第9話
09.
翌日、キョウを迎えに行ってみれば、すでに準備完了という状態で待っていてくれた。けれど――すまん、その格好はダメだ。うん、だめなやつだ。
「キョウ……気合いを入れてインベントリの中から選びに選んだってのは分かる……分かるけど」
「……もしかして、ダメ?」
「うん……今は目立たないほうが絶対的にいい……君の着ている装備は、今じゃ超レアものなんだよ」
「……超、レア、もの!?」
「うん」
「で、でも、これっ! 低級レア装備」
「……うん」
言ってることはよく分かる。キョウが言っているそれは、レアと言ってもアイテムさえあれば誰でも作ることができた装備だ。しかも、そのアイテムってのだってある特定のモンスター討伐ドロップで確率も1/5くらいで手に入る、それほど貴重とは言い切れない程度のものだから、ゲーム内でだったら『それカッコイイ見た目だよね』程度の装備でしかない。
しかしながら――今のこの世界じゃ、手に入らないアイテムで作られた装備。売ることすら躊躇われてしまう代物なのである。
「とりあえず、初期装備とか、あるかな?」
「……え?」
「冒険者になりましたー! ってイベントで貰ったヤツとか」
「……あぁ……初期装備は、インベが一杯になっちゃったから、売ってしまってて。お祝い装備も、たぶん……ない」
「そっかぁ……課金アバタとかは買ってた?」
「……んー、ガチャで出たものなら」
「あー、それじゃ派手すぎるなー。じゃあ、初期のアバタは?」
「――農民の服って、ヤツですか?」
「え……」
「え?」
「なぜ、それを選んだ……」
「いや、始めのキャラ設定で、そうだったんですけど!?」
「マジかぁーーーっ」
ガクリと項垂れた自分に向けて、キョウは情けない顔をしながら唇を突き出していた。
いや、うん――すまない。本当に脱力して何も言えそうにない。
「あの……カナさんのを、借りるとかじゃ」
「ゲームじゃねえんだよ! できるわけねえだろーがっ」
思わず言葉が悪くなってしまったけれど、ゲーム内だったら出来ただろう装備の貸し借り。種族別で装備の色が勝手に変換までされるってのが、ゲーム仕様だったわけだが――残念なことに、リアルとなったこの世界じゃ、それが通用しないってことは実践済みだったのである。
「もしかして」
「既に実行済みだっ!!」
「あぁ……」
「はぁ……」
そこからはキョウのインベントリにあるだろう服などを聞き出し、そして無難なものを探し出しては取り出しての繰り返し――既に時間はチェックアウトをしなきゃいけないところまできていた。
そして――。
「まぁ、農民風な服と合わせたら、どうにか見られる程度にはなったし」
「ダサ……ダサすぎる」
「諦めろ! この町でそれなりの装備を揃えるをしても、今から出かけるのにほぼ裸ってわけにはいかねえだろうがっ」
「そうだけど、そうなんですけどっ!!」
両手まで床に付けてがっくりと項垂れているキョウを横目に、大きくため息を漏らす。
そりゃ、確かにどうしようもない格好でしかないけれど、この程度ならばはじまりの街でもミールドの町でも浮くことはない。いや、ある意味では『いい装備持ってんな』って言われるくらいマシな恰好なのだ。ただし――ある程度、ゲームで遊んできた自分たちにしたら、ありえないくらいダサくて戦闘性にも特質していないものである。そりゃ項垂れても仕方ない。仕方ないのだが、今はまだ目立っちゃダメなのだっ!
