第25話 試してみるんだ、二人で
「着いたぞー!」
さほど時間もかからずに、目的の遊園地についた。
いよちゃんが鳥かごのなかで心配だったけど、誰も乗り物酔いしなかったし順調な滑り出しだった。
「ここが遊園地……」
「はい、末那さま。こちらの遊園地は、あちらの大型ショッピングモールに併設された施設の一部となっています」
「今日はモールの方には行かないけどな!」
「中規模サイズの遊園地に分類されますが、アトラクションが多さとショーやパレードなどのイベントによって、飽きの来ないバリエーションを生みだし人気を集めているスポットとなっております」
車の中でもその話は聞いたけど、実際にこうして目の前にすると全然違ってた。
想像してたよりずっと凄い。
「ねぇ、あの人混みは?」
入場ゲートを抜けたばかりの広場で、大勢の人だかりが出来ている。
その向こうから賑やかなメロディがして、家族連れのお客さん達からはキャーキャーという楽しげな悲鳴と拍手が巻き起こっている。
「末那、あっちだ。そこのモニターに出ているぞ」
「あ、すごい凄い、自転車の上で逆立ちしてる!」
穂乃香さんが指さしたさきには大型モニターがあった。
そこには多くのお客さんに囲まれてショーをしている女の人の姿が映っている。
「末那さま、あちらは競技用マウンテンバイクです。こちらからでは舞台を生で見ることは出来ませんが、なんともアクロバティックなショーですね」
女性はバイクのハンドルを掴み、体の周りをくるっと一回転させた。その遠心力を利用して斜めのバイクの側面に足を乗せ、波乗りサーフィンみたいな立ち上がりを見せる。
「おぉ、やるな」
続けていくつものトリックが決まり、その度に拍手が巻き起こり熱は高まっていく。
「鳥である私ですら、これだけ観客が集まり魅せられているのも分かります。巧の技というのでしょうか、
「うん、凄いよね、いよちゃん。出来たら目の前で見たかったかな」
すぐ傍でやっているけれど、このモニター越しでしか姿をみることができない。これだといつも見てるテレビと同じみたいで、なんだかもったいない気がした。
「さて、というわけで今のうちだ。そのモニターの隣に園内マップの看板がある、確認するぞ」
「今のうちってどういうことですか?」
「これだけ人が集まってたら行列もさしたることないだろ、っと」
穂乃香さんはそう言い残し、看板へ一直線に駆け出した。
私とくうちゃんはその後を追う。
「……いよちゃん、振り落とされないかな」
「大丈夫ですよ、末那さま」
ぁ、そっか。いよちゃんはバイオロイドだし、バランス感覚とかもいい?
「いざとなれば飛ぶでしょう」
くうちゃん!?
「いざとなればって玩具のフリしてるんじゃなかったの?!」
「飛ぶ玩具です」
「とっても目立つ!」
誤魔化しきれないよ!
「妹が落ちなければ問題ありません。ほら、平気だったみたいです」
園内マップの看板を見上げる穂乃香さんの右肩にはしっかりと、いよちゃんの無事な姿が見てとれた。
「……良かった」
穂乃香さんに追いついて、カラフルで大きな看板を見上げた。
エリアごとにライオン、キリン、ウサギの名前がついている。
「そう言えばだが、末那は遊園地に来たことあるか?」
「ずっと前に一度だけ。あんまり覚えてないですけれど」
私が遊園地の夢を見て、くうちゃんが提案して来ることになったけど。実際にこうして来てみても、その時のことを思い出したりもない。
「そうか。ここは見ての通り子ども達はもちろんのこと、大人も童心に還らせてしまう魅惑の場所だ。きっと末那にとってもいい思い出になるだろう。さて、どれから攻略してやろうか」
園内マップの看板の、隅から隅まで穂乃香さんは目を走らせている。
「穂乃香さま、まずはこちらのティーカップはいかがでしょうか」
くうちゃんが提案したのは、このすぐ近くのアトラクションだった。
「ティーカップか……ちょうど誰もいないな。よし、そこに決めた!」
また一直線に駆けだした。
「ぇ、ちょっと穂乃香さん!?」
また走って行っちゃった……。
「すぐそこですから大丈夫です。ほら、もうついてスタッフさんと話してますよ」
あ、大きな丸を作った。
「おそらく、すぐに乗れるか
穂乃香さんは体をウズウズとさせている。あ、中に入ってっちゃった。どのカップに乗ろうか先に選んでる。
そうこうしてる間に私達もティーカップの前に着いた。
「すみませんが、こちらの車椅子をお預けできますでしょうか?」
「はい、あちらの方から伺っています。車椅子はそちらに、お好きなカップにお乗りください」
穂乃香さん、私のことも話しておいてくれてたんだ。
「さ、末那さま」
「うん?」
あ、そっか、降りなきゃなんだよねっ
降りた車椅子はスタッフさんが端へと寄せていく。
「お手を拝借致します」
ぱっと手が伸ばされて。
「ぁ」
私の右手は、くうちゃんの手につながれていた。
「さぁ、お好きなカップにお乗りください」
スタッフの声に押され、くうちゃんに手を引かれるがまま青色ラインのカップに入る。
くうちゃんと並んで座り、繋がれた手はそのままだ。
「ささ、始まりますよ。ハンドル、しっかりと握ってくださいね」
「う、うん」
くうちゃんにならい、自由な方の手で中心のハンドルを握る。
楽しげな音楽が流れ出し、ゆっくりと回り出すカップ。
穂乃香さんのカップ、グルングルンとかなりの速さだけど大丈夫かな。
「どうされましたか?」
「ぁ、うん。目が回ったりしないのかな」
「おそらく大丈夫でしょう。とても楽しそうに笑っておられますし、妹も無事、肩に掴まっております」
「ならいっか」
くるくる、くるくると回り続け、音楽の終わりとともにゆっくりと止まった。
穂乃香さんがぱっと飛び降りて、続いて私達も降りていく。
「さって、お隣は、っと。お化け屋敷、お化け屋敷か! これも誰も並んでないな、よし行くぞ!」
え、もう?
