第32話
32.
図書館の帰りには、当然だが騎獣たちのいる施設に寄り、そこで夕食を食べた。
騎獣たちとの触れ合いは――まぁ、煩いけれど癒やされるものでもある。
さて、この騎獣たちだが。
それぞれ種別があるが、うちの子は亜種だそうだ。もともとの種族が交配した結果とも言われているけれど、実際には分かっていないらしい。何しろ交配は同じ種族でしか行われていないのと、別種と掛け合わせたくても上手くいってないからというのがナキさんからの情報だ。
さて、グランの種族はガラカンの亜種と言われているらしい。ゲーム内では普通にいた種なのだけどな――とにかく、ガラカン自体が気難しい性質を持っているらしいのだが、うちの子はそれ以上に気難しく気位が高いと言われた。残念なことにグランも自分を探していたから、誰にもなつかなかっただけなんだけどね。
グランがどんな体をしているとか説明しておくけれど、本当にファンタジーなのだから放置して欲しい。マジで流して欲しい。
顔は虎っぽくも感じる猫科のようで、胴体は馬のようにしなやかに見えなくも……ない。背中にはペガサスの翼っぽいものが左右に二枚ずつついているのだけど、基本的にそれを使って空を飛ぶことはない。飛ぶときは魔力を使用。相棒の力も借りてって感じだ。
そして、後ろ足はイヌ科っぽいかもしれないけれど、前足は――馬のものっぽいけど短いし凄くぶっとい。でも力強いので、逃げ足だけは早いと言ってもいいだろう。
次にキョウの騎獣はドウマという種族。とても多い騎獣で性格も温厚――けど、こいつもキョウを探していたから粗悪品とされていたっぽい。
顔は馬、体は犬のようにも感じるけどどうかなって感じか。手足は猫科っぽいけど、たぶん大型種の猫科かな。尾は馬のようにサラサラヘアを纏っている。
この子にも羽はある――が、鳥のような小さな小さな羽で、お飾りであるとしかいいようがない。羽ばたくこともなかったしな。ついでに飛ぶのはやっぱり魔力である。
そしてシュウの騎獣だけどクイガ種と呼ばれている子たち。でも、この子もどこか亜種っぽいとナキさんは言っていた。なぜなら、他の子たちと尾が違っているらしいのだ。
で、この子の顔だけど――鷹っぽくてカッコイイ顔つきをしている。胴体は馬なのに手足は大型の犬科だと思われ、背中にはドラゴンのような大きな翼がついている。ここでも言わせて欲しいが、こいつも魔力で飛ぶ騎獣である。
さて、ここまで説明したけれど、実際に騎獣は人を載せて移動してくれる優れものだ。ただし――現世界では、飛べません。ええ、飛びません!
なんでなのかまでは分かってないけれど、たぶん人間族の持っている魔力が少なくなったからだとも言われているらしい。なので人間族の所有する騎獣は、どの子も飛んでないのが現状だ。
では他の種族が持っている騎獣ならば飛ぶのか――その辺はまだ見てないから知らないけれど、噂では普通に飛んで移動しているとのこと。だから、もしかしたら人間族の住んでいる場所でも様々な人種が移動しているのかもしれない。ときどき空を見るのも楽しいかもな。
そして、最大の秘密は――騎獣との会話だ。
人間族に関してのみの情報では、誰一人として騎獣と会話していないのだ。見ただけでも分かるほどに、誰も……本当に騎獣と会話していない。
けれど騎獣のほうは必死に話しかけていた。どの子たちも一所懸命に相棒へ声を掛けているのだ。
それを見ると少しだけ悲しかった。
ときどき意思疎通ができているカップルと言っていいのか分からんが、騎獣と人間がいたけれど、それでも言葉を介した会話ではなかった。それでも騎獣たちは――彼らに話しかけるのだ。
だからといって、騎獣たちが不幸せというわけじゃない。言葉が通じなくても、それなりにコミュニケーションはとれているようで、長い付き合いをしている相棒同士だと上手く意思疎通をしているのだから。
そりゃ、最初はうまくいかないかもしれない。けれど、契約ができるということは騎獣との相性は良いということで、決して悪い結果は産まないのだとか。
そうそう。騎獣との契約は、双方の気持ちが一致しなければなされないのだ。
無理やり契約しようとしても、騎獣が人間を疎う、厭う場合は決して成立しないのだという。
そのことでトラブルもあるらしいけれど、だからこそ契約するときには役人がついてくるそうだ。
自分たちのときもそうだったが、役人はもちろんのこと調教師や育成師たちが挙って目を丸くするほどの相性だった。即座に契約が成立したのだから。
「本当にこんな再会ってあるんだな」
「マジで感動しちゃった!!」
「オレも泣いた」
泣いてたな、うん。お前たちふたりとも。お蔭で自分も感動で涙の再会をする予定だったのに、思いっきり期を逃したのだよ、ありがたいことに、だ。
「もう、パドルったら『ココダヨ、ココ! ハヤクー』とか言っちゃってさ。もう可愛いったらなかった」
ああ、そうだったな。あれが騎獣でいいのかってくらいに甘ったれた声で叫んでたな。うちのなんか悪態ついてたのに。
「そうなんだよ! オレのキッドもさー『コッチダヨ、コッチダヨ。ハヤクキテヨ』なんて甘えた声で……もう、その場で抱きつかなかったのが信じられない!!」
うんうん、そうだったな。お前もそうだった。あのキッドとかいう凛々しい顔をしている騎獣も――少し幻滅するほどに甘えていたっけな。鷹みたいにカッコイイやつが、だ!!
それなのに――それなのに。
猫科のような顔つきをしている、本来なら甘えたでもいいはずの、うちのグランはっていえば――悪態つきながら足蹴にしやがるしまつだ!
どういうことだ? なんで、こんなにも違うんだ?
あれだけ可愛がって、毎日のようにハグして会話して、グルーミングもしてやってたのに!!!
何が違う――何が違うと、こうも対応が違うんだろうか。
あれか? ツンデレってやつなのか?
ないな――うん、非情にありえない。
その後も騎獣との再会を喜ぶ二人を横目に、自分は遠い目をしながら明日の準備に取り掛かるのだった。
そう、明日にはこの街を出ていくのだ。
ある程度の情報も手に入れた。
意味不明とはいえ、精霊が寄越した情報とも言いにくいもんも手に入れた。
食料も香辛料も調味料だって、準備した。
この街、最大の目的である騎獣も――取り戻すことができた。
あとは、新たな場所へ移動し、仲間を探しながら帰る方法を探していく。
絶対に――自分たちは、帰るのだから。
そう思いながら朝を迎えた自分たちを、先日のように宿屋まで迎えに来てくれたクレアさんが、とんでもない情報をもたらしてくれた。
そのせいで、街を出る日が――変更となったのだった。
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