2人で学会殴り込む?
拍手喝采。
まあ、全員で30人の学会だけど。
晴れて市民ホールの大舞台でパワポなぞ使いながらプレゼンをした小倉姪さんと僕。
「ものすごいウケてたね!」
「ウケる・・・うーん。小倉姪さん、論文がウケるってのはなんかなあ・・・」
「月出さん、これからの論文はエンターテイメントよ!」
井ノ部さんが興奮気味に言ったところで主催者がゼミ全員の記念撮影をしたいという。
「矢後さん、金井さん、もっとくっつきなよー」
「いやその」
「最低1cmは空けないと」
「何言ってんのー!」
モジモジしてる矢後と金井の間でガシっ、と肩を組み体を密着させる小倉姪さん。
「なら月出さんとわたしがくっつきましょう」
「え、え!?」
拒む間も無く井ノ部さんが僕の肩を組み、アラサーの理知的な躯体を押し付けてきた。
「ほい、チーーーープ!」
なんじゃそりゃという小倉姪さんの合図で撮影を終え、主催者側の論文の講評を待つ。
「いやいやいや。ダントツで
「やった!」
ちょっと野暮ったい諸手を上げて万歳のポーズで喜ぶ小倉姪さん。
「ねえねえ月出くん。賞金は!?」
「ないよそんなの」
「なあんだ。名誉だけか」
小倉姪さん。名誉も無いから。
共著2人の小倉姪さんと僕が壇上で賞状を受け取ると、学会で
「いやー、よかった! 斬新だよ本当に!」
「あ、どうも」
「こ、小倉姪さん!」
「なあに、月出くん」
「この先生はウト大の
ウト大は一応日本の最高学府と言われてる。こういうマイナー学会でしか成り上がれなかったとは言いながら、腐ってもウト大の教授だ。僕は小倉姪さんに対して暗に『頭が高い!』と言ったつもりなんだけど。
「ウト大、ですか? いっぱい勉強されたんですねー」
と薄氷ものの受け答えをする。
たまらず井ノ部さんがやってきた。
「蓮根先生、推していただきありがとうございました」
「井ノ部くん、なかなかユニークな仮説だったよ。『年寄りがお寺の月参りを率先してる家の子はいじめをせず、年寄りがないがしろにされてる家の子はいじめっ子になる確率が高い』とは!」
「蓮根さん、仮説じゃないよ。事実、です」
「は、蓮根さん?」
『先生』と呼ばれなかったことにいたく衝撃を受ける蓮根教授。小倉姪さんはさらにシレッと続ける。
「あれ? ウチのゼミは全員『さん』付けですけど。あ、でも月出くんはくん付けでわたし呼んでた」
「な、なるほど。確かにこの学会は会社経営におけるパワハラ・セクハラについての研究が出発点だから、井ノ部くんの指導は正しいかもしれんね」
「恐れ入ります、蓮根教授」
「でね、井ノ部くん。せっかくだから出版してみんかね?」
「出版?」
「そう。こういう若い男女が共同で論文を書き上げるなんて話題性は十分だろう」
甘いね、蓮根教授。
それって地名を冠した2次元の美少女キャラを使って町おこしだ! って内輪だけで盛り上がる老人たちと同レベルだよ。
「出版! 本を出せるんですか!? 月出くん、やろうやろう!」
「え? でも小倉姪さん、自費出版するお金なんてある?」
「え? 自費? 月出くん、どうゆうこと?」
「売れるかどうか分かんない無名の僕らの論文を出してくれる出版社なんてないよ。だから部数決めて自費出版だよ。ですよね? 井ノ部さん」
「まあそうね。蓮根教授、何かツテでもおありならばご紹介いただけませんか?」
「ない」
適当だな、蓮根教授。
「出版社を見つければいーんですね」
「え? まあそうだけど。何か当てがあるの? 小倉姪さん」
「うふふふ。井ノ部さん、わたしの営業力を舐めないでください」
ほんとに何かやりそうだ。
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