「恐れ入りますが、穂乃香さま。私達は少しあちらのベンチで休んでいますので、妹とお楽しみください」
「お、そうか? だったらちょっと仕掛けを全て暴いてくるよ! 末那達はゆっくりなっ」
それじゃ! と穂乃香さんはあっという間にお化け屋敷に入っていった。
「それではあちらで休みましょうか」
「う、うん。ありがと」
ティーカップを降りて車椅子に戻るとき、繋がれた手は自然と離されていた。
「あの、さっきのことなんだけど……」
車椅子からベンチに座り直す。くうちゃんも隣に並んで腰を下ろす。
「お嫌でしたか? 申し訳ございません」
「うぅん、そんなことないっ、全然、まったく、これっぽっちも嫌じゃ無かったよ!」
「それは良かった」
「ふぇっ?」
くうちゃんの手が私の手に重ねられ、こちらが驚いている間にすっぽりと包み込まれていた。
「~~っ」
くうちゃんの表情は変わらない。
「はい、なんでしょう?」
どこ吹く風と涼しい顔のまま。私ばかりが意識していて、なんだか余計に恥ずかしい。
でも昨日、くうちゃんは「サクラ学舎の三人娘」を実践すると言ったんだ。手を握ることなんて、漫画では当たり前にされていた。
「これくらい、なんでもないよ!」
「はい、承知しております」
「うぅ~」
嘘だよ、ほんとはすっごい緊張してるっ。けど私もきちんと向き合うって決めたから……。
「末那さま、お体がこわばっています」
言わないで! 大丈夫だから、うん、きっと、絶対に!
「平気だからっ!」
ただ手を重ねられただけ。それだけで、こんなに息が上がる自分がいるなんて。
「それはようございました。それでは末那さま、もうひとつ試してみたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「ぇ、なにするの?」
ぱっと手を離したくうちゃんは、今度はその体を私の肩に寄り添うように近づけた。
「え、ぇ、ふぇっ?!」
腕が組まれ、手のひらが返されて。そうして指と指を絡めるように、くうちゃんは再び手を握りしめてきた。
「恋人繋ぎ、というらしいです」
「あぁ、うん……」
どっどっどっ、と心臓が高鳴っている。間近にくうちゃんの顔があって、肩が触れている。
「いかがでしょうか、末那さま」
「ぃ、いかがとは」
「感想をお聞かせくださいますでしょうか」
か、感想っ?
「わ、悪くないんじゃ、ない、かな?」
一本一本指を絡める繋ぎ方は、なるほど、より深いところで繋がっている気がする。
ほっとする、でもやっぱりどきどきの方が上。顔が赤くなるのを止めれない。
「悪くない、ですか。なるほど」
頷きをひとつ。
感触を確かめるように、絡められた指が動かされた。
「ひゃわぁっ」
ちょ、くうちゃん?!
「私も、悪くないと思います」
「ひゃ、ちょ、ま、っつ」
ぐにぐにとされるのがこそばゆくってむず痒い。
「どうされました?」
「うぅ、やったなぁ~っ! ぇぃ、えぃっ」
こうなったらとことんやり返すんだ!
「ま、末那さまっ、お
「てぃ、てぃっ」
「ちょ、ちょっと、末那さまっ、ははははは」
結局、穂乃香さん達が戻ってくるまでの間