第42話
42.
騎獣ってのは本当にありがたい存在だ。今までの旅がどれだけ辛かったことか、本当によく分かるほどのもの。
今までの時間って何だったんだろうって思うほどに、騎獣の足は助かるものだった。
はじまりの街リーゾルでも騎獣は見かけていたし、それに乗って旅をする人々、騎獣に馬車を引かせて旅をする者たちも見かけてきた。もちろん、それでも騎獣との相性やらなにやらで手に入れられない人も多いらしいけれど、基本的に冒険者は騎獣をというのがスタンスにあるみたいだ。
タイノへ向かう途中にすれ違うのは、基本的に行商や商会の人たちが乗っている騎獣や小さな幌馬車が多かったように思う。すれ違う度に挨拶を交わし合う人々は、この領地特有なのか気さくで時に煩わしい存在でもあった。なにせ四人の新人冒険者だ――しかも、ひとりだけ女の子が混ざっていると知れば、この辺りの人たちは心配そうにお節介を焼いてくるのだから。
けれど悪い気はしていない。食事に誘ってくれたり、美味しいスープをおすそ分けしてくれたりと、本当に心優しい人たちばかりなのだから。
いろいろと学び始めたアヤは、途中から男の子のような格好へと切り替わった。その姿は、まだ成長しきっていない子供らしい少年のようで――特にこの世界じゃ、親の元を離れる年齢に達していない子どもにしか見えなかった。ついでに、美少年とも見えなくもない。なにせアヤは普通に美少女だから。
タイノまでの途中で小さな町に立ち寄っては、それなりの情報収集と仲間の捜索もした。アヤもそれに参加していたし、彼女のインベントリに入っていた冒険者タグでギルドでの仕事も少しだけしている。
少しずつだけど、みんなのギルド貢献も増えてきていて――ランクを上げられるほどのものはないけれど、これならと思えるくらいには、この世界に慣れてきている気がした。
「タイノでチームを結成しておこうと思うんだ」
「やっとか! いいな、チーム。ゲームで言うならPTか?」
「んー、クランとかじゃないの? だって僕らって仲間だし」
「PTだって仲間だろ?」
「PTは仲間じゃなくても組めるじゃんっ! ノラもあるんだし」
「あー、そりゃそうだけどよー」
「何でもいいが、チームを組む――お前たちはチーム名を考えておいてくれ」
「あ、あたしも??」
「アヤもチームメンバーだが? だからこそ協力し合う必要があるだろう?」
「――は、はいっ!!」
もうすぐタイノへ到着というころの野宿でそんなことを発言してみれば、シュウはノリノリでキョウは嬉しそうに、何よりもアヤが狂喜乱舞という顔で、喜びを隠そうともしていなかった。
チーム――この世界では、自分たちがゲーム内で作っていた『クラン』と同じ意味合いを示すものらしい。
チームの編成などや細かい規定などはないと言われているし、新人であっても問題はないけれど、チームを結成するには条件がある。
まず、第一は冒険者ギルドの依頼を全員が三つ以上受け、そして完了させていること。この際に、依頼主からダメ出しをされている場合は完了をしていても数には入れられない。
次に、チームを作るメンバー全員が同意であること。このとき、個人面談をギルドの職員が行うこととなっているが、必ずひとりひとりと職員二名以上が相手となって行われる。そのとき『同意』に問題がある場合、または脅迫などが行われている可能性がある場合には保留とされる。
最後に――これは、それほど重要視されていないのだけれど、チーム名が決まっていること。
こんな感じで、わりと緩めの設定になっているのは、できるだけ冒険者の死亡率を上げないためと言われているそうだ。
新人同士であっても、お互いに助け合える関係性ができているのなら、それだけで生存率が上がる。そのうえ、助け合うという行為において、依頼も完了させやすいということが言われているのだ。
はじまりの街リーゾルでも、幼馴染だったり親子だったりの関係からチームを結成することは別に少なくなかった。冒険者になりたてでもチームを結成するために、お互い協力し合って仲間を作る連中だっているのだ。
ただ、ベテラン冒険者が新人冒険者の依頼料をくすねるために、わざと勧誘してチームに入れる場合などもあるため、ギルド職員による個人面談が行われているのだと言われた。
今回、タイノに入ったら冒険者ギルドへ向かい、そしてそこでのチーム結成を行う予定だ。できるだけ四人でいることが当然であるよう、他の者達に――いや、この世界の者たちにチョッカイを出されないようにするためでもある。
特に――アヤを守るためと言っても過言じゃない。
自分たちはそれなりに自身を守るだけの力を持っている。絡まれたって問題はないと言えるだろう。けれどアヤは別だ。確かに、この世界でいうところの新人冒険者よりは上の力を持っていると思われる。けれど、まだ子どもである彼女は処世術ってのを知らない。もしも相手がベテラン以上の冒険者であったならば、アヤひとりで対処はできないと断言できる。
けれどチームに入っている以上は、それがギルドの中であろうと外であろうと、チョッカイを出しただけで問題視されることとなるし、下手をすればチョッカイを出した方がブラックリストに入る可能性も高くなるのだ。
もちろん、言葉巧みに誘導されてしまえばどうにでもできる可能性はあるかもしれないけれど、そうならないためのチーム結成といえるだろう。何かあれば『チームリーダーに相談します』と言えばいいのだから。
ゲーム内でも、そういうことでトラブルは多かったと思う。とくに年齢が低い子を騙すようなクランがあったはずだ。そんなとき、クランへ入っていて、なおかつ『リーダーや他の人に相談、あるいは聞いてみる』と言うだけで、守れることもあった。それが大きなクランになればなるほど、名前を知られていれば知られているほど、守ることができやすかったのだ。
まあ、今回のことに関しては――アヤを守るためにという名目もあるけれど、それ以上に仲間意識をもって助け合いたいという気持ちがあったのも事実だ。
自分ひとりじゃ大したことができないけれど、仲間がいれば――そんな感覚で。
「なー、カナ」
「ん?」
「チームの名前なんだけどさ」
「おう……」
「みんなの名前をもじったら、どうかなって思ったんだけど、どうだ??」
それは――どうなんだ??
