第13.5話
13.5 少しだけキョウ視点 (飛ばし読みしても大丈夫と思う。きっと)
分かってた――僕がどれだけ弱虫かってことなんて。
知っていた――カナさんがどれだけ僕を守ってくれてたかなんて。
大きな山を目の前にした途端、カナさんが頭を抱えてしゃがみこんだ。理由は山の中にいるだろう盗賊やら人攫いなどの犯罪者が、とっても多かったことに起因している。
僕も少しだけ慣れてきた索敵ってやつをしてみたけれど、山の中のどこら辺なのかまでは分からないけれど、かなり人の気配を感じ取っていた。しかも悪感情を持った人の気配――ただ不思議と恐怖だけは感じなかったのだけれど。
それでも――それでも!
カナさんの提案を聞いた途端に震え上がってしまった。
カナさんの言ってることは分かっている。でも僕の中の倫理観と言ったらかっこつけ過ぎだけれど、何かどうしようもない部分にある心が『嫌だ!』と拒否をしていた。
人を手に掛けるなんて――人を殺してしまうなんて。
確かにこの世界は、僕たちの生まれ育った世界じゃない。ましてや、僕らの常識が通じるところでもないことは、ここに来るまでだって知ってたはずだ。
なによりも――カナさんに助けられなかったら、僕は死んでいたのだから。
普通、僕らの世界だったなら、路地裏であろうとどこであろうと、倒れている人を見かけたら、まず声を掛けてしまうはずだ。ついでに警察やら救急車やらを呼んでしまっていただろう。だけど、この世界の人たちは誰一人、僕を助けてなんかくれなかった。見て見ぬふり、なんていうものじゃなく『どうでも良いもの』として扱っていたのだ。
あんなに怖かったことはない。
もうだめなんだって、本当に思っていた。
それがどのくらいの時間だったかなんて、自分でも分からない。何日かもしれないし、数時間かもしれない。もしかしたら数分だったかもしれないけれど、目の前の人が腐敗していくさまを見ていたことから、それなりの時間はあそこで横たわっていたに違いないのだ。
そんな世界で――カナさんの言うとおり、罪人たちを勝手に裁いたところで、誰も気になんて止めないだろう。人が殺されても、きっと『あっそ』って言ってしまう程度のものなんだろう。
この世界の法律なんて知らない。
この世界の常識なんて知らない。
だけど、そんな世界で僕らは今、どうにか生き抜いていた。
だから、カナさんの言葉は決して間違っちゃいないのだろう。
だけど、どうしても拒否してしまう心。
いやだ――人を殺したくない。
きっと、それこそが常識的な考え方じゃなければならないのだと、僕は信じている。
カナさんも言っていた。恐怖心がなければ生きてなんかいけないんだって。
なのに、カナさんはいとも簡単に『あいつらを消し去っちゃおうと思うんだ!』と言ってのけて、僕を困惑させてくれたのだ。
分かってる――カナさんの言葉の意味を。
知ってる――山の中にいるだろう罪人たちがしてきたことを。
だけど、事実なのかまでは僕も知らない。ただ山に入ったら出てこられないだろうって言われただけ。
でも、フェネスに行ったのだったら、戻ってこなくても当然なんじゃないだろうか……と、また逃げ腰な言い訳を考えてしまっている僕がいた。
「アンタは何もしなくていいよ。自分が全部やる」
何を言ってるんだろうって思った。
この人は――カナさんは、何を言ってるんだろうって、そう思ってしまった。
「手を汚すのは恐怖だろうしな。自分は、確かにまだ人は殺めてないがそれでもこれからは分からないし、今なのか今度なのか、はたまた最後までないことなのか、そんなことは分からない。でも、きっといずれはこういう日が来るだろうって覚悟してたからな。お前は見たくなければ来なくていいぞ――自分ひとりで行く。途中で粛清し終わったら移動するってのでもいいんだから」
なんてことない顔をして、静かに言うカナさんに、僕はどんな顔をしているんだろうか。きっと、うん――きっと、とんでもなく情けない顔をしているんだろう。
そう思った途端に感じたのは、悔しいという気持ち。
この人は女性なのに――この人は僕を助けてくれた人なのに。
何もかも、悪いことは、彼女に任せてしまうのか?
僕は――男なのにっ。
「いいえ、僕も行きます」
「は? 無理だろ、その顔つきからしても」
「でもっ」
「あのな――無理になにかしろなんて言えるわけねえだろ? こんな世界とはいえ、今はここで生きているんだから。怖いと思うものから逃げるのは当然の話だ。自分だって面倒なことからも嫌だと思うことからも逃げられるときには逃げてんだから――ただ、この山のことは、面白そうだからやるってだけだ。相手を人間と意識してないのさ」
ふっと笑って何気なくフォローまでしてくれるカナさんに、僕はそれでもやりたいと口にしていた。
覚悟なんてない。
だから恐怖心が消えることもない。
それでも――僕は今、カナさんに助けてもらうばっかりじゃ嫌だとも考えていた。
本当に僕は弱虫なんだ。
何もひとりじゃ決められない。
だから現実世界では親の言いなりで生きてきたんだ。
だけど――。
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