2人で大人を慰める?
今僕は小学校にいる。
黒の法衣を着た20歳の女の子と一緒に。
そしてその女の子は小学校の女の先生と話している。
「ええと。小倉姪さん、ですか? あなたは
「檀家の寺です」
「あのですね。わたしたちにも守秘義務ですとか個人情報保護法の問題とか色々あってですね。第三者の方とはお話できないんですよ」
「じゃあ先生方は第三者じゃないってことですね」
「え、ええ。まあ」
「ならどうして
「・・・努力はしております」
「努力?」
「何度も家庭訪問しました。親御さんとも話し合いました。私たちがバックアップするのでなんとか学校へ出てきてほしいと」
「いじめのことは」
「・・・はい。当学校での昨年度のいじめ発生件数15件の内の1件として教育委員会に報告しています」
「数字の話じゃないんだけどなあ・・・」
「ちょ、ちょっと、小倉姪さん!」
「なに? 月出くん」
「先生も一所懸命やってるんだから」
「月出くん。みんな一生懸命やってるよ。先生も、来人くんも、来人くんのお父さんお母さんも。わたしが言いたいのはやってる側が一生懸命なのか、ってこと」
「やってる側?」
「うん。いじめてる子たちが一生懸命なのかってこと」
「ごめん。『一生懸命いじめをやってる』って意味じゃないよね?」
「もちろんだよ。いじめをやめようという努力を一生懸命やってるか、ってこと。アルコールや薬物の中毒患者が必死になってお酒やドラッグをやめようとするのと同じにね」
「彼らにも彼らなりの考えがあるようです」
「考え? 先生、どういうこと?」
「彼らが言うには
「そうですか。それは確かに来人くん自身の問題ですね。で、いじめてる子たち自身の問題は?」
「・・・・」
「先生方も『いじめを正当化する理由は何一つない』ということは分かってらっしゃいますよね?」
「まあ。建前ですけどね」
「建前? 先生、本気でない人が教師になんかならないでください」
「こ、小倉姪さん!」
「月出くん、黙ってて!」
すごい剣幕だ。
圧倒されて何も反論できない。
その後すぐに小倉姪さんは先生に静かに、優しく語りかけた。
「何か、弱みがあるんですね」
「実は・・・」
「どうぞ。わたしは坊主です。大人の悩みも聞くのがわたしの仕事です」
「前の担任が、自殺したんです」
「やっぱりそうですか・・・前の先生は女性? 男性?」
「男性です。新人でした。小倉姪さん、お恥ずかしい話ですけれども、わたしはその小学校5年生の子供たちが怖いんです。その新人の先生をうつ病まで追い込んで自殺させた、その子たちが」
僕は訊くべきかどうか迷ったけれども、後悔しそうな気がしたので、訊いた。
「どうして先生がそんな大変なクラスの後任に?」
「わたしも職員室でいじめられてるからです!」
ああ。
この世の中って、こんなにもくだらないのか。
母さんは死に、前任の新人教師も死に。
きっとこの先生もその内、死ぬ。
「先生、必ず先生をお救いします」
「えっ?」
小倉姪さんの言葉に僕と先生が声を揃えた。小倉姪さんは自信満々に答えてくれる。
「わたしにいち市民として授業の見学を申請させてください。それならいいでしょう?」
小倉姪さんは先生に優しく笑いかけた。
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