2人でみんなと手を繋ぐ
「月出 日昇光です」
「祖母です」
「父です」
「母です」
「カミツカエでーす」
いや。キミは分かってるから。
「なるほど。スマホを。それは難儀しておられますね」
「はい、お父さん」
一家総出で台所のテーブルで応対してくれた。そして、誰がキミの父さんだ! とは言われなかった。
「カミツカエ」
「はい」
「アカウント、使っていいから」
「わ、ありがとー、お父さん!」
「お師匠、だろ」
「はい、お師匠!」
ちょっとだけ疲れるな、この雰囲気。
おばあちゃんがなんか言いたそうだな。
「月出さん、アンタうちのカミちゃんと・・・」
「おばあちゃん、一刻を争うから!」
さあさあさあ、と小倉姪さんに押されて玄関へ。そのまま小倉姪さんも自転車に跨る。
「ちょっと待ってね・・・よ、と」
「なに?」
「ん? ウチのお寺の檀家さんのLINEグループ。今時でしょ?」
「で、どうするの?」
「カフェ。コンビニ。本屋さん。花屋さん。月出くんが今日立ち寄ったと記憶してるお店はぜーんぶウチのお寺の檀家さんなのさ」
「へえ。軒並みだね」
「と、いうのはねえ。今日びウチのお寺も経営難で、個人事業者の皆さんに営業かけてウチが月参りをやらせてもらってるのよね」
「営業?」
「そ。わたしが営業ガール」
「へえ。凄い手腕だ」
「でしょ? そしてどのお店もキャッシュレス決済で月出くんがスマホを取り出した可能性があるよね」
「なるほど」
賢い子だな。
「はい。では、待っててもしょうがないから一緒に回りましょう」
「ん・・・」
「だって、スマホを持たない月出くんと一緒じゃなきゃ連絡取れないでしょ? それともまた公衆電話からかける?」
「いや。ご一緒願います」
女の子と自転車で並んで走るなんて、高校の時偶然に通学途中の交差点でクラスの子と一緒になって以来だな。
こうして僕は恋のプロセスをやり直す、なんてさ。
「月出くん、ほら、月が」
「ああ」
「三日月だね」
「うん」
「どれが好き? 満月? 半月? 三日月?」
「はは」
「新月、とか」
「全部、好きだな」
「そう」
母さんも月ならどれも好きだったからな。
「おやあ? カミちゃんの彼氏ー?」
「やですよ、おじさーん。友達ですよ、ト・モ・ダ・チ」
1軒目カフェ。
「あらまー。カミちゃんのボーイフレンド?」
「へへへへ。純粋な友達の方のフレンドですよー」
2軒目コンビニ。
「ん。コレか?」
なんと古風な・・・親指立てとは。
「うふふふー。えーと、友達の指は、これかなー?」
人差し指を立ててくいっと曲げるけどそれは多分泥棒。3軒目本屋。
「あ・・・花屋さんから連絡だ・・・あったって! よかったねー!」
「そっか・・・ありがとう。でも、こんなタイミングなら中間地点で動かず待ってれば良かったな」
「ううん。見せびらかしたかったからさー」
え? 僕を?。
疑問を残したまま花屋へ。若夫婦が出迎えてくれた。
「やあやあやあ。LINEが来て改めてレジ見たら忘れてあったからさー」
「すみません。ご迷惑おかけしました」
「いいのよー。ところでアナタ、カミちゃんの彼氏さん?」
「いえその・・・」
「ふふふ。残念ながらウチは」
「そっか、カミちゃんのおばあちゃん、恋愛禁止派だもんねー」
「そういうことです」
・・・・・・・・・・・・・
「ありがとうな」
「ううん、全然。みんないい人でしょー」
「ああ。優しい人たちだね」
「ところでなんで花屋さんに?」
「ああ。今日、母さんの命日だったもんで」
「あ・・・そうなんだ」
「小倉姪さん?」
え。
涙?
「ごべんねー。感傷的なんだ、わたし」
涙、か。
綺麗だな。
「あ・・・やば!」
「どうしたの?」
「父さん・・・じゃなかった! 店長から鬼のようにLINEが。スマホ見つかったならさっさと店に戻れってさ」
「店長? お父さんお店やってるの? 何のお店?」
「・・・バー」
「わ、大人の世界! もしかして月出くんてバーテン!?」
「まあ、バーテン兼ボーイ」
「行ってみたーい!」
「まあ・・・その内に」
ふう。
三日月の歌って、確かあったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます