第30話

30.

 

 

 その後は――言わずもがなな展開となっていた自分たちの周り。

 騎獣と再会し合った自分たちにとっては最高の場ではあったのだけれど、他の人たちにしてみれば修羅場だ、修羅場!

 

 キョウとシュウの騎獣は、一般的に多いと言われている種族だったけれど、調教師も手に負えない荒くれモノとして粗悪品という名札が付けられていたのだとか。

 もちろん自分の騎獣であるグランなんか以ての外で、元来気性の荒い気難しい性質を持った騎獣というというのに、それを上回るほど人を見下す性格から、本来ならば受容性の高い騎獣のはずなのに商品価値が低かったそうだ。

 

 お蔭で思っていたよりも――いや、それを上回るほどの破格で彼らを手に入れたわけだが。

 

 

「こんなに相性の良い関係性を見られるなんて――ココ最近じゃなかったから、みんなの注目の的ね」

 

 そんなクレアさんの言葉に、目立つつもりなんかひとつもなかった自分たちとしては、当然ながら肩身の狭い思いでいっぱいだった。なにせ、騎獣が自分たちから離れない。そんな姿を人々が驚きを隠せない目で見ていたのだから。

 

「俺もこんな関係性は初めてかもな。確かにそれなりの相性とかがあるのも知っているし、お互いの一目惚れで相棒となっているのは見てきたけど、ここまでなのは……本当に相思相愛だな」

 

 苦笑しながらも自身たちで世話をしてきた騎獣たちが、最高の相性で相棒を見つけたというのは感慨深いのだと言うナキ。

 

「三人共、ここに来るまでも騎獣に憧れがあったみたいだったから――相当な思い入れもあったんでしょうね? だからこそ、こんな素敵な相棒ができたのよ! 案内できて良かったわ!!」

 

 クレアさんが嬉しそうに言えば、ナキさんもまた嬉しそうに目を細め――そんな中、居た堪れないのは自分たち三人である。チラリと三人で視線を交換し合えば、やっぱり騎獣たちが嬉しそうに甘えてきている姿が見えて、嘆息せざるを得ない状況だ。

 

 そりゃ少しは期待もしていたさ。

 もしかしたら――って思いがあったからこそ、ここへ急いだんだ。

 だけど、こんなにあっさり、簡単にご都合主義みたいな再会があると、こうなんていうかむず痒いっていうか、なんか嫌なことが起こるのではないだろうか、という不安に駆られるのも事実だ。

 

 それでも、決して離したくないと思うのも本当だ。この相棒を、もう二度と手放したくはない。

 いや、もともと自分から手放したわけじゃないのだ。気づいたらいなかった――それも違うか。もともと、この世界に来るとかという意思はまるでなかった自分だったのだから。

 でも、ゲーム仕様なものを持っている中で、騎獣とキャラバンだけが消えていたのだ。一番、大事にしていたシステムのふたつが!

 

 だからこそ、思う。

 今度こそ、離れ離れにだけはなりたくないと。

 

 

 その後は騎獣との契約をしてお金を払えば、グランは自分と一緒に市場から出ることができた。

 キョウとシュウも同じくで、すんなり自身たちの持ち金で騎獣をゲットしたのである。

 ただし、この街では騎獣と歩くことが禁止されており、けれど大事な騎獣だからこその施設へ預けることとなった。

 

「グラン、いい子にしててくれ――まだ、あちこち見て回らないといけないんだ」

「ギュン……『置いてくなよ?』」

「分かってる」

 

 コソコソとグランに話しかけて大人しくしているようにいえば、そんな姿をクレアさんとナキさんが温かい目で見守ってくれていた。それは自分だけのことじゃない。キョウもシュウも同じくである。

 

「じゃあ、グランだっけか。ちょっとの間は牧草地で遊んでよう。明後日には迎えに来てくれるそうだが――たぶん毎日顔を見せてくれるはずだしな」

 

 苦笑交じりに言うナキさんに、自分も苦笑で返しておいた。そのとおりになるのは、間違ってないことだから。

 この街を発つのは明後日の予定。けれど、その前に情報収集があるのと買い出しも必要だ。けれど、一日たりともグランと会わないっていう選択肢はないのだ。

 

 

 そうしてようやく騎獣たちと別れたのは良いけれど、ここでクレアさんが案内してくれる時間が切れてしまった。

 実のところ、騎獣を見て回るだけなら一時間程度と考えていたし、もしも相性の合う騎獣を見つけたとしても今日の今日で契約までするとは思っていなかったのだ。もちろんそれはクレアさんもで、お互いに苦笑いをしたほどだ。