「諦めてくれ、本当に――自分たちの使ってきた装備一式、武器一式、店売りだったものにしたって、この世界じゃありえないくらい価値の高いものになっているんだ」
「だけど、それでもっ!」
「店売りの装備だって、なにかしらの付与があっただろ?」
「……ええ、まぁ」
「それって、今じゃ作れる人がいないって本にも書いてあった」
「……は?」
「ついでに、失われた技術ってのがあって、錬金もポーションしかできないとか言われてるくらいだ」
「ま、マジで……」
「この町には図書館ってものすらないから、資料っていうのもないに等しい。ギルドも総合ギルドって名前になっているくらいだから、たぶん資料すらない可能性も高いわけ」
「……はぁ」
「なので、諦めて欲しい。見た目じゃわからない装備や武器だって、売ってる人から見たら分かってしまう可能性があるんだ」
「……あぁ、鑑定スキルってやつ?」
「そう。この鑑定スキルの厄介なところは、物にしか通用しないけれど、商人になるためには必要なスキルとして言われているんだよ。そのせいで、物を見る目が――(本当はそれほどのものじゃないけど今は黙っておこう。面倒だから)」
「あぁ……うん、分かった。わかったよっ!! 今だけ我慢するよ!!」
「そうしてほしい――まぁ、装着しちゃったものに関しての鑑定はできないとか言われているけど、事実かどうかが怪しいからさ」
「それで、カナさんも普段は初期装備を?」
「うん、そうなんだ。本気で戦うときは変装アイテムを使って本気装備で行ってるけど」
「マジか……」
言いながらまた項垂れているキョウは、まだゲームを初めて半年も経っていないとか。そのため装備とかに関してもまだまだレアアイテムを集めていた最中らしく、中レベにしては持っているものが危うい。生産スキルもまだ始めたばかりのせいか理解してなかったため、錬金ひとつに絞っていたらしい。
「とりあえず、買い物だ、買い物! ついでにチェックアウトをしたら町を出よう」
「え!? もう、町を出るの!?」
「うん、こんな宿屋に泊まったからな……ちょっと異分子的な目がさ」
「あ……」
「もう少し色々と見て回りたかったけど、別にここじゃそれほどの情報はもらえないだろうし――裏路地は、もう一度だけ見て回りたかったけど今回は見合わせる」
「……でも、もしも」
「それは考えたらキリがない。だってそうだろ? 今だって他の町で、そういう人がいるかもしれないんだ。全員を助けようとか――偽善的なことは考えたらダメ」
「……そうかも、だけど」
「それにさ。たぶん、もういないと思うんだ」
「どうして?」
「だって、君とあの人は同じ場所にいた。たぶん故意に誰かがしたわけじゃなく、死に戻りをしたときの場所があそこと考えられる。そう考えたら?」
「あっ、動けるなら逃げてる」
「そのとおり。ってことで、買い物だ」
締めくくりとばかりにキョウの肩を叩いてやれば、ようやく体を起こす気になったらしい。今までよくもまあ、あの体勢で会話ができたものだと思わずにいられない。
でも、そんなことよりもいまは早く行動したほうが身のためだろう。
そう思って部屋を出てチェックアウトをしたら、即座に防具屋へ移動し、それなりの初期装備を購入。かなり安いものにしておいたけど、それでも目につくのだろうな――ときどき、不審な輩がついてきているのだから。
その後は古着屋へ行き、着ていた農民風な服と交換しつつ、それなりに見られるだろうシャツなどを購入。着替えは二着まで!
けれど、飲食品に関しては無視することにした。なにせ、自分が持っているものだけでも充分なのに、キョウもまたモンスターを倒したときのドロップで食べ物を多く所持しているというからだ。
そして。
「さっさと出るよ」
「うん……あれって」
「この辺のチンピラって感じかな? あんまり治安は良くなさそうだし、この町」
「うん……」
「町を出たら、すぐ先にある森まで走る――君も走れるよな?」
「大丈夫。体力も完全回復してるはず。あ、あと冒険者タグなんだけど」
「うん? 持ってなかったのか?」
「持ってた……けど、これでいいの?」
「ああ、それだ、それ! 同じ色ってことは新人冒険者としてみなされるはず。同じレベル同士で移動するのは、よくあることだし」
「これを門番に見せたらいいわけ?」
「それは入るときのみ。出るときは関係ないよ」
言ってから即座に移動した。今回は出入り口で引き止められることなどない。そのため、後ろから付いてくる連中を撒くつもりで門番さんに挨拶をした途端、キョウへと合図を送った。
キョウも、自分で申告してきたとおり体力は完全に回復したらしい。ついでに身奇麗になったことで気分的に良かったのだろう。走れという合図とともに森へと全力疾走を始めた。
自分はっていえば――追いかけてくる連中に向けて、ほんの少し術を掛けてから走り出す。森の中へ、一直線に――まぁ、森といってもリーゾルで生活していたときの森とは規模も木々の量も雲泥の差なんだけどな。
隙間からはきっと見えてしまうはずだ。奥に行ってもすぐに出てしまう程度の森なのだから。
けれど、ほんの少しの余裕はできるはずだ。
森へ入るとキョウに合図を送って近づいていく。キョウも気づいてくれたのだろう、すぐに近づいてきて――手を伸ばせば触れられる距離になった途端、キョウを抱えてジャンプした。まぁ、木の上に乗る程度のジャンプだったから、そんなに勢い良くしたつもりはなかったんだけどね。
『ふぃやぁぁぁぁ』
キョウが情けないことに、声にならない叫びを上げたのは、間違いなく恐怖心からだったに違いない。
ただし、それでもジャンプを繰り返して、森を抜けていくスピードを下げるつもりなど、自分には皆無だったのだけれど――。
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