2人でご供養承る

 そこそこメジャーな僕の大学。

 そしてまるで高校の文芸部か売れないロックバンドに割り当てられた楽屋かのような『井ノ部ゼミ』の部屋。


 そういう場所に彼女を注入してしまった。


「小倉姪です。あの、小倉・姪って言う姓名ではなく、小倉姪 カミツカエがフルネームです」

「矢後です」

「金井です」


 ゼミ生は僕を入れて男子3人だけ。

 全員色恋に縁のないやや沈み込み系の勤勉学生。優秀、ではある。

 一年の頃から一緒にいる種田を何度も誘ったけれど、このゼミだけは嫌だと固辞された。


「指導教官の井ノ部です」

「井ノ部さん。彼女のお寺は個人事業主からのお布施を主な収入源にしてるそうです」

「なるほど。月出さんは彼女のお寺には?」

「一度行きました」

「ほお・・・」


 矢後が険しい目つきをしてる。


「月出さん、それは当然研究の一環として行ったんだよね?」

「いや。ごくプライベートだよ、矢後さん」

「ほう」

「月出さん」

「なんだい、金井さん」

「それは、2人きりの時かな?」

「いや。家族全員おられたよ」

「なら、安心した」

「あの」


 小倉姪さん、いたたまれずに発言してくれるのか・・・


「皆さんは女の子の家に行ったこと、あるんですか?」


 あ。

 なんという核心の奥底をついてくるんだ、キミは。


「あ、あるに、決まっとろう!」

「お、同じく!」

「あ、そうなんですか? わたしは集団登校で家の前みんなで通るときにお手洗い借りた時ぐらいしかないんですけど」


 核心を、更にえぐる!


「こ、小倉姪さん?」

「はい? なんですか井ノ部さん?」

「う、ウチのゼミ生はみんなデリケートだから」

「あ、はい。それで?」


 ・・・・・・・・・・・・


「では、小倉姪さんを特任ゼミ員とするわね。異議ある人は?・・・はい決まり」


 ぱちぱちぱち。

 当の小倉姪さんはこんなことを言う。


「皆さん、ご供養足りてますか?」

「え。ああ、檀家募集? でも、お寺の宗派は?」

「細かいことは気にしない〜。同じ仏教だもん」


 そうなんだろうか。


「あの、井ノ部さん。わたしから提案が」

「はいどうぞ、小倉姪さん」

「ゼミ生さん、実習しませんか?」

「実習?」

「はい。わたしが営業かけて檀家さんが増えたのはいいんですけど、父・・・お師匠とわたしだけじゃ回りきれなくて」

「それは大繁盛ね」

「ゼミ生さんも檀家さんに月参り行ってもらえませんか?」

「ちょ、ちょっと、小倉姪さん。ウチは仏教の慈悲をいじめ要素の除去への指標とはしてるけど、あくまでも経営学のゼミなのよ?」

「はい。ウチもお寺を経営してます」

「うーん、寺社経営かあ・・・」

「イノベーションは異種の交配から生み出されるんですよ」

「あら。小倉姪さん、難しいこと知ってるのね」

「一通りマーケティングは勉強してますから。存亡かけて必死ですから」

「小倉姪さん、質問」

「えと、金井さん? どうぞ」

「それって小倉姪さんと一緒に行けるの?」


 なるほど。さすが男の子。


「最初の内はね」

「最初?」

「檀家さんの家の場所覚えたら1人で行ってね? お経の本持って」

「え。そんなんでいいの!? 檀家さんに怒られない?」

「大丈夫。だってわたしなんか小3の時から1人で月参り行ってたから」


 まあ、社会勉強にはなるわな。


「月出くん」

「うん」

「一緒に行こうね♡」


 矢後・金井両名が小倉姪さんばりのジト目で見てくる。

 最初の内って意味なんだろうけど、僕だけ特別扱いっぽい、のか?


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