いや、実際には色々と考えはしてたさ。まだアヤがいないときは、ひとりで腹を抱えて笑ったこともあったくらいには。
なぜかって? そりゃもう、『キョウ』と『シュウ』と『カナ』だからね――郷愁かな? とか、宗教家とかさ。ひとりで考えて大ウケして……やめた。うん、本気で笑いすぎてやめたのだ。
そりゃみんなの名前が入るってのはいいことかもしれない。それだけチームに愛着も持てるだろう。けれど、あとから来たメンバーは? ゲームでもクランを立ち上げるときに、クランマスターとの会話でそんなことを言ってた気がする。まだメンバーが少ないうちだったから、それもいいかって話が出ていたけれど、あとから入ってくれるメンバーが愛着沸かないんじゃないかって言い出したのは、確かマスターだったはずだ。
そんなことを考えて――。
「いや、名前はやめよう」
「なんで……って、もしかして……」
「あとから入るかもしれない仲間のことを考えるとさ」
「……そっちか……う、うん、まぁ、そうかもしれねえな」
「――まぁ、シュウキョウとかキョウシュウとか危険だけどな」
「ちょっ!! アヤやカナの名前が入ってないから!!」
「でも、それはそれとして、だ。まだ仲間がいるかもしれないのに、自分たちの名前しかないってのはどうかと思うだろ?」
「――あぁ、まあな」
「だから名前をもじるのではなく、できるならそれなりな感じでつけた方がいいだろう」
「――それなら、リーダーになるカナさんをイメージした名前がいいと思いますっ!!」
ちょ、待て待て待て……何をいい出した、アヤ。
いつ、自分がリーダーになると言っただろうか?? 確かにこの世界での歴も自分のほうが長いかもしれないが、それでも自分がリーダーになるのは……危険な感じがしないでもないのだが。
「リーダーのカナの名前をイメージ――」
「カナさんのイメージ???」
「おい、ふたり――何を考えた? ん?? だいたい、何で自分がリーダーになると決めつけているんだ?」
「「「え!?」」」
「だってそうだろ? 一番年上で人生経験値が高い人と言えば、シュウだろう?」
「……それは……無理だと思う」
「次席なら頭がいいと自負してるっていうキョウでもいいじゃねえの」
「……マジありえないんで、やめて」
「お前ら……」
「でも、あたしはカナさんがリーダーになってほしい!!」
「はぁ!? 何でだよ」
「だって、だって!! このメンバーみんな、カナさんに助けられたからこそ、生き延びてるんだもんっ!!」
「あ、そうだよ、そうそう! オレもそれは本気で思う。カナが助けてくれなかったら、たぶんオレは死んでた」
「僕も――そうだよ。僕なんか、シュウよりアヤより、もっと酷い状態だったんだ。いつ死んでもおかしくなかった」
「いや――それなら全員、いつ死んでもおかしくない状態だっただろ??」
「……それ、言ったら終わるからな、カナ」
だが、みんなそうだったんだから仕方ないだろう? キョウは死に戻りのせいで。シュウは自分に起こっていることが理解できなかったせいで。アヤは自分の身に起きたことに混乱してしまったせいで。みんなそれぞれ、死にそうな思いをしてきたのだ。それは自分だって同じだったかもしれない。もし、あのとき、体が動かなかったら――もし、あのとき、武器を持っていなかったら。自分も死んでいた可能性が高かったのだから。
「何にせよ、悪いがみんな同じだ。自分だって死にそうになってたことは事実。ただ、アンタたちより自分は冷静だったのか、それともゲーム脳だったのか、生存本能の意識が高かったのか。その辺は分からないけどな」
みんな同じなんだと言っても、きっと彼らにはそれぞれ思うことが違うだろう。けれど、助けた側としては同じなんだけどな。
「でも、それなら――余計にさ」
「うん?」
「ちゃんと考えるよ」
「そうだな、オレも真剣に考え直す」
「あたしは――うん、あたしも考えよーっと!」
そうだな。自分も考えることにしよう。
タイノまでは、あと一日もあれば到着するのだから――ほら、もうすぐそこに、街が見えてきている。
『街だーー! やったー』
騎獣たちの喜ぶ声が聞こえてきたけれど、こいつらは知ってるのだろうか?? どこの街でも騎獣が街中を歩くことが禁止されているってことを。
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