2人の空間は広がりを見せる

 たった30分のカフェだったけど、ほぼ全ての情報が得られた。お互いに。


 彼女の名前は小倉姪こくらめい カミツカエ。家事手伝い。年齢はアラ20。ズバッと言い切らないのが微妙なお年頃なんだろう。名前からして神社の家事手伝いかと聞いたらお寺の方だと言われた。ややこしい。

 さらにツッコむと、


「ウチの御本尊のせいにしておばあちゃんが恋愛禁止してくるのさ」


 だと。

 まあ感覚は分かる。


「号泣の理由は?」

「ブブー。男女には超えられない一線があるのさ」


 大げさな。でもまあ自分だって泣きに泣いてたことの説明なんか嫌だろうな。


「ねえ月出くん」

「なんだい小倉姪さん」

「友達ならいいよ」


 いい子だ、ってのはよく分かる。


「じゃあ、そうしよう。どこのお寺?」

「ジトジト・・・」

「またそれか」

「初対面だけどいいよ。月出くんはそういう煩悩がなさそうだから。はい、ここ」


 スマホを僕に見せる。『月影寺げつえいじ』ツイッターのお寺のアカウントだ。


「これ、お父さん?」

「そう」

「これが御本尊?」

「うん。いいお顔でしょ?」


 たしかに。ふたりとも穏やかな美男・・・御本尊は美女か?


「今度お参りにおいでよ」

「なんか、信じられないお誘いの言葉だね」

「わたしも月出くんの大学に遊びに行きたい」

「ああ、おいでよ。ウチの准教授にも会わせてあげるよ」

「アカデミック」


 今日はここまでで別れた。


 なんか、いいな。

 高校の頃に一度だけデートっぽいことをしたことがあった。

 まあ2人じゃなくて8人合同のグダグダだったけど。

 でも、その時に見たお寺の桜は今でも印象に残ってる。

 多分僕が好きだったろう女の子の顔はもう頭に描けないけれども。


 不思議なもので行動範囲というのは関わる人が増えるほど広くなる。

 その人に会いに行こうっていうだけでなく桜が好きだと聞けばその名所を自転車でふらふらと探してみたりする。

 その人がよく行くカフェがあると聞けば無意味だと分かっていてもなんとなくコーヒーを飲みに行ったりする。


 意外と大人でもそうなんだろうな。

 さて、明日もゼミの仕事あるし、バイトもあるし。もう寝ようか。


 ん? LINEだ。


 小倉姪:今日はありがとね。おやすみ〜 (o^^o)


 なんか、いいな。

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