれようとするカナは、決して自分以外の人間の思いを貶したり責めたり、ましてや無視することはしない。
いつだって傍らにいながら、守ってくれている。
オレたちが背中を向けても、その後ろから守ってくれているのだ。
どれだけオレたちにとってカナの存在が大きいか、きっと本人だけが知らないのだと思う。
ここにいる自分たちの存在を決して否定せず、卑下することすら許してくれない強い人。
だけど、そんな彼女がいてくれるからこそ、オレたちは生きたいと――帰りたいと、心の奥底から思えるのだ。
それに――今は、オレの中にも焦りが減ってきている。それは、カナという存在が傍らにいてくれているからなのだと、心からそう思う。
「コクーン」
「え?」
「コクーンっていうの、どうかなぁって思って」
「コクーンって……繭か?」
「そう。繭。だって、カナさんの傍にいるとね――繭の中で守ってもらっているみたいな気持ちになれるんだもん」
「……あぁ、それは分かる」
「どうかなぁ?」
「よし、それでいこう。でも、それならキョウにも相談してみないとな」
そう言ってアヤを見れば目をキラキラさせていて――何だか、自分の娘を思い出してしまう。
まだ小さな娘は、オレが何かをするたびに目を輝かせて、嬉しそうに楽しそうに見つめてきていたのだ。
アヤは確かに子どもと言える年齢かもしれないが、娘に比べれば大人だ――それでも、そんな仕草を見る度に重なるのは、やっぱり家族が恋しいからなのだろう。
それでも――焦りが亡くなったのは、やっぱりカナの存在が大きい。カナの傍にいるだけで、なぜか『絶対に帰れる』ような気すらしてくるのだ。もちろん、そんな確証などないことも知っているし、どこかで理解もしている。だけど、カナの『絶対に帰る!』という気持ちが強いからなんだと、そう思うのだ。
カナがアヤと共に騎獣たちの面倒を見ている間に、キョウと話をすることにした。もちろんチーム名についてだ。
「アヤが、チーム名を『コクーン』ってのはどうかと言っててな」
「コクーン?? って、もしかして繭ってこと?」
「おお、さすが大学生だな」
「そういうんじゃないけど――なんか、カナさんのイメージだとか色々と言ってたから、それで出てきただけだよ」
「お、なんだ。キョウもそれなりにカナをそんなふうに感じてたのか?」
「普通――そう思うんじゃないかなって。だってさ……僕は死に戻りをした弊害だと思うってカナさんに言われたんだけど、もう死にそうな状態で見つけてもらってさ」
「あ、ああ……そうだったっけ」
「死ぬんだって、勝手に思ってたよ――それなのに、カナさんが助けてくれた。大丈夫だって……シュウさんもアヤも言われてたでしょ? 大丈夫って。もう、大丈夫って」
「ああ……言われた」
「あの言葉ってさ……ちょっと使いみちを間違うと、とってもひどい言葉に聞こえるはずなんだ。何が大丈夫なんだよ! って逆ギレしちゃうくらいに」
「かもな」
「でも、カナさんが言う『大丈夫』って言葉は、とっても優しくて温かくて――恐怖心が消えていくのが分かったんだ」
「そうかもな。うん、そうだな」
「それでさ、あの人に言われたの。見捨てるつもりはないって――シュウさんにも言ってた言葉。あれって真実、そうなのかって疑いたくなるほど軽く言うじゃない」
「あー、そうだったな」
「でも、カナさんは実行しちゃうんだ。ちゃんとそうしてくれるんだよね……暖かいな、守られてるな、大事にしてもらえているなって――そのせいで、ときどき僕もイイ気になっちゃうところがあるけど、それでもカナさんには絶対的な信頼を持っているんだ。裏切りたくないって気持ちを」
「――それは、この短期間でオレも思っている」
「だから、アヤの言ってる気持ち、よく分かる――コクーンって良いね」
「ああ」
「でも――だからこそ、守ってもらっているからこそなんだけどさ――僕もカナさんを守れるようになりたい」
「――そうだな、オレもそうなりたいな」
「チーム名、コクーンで賛成だよ」
「おう」
こんな会話をしながら、オレも思い出していた。
ほんの数ヶ月前の話だ。
カナは――あいつは見ず知らずのオレを見て『大丈夫だから』と『見捨てないから』と言ってくれたんだった。初めてあったはずなのに――普通なら知らん顔されてもおかしくない状況だったはずなんだ。それなのに、カナは言った。『アンタは仲間だから。家族も同然だ』と。
眠る前に思い出す家族の顔。それでも、思い出にもなっていなければ焦りからパニックを起こすこともないのは、間違いなくカナが何かをしてくれているからだと、そう思えるのだ。
キョウだってそうだ。まだ子どもも同然で、ときどき拗ねたり甘えたり――家庭環境のせいもあるのだろうとカナは言っていたけれど、キョウだって帰りたいと何度も言っている。けれど焦っている様子もなければ、カナを急かしたり責めたりする様子すらない。
いつか帰るんだと、本気でキョウも思っているんだろう。それは、今じゃオレも思っていることだけれど。
アヤは――もしかしたら帰りたくないのかもしれない。
けれど、それでもカナとの話し合いで何があったのかは分からないが、彼女なりに考えて『帰りたい』と言っていた。
親にも家族にも恵まれず、ましてや学校という場でもアヤの存在は拒否されているのに、それでも帰りたいと口にできるようになったということは、心が癒やされているからに違いない。
だからこそ、思う――やっぱりカナの存在は、オレたちにとって掛け替えのない大切な人なのだと。
「アヤ、キョウ」
「ん?」
「どうしたの? シュウさん」
「チーム名、あとでカナに伝えような」
「あ……はい!!」
「ああ……うん、そうだよね」
「オレたち三人が話し合って決めた、大事なチーム名」
「「「コクーン」」」
「カナさんのイメージ」
「カナが作り出す空間」
「カナさんが作ってくれた場所」
それがオレたちにとっての『繭の中』だ。
早く帰りたい――けれど、カナたちと共に帰りたい。
そして――。
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