 それでもクレアさんとの契約は契約――これは、どうやっても覆せないものでもある。

 

「けれど、特例もあるの」

「え!?」

「実はね――案内役と案内される方の同意さえあれば、契約を延長することができるの」

「そ、そんなこと、しても大丈夫なの?」

「ええ。本来は契約時間がきっちりしているのが案内人なの。だけど、今日みたいな突発的に案内人が『案内をする』ことができなかった時間があったり、双方の同意があってこそだけど、街中の案内が足りてなかった場合などは延長しても良いってことになっているのよ」

 

 そう言いながら『どうする?』と問いかけてくるクレアさんに、キョウとシュウは嬉しそうな笑みを見せて自分を見てくる。

 そうして――。

 

「ではお願いします。まだ主要の場所巡りはもちろんだけど、街の商店街なども見て回れていないから」

「はい。畏まりました。それならば一度、案内所に戻って再契約をしてもらってもよろしいですか?」

「「「はい!!」」」

 

 そうして案内所に戻ってみれば、職員さんから延長するための書類を早々に手渡されたのである。理由は『クレアさんが見込んだ人だと、どうしても延長がつきものなんですよ』と笑って教えてくれた。

 なんでも、このクレアさんってのはとても優秀な案内人だそうだ。しかも、この人もまた人を見るらしく、身勝手な人や粗野な人の案内はしないのだとか。

 ただし、一度案内役を買って出たあとは、その人たちが街を出るまで一緒に過ごしたりすることも多々なのだと笑っていたのは、ナキさんも一緒になってのことだった。

 

「それで延長期間は――」

「じゃあ、自分たちが街を離れるまで」

 

 そう言ってみせれば、クレアさんが嬉しそうに目を細め、そしてナキさんが『そうなるな』と呆れたように、けれどやっぱり嬉しそうに笑う。そして職員さんたちもまた笑いながら『契約時間の延長を承りました』と言いながら、その時間を計算しつつ、それでも『少し割引をします』と何とも嬉しい言葉を付け足し精算してくれたのだった。

 

 

 そうして一件落着みたいな形となり、クレアさんを数日貸切状態にしての案内をお願いしたのだった。

 

 もちろん、今夜はお祝いである。そのためにナキさんを案内所まで連れてきたのだから。

 

 

 

 場所は言わずもがな、騎獣を預かってくれるという施設である。

 ナキさんとクレアさんに案内してもらって、ついでにグランたちも連れてきてもらい、お祝いの席を設けてもらった。

 この施設には、何でも泊まることはできないけれど、騎獣と一緒に食事を摂ることもできる場所があるのだ。というのも、早く騎獣と良い関係を築けるようにという計らいからだそうだ。

 

 周りを見渡せば、まだ落ち着かない様子で騎獣と食事をしている冒険者や、少し慣れ始めたのかなと思われる相棒を撫でている商人などの姿か見える。

 自分たちはそんな中で異質だったけれど――。

 

「本当に凄いわね」

「俺としては見ていて嬉しくなるな。毎日必死に世話をしてきたから」

 

 そんなふうにいうふたりには本当に申し訳ないけれど、こいつらはもともと自分たちの相棒なのだから当然なのだ。

 ただし、彼らと会話ができるってのは秘密である――なにせ、今の時代じゃそんなことができる人などいないのだから。

 キョウとシュウにも教えたが、ゲーム内で行われていた騎獣との会話は、この世界じゃできないのが普通。自分たちがしていたのはあくまでもゲームであり、騎獣との会話はシステム上いくつかの言葉が設定されていただけである。

 

 だけど、現実になってみればコイツラは念話という形ではあるけれど、会話がきっちりできやがるのだ。恐ろしい、マジで恐ろしい。

 他の人には騎獣が甘えて鳴いているように見えるだけだが、実のところはちゃんと人との会話をしている彼ら――本来は、みんな会話をしているつもりでいるのだ、騎獣たちも。

 

 自分たちの騎獣だけじゃない。他の子たちも一所懸命に伝えているのが、あちこちから聞こえてくる。

 もちろん人は言葉として理解していない。けれど、ちゃんと伝わっている人たちもいる。それは相棒との相性もあるだろうけれど、長く共にいるからこそ伝わる思いでもあるのだろう。

 

 そして、自分たちの騎獣はと言えば――。

 

『これ、くれよ』

『ねえねえ、一緒に寝てくれないわけ?』

『その肉、分けろ!』

 

 煩いとしか言いようがない――これもまた、自分たちが育てた弊害だろうか――遣る瀬無い。

 

 

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