第2話
02.
一ヶ月の間は静かに様子を窺っていた。
森を拠点とし、この世界がどのような場所なのか、本当にゲームの世界に入り込んでしまったのかなど――決して目立つことのないようにと様子を見ながら、様々な情報を入手した。
初めて街へ入ったのは、森に拠点をおいて3日ほどしてからだった。
そこに至るまでの間に、今後の目標やこれからすべきことを考える必要があったからだ。
本当はすぐにでも動きたかったけれど、情報のない状況で動けば危険極まりないと判断した結果である。
街に入るには入城税なるものが課せられると知ったのは、その場に行ったとき。
もちろん手持ちのお金が使えるか不安だったけれど、もともとはゲーム内でも使っていたものなのだから通用すると信じ込んで手渡そうとしたのだが、そのときになって『身分証明書を持っていれば入城税はいらない』と知った。
でも、そんなものはない――と思っていたら、インベントリに入っていた冒険者タグが使えると教えられ、そのまま街に入ることに成功してしまった。ただ冒険者タグを見せたときにこちらの情報が全部晒されたのかと不安になったのだが、これについては自分以外、または自分が許可した場合にのみ、個人情報が開示できるということだ。それも、ある特殊なアイテムを使用しなければならないとのことで、これは各ギルドであっても個人の情報を見ることはできないのだという。それを聞いて、どれほど安堵したか分からない。
冒険者ギルドなるものにも顔を出した。そしてシステムやら何やらも資料を通して確認しておいた。各ギルドも見ておきたいことから、どんなギルドがあるのか、またギルドにおいての仕事などはどうなっているのかなども確認しておいた。
商業ギルド、生産ギルド、畜産ギルド、そして冒険者ギルドと騎獣ギルドの大きく別れて5つあるそうだが、それぞれのギルドには本部というものが存在し、そこから職員が派遣されてきているとのこと。各ギルドの本部は『ギルド大国』というところにあり、各国に支部を置いてはいるけれど、各国や王侯貴族に支配はされていない独立した機関なのだという。
またそうなる前提も記されていたが割愛しておこう。面倒だし――ってことで、王侯貴族にしても大商人たちにしても、ギルドとの癒着は禁止されているため、もしものときには過酷な罰則が課されるとのこと。それをできるだけ避けるためにも、それぞれの職員は2年で移動するという。
本当に人間同士ってのは面倒だな。
それらを知った後は図書館に街の食堂、そして商店街などへ通いまくった。通貨も持っているものが普通に使えると知って、どうにかなると判断したからだ。
とにかく、今はひとつでも情報が欲しい。この世界に関することでも、この辺りのことでも――そして、もしかしたら自分と同じ境遇の人間がいるかもしれないから。
本当なら街で生活するほうが手っ取り早いだろう。そうは思っても不安がありすぎて、街を拠点にすることができずにいた。
けれど、どうやら新人冒険者というのは基本的に安宿で部屋が取れなければ野宿をしているものなのだと知り、自分もそういう状況だと思わせるよう街から出ていく毎日を送った。
冒険者ギルドにも適度に顔を出しておく。とはいっても、依頼をしないからと身分を剥奪されることはないらしい。ただしランクを上げることができないというだけなのだ。
その辺はまだ自分でもどうするか考え中なため、今のところ依頼は一、ニ度受けて達成しただけにしておいた。一応は冒険者としての活動もできるって感じで。
さて、こうして街を見ていると人間以外の種族をあまり見かけないなと思った。
それが何でなのかは分からないけれど、本来ならゲームでも多くの種族がいたこの世界。なのに、なぜだろうか――はじまりの街リーゾルと言われていたはずのこの街で、人間以外の種族があまり見かけられないのだ。もちろん皆無というわけじゃないのだけれど、NPCでも普通にいたはずの他種族が見かけられないほどに……少ない。はっきり言って、人間族以外を見かけないと言っても過言じゃないほどである。
確かにゲーム内での設定でも、この大陸は人間族が開拓した場所なので、人間族が多いのは否めないだろう。けれど、それでも同じ大陸に多くの種族が共存し技術を出し合い発展させてきたはずなのだから、もっとたくさんの種族がいてもおかしくないと思うのだ。
けれど、見かけるのは商人なのだろう他種族のみ――それも、あんまり長居をしていないように感じられた。
でも見かける人種に少し偏りがあるようにすら感じられる。
この街で多いのは、当然だけど住民やら何やらで人間族だ。次が獣人族や亜人族と呼ばれる種族で――何でも他の種族たちは別の大陸に拠点を置いているらしい。『らしい』という言葉を使ったのには理由があるのだけど、実のところゲーム内では遊んでいる大陸は3つしかなかったのだ。そして様々な人種が生活の拠点としているのはひとつだけって設定だったのである。
ひとつは『はじまりの街ーリーゾル』があり、ここに王城があって王様たちから『この大陸に巣食う魔物たちを追い払って欲しい』ってのが大きな課題とされていた。多くのクエストは、ここを中心に行われていたというのがゲーム時の設定だ。ついでに、ここが様々な人種が共存し合っていた大陸だった。
次に2つ目の大陸だけど、こちらは魔物や魔獣の大陸で、ここに大きなダンジョンやら洞窟やらフィールドボスやら魔神殿やらがあって、様々な素材を取りに行くという場所になっていたのである。週末には多くのユーザーで賑わっていた場所でもある。もちろん、自分たちもよく通った大陸でもあったが、ソロでも十分に遊べる場所として『魔物大陸』などと呼んでいた場所だ。
最後の3つ目の大陸は、フィールドボスや小物のモンスターなどは存在しているけれど、基本はジョブのクラスアップイベントやスキルアップイベントなどをするための神官がいる場所である。
ジョブやスキルは個人でいくつも所有することができるけれど、簡単には手にできない。というのも、それを持つためにも様々な試練があるのと、レア素材が必要となるためだ。裏技としては課金――ここで課金しておくと、いくつものジョブやスキルが手に入りやすい。この辺は説明が面倒だから割愛だ。
まあ、そんな感じでゲーム内では大陸が3つに国はひとつっていう、なんとも簡素化したものでしかなかったのだが、これが現実となるとそういうわけにはいかないのだろう。
そういうわけで、種族別に大陸が存在していると言われても『仕方ないよね』という言葉で終わると言ってもいいだろう。
現在ある大陸は、それぞれの種族が治めているのかと言えばそうでもない。
ひとつは獣人族と人間族が、ひとつはエルフやドワーフが、もうひとつは竜人族や魔人族が、という感じで治められており、他にも小さな島が点在しているのだけれど、そこにも様々な種族の人が住んでいたりいなかったりするらしい。
この辺は全部、図書館で手にした資料によって手に入れた情報だけれど、どうやらゲームをしていたときとはかなり異なることが多いみたいだ。
だいたいギルド大国ってのがあるってのも――驚きである。そんなもの、自分たちのやってたゲームでは大陸すら存在してなかったのだから。
そして恐ろしいことに――この世界は、自分たちがゲームとして遊んでいた時代から数百年以上の時間が経過した世界であり、またNPCたちにも生活のある普通の人間ばかりであり、そして自分たちが遊んでいたゲームのジョブやらスキルは、今じゃ存在していないものだったのである。
こうして情報を見ているだけでも、自分では恐ろしいものばかりだった。
耳にしたもの、目にしたものにしても、驚くことばかり。
だからこそ思う――帰りたいと。
自分の生まれ育った世界へ――どうか、帰らせて欲しい、と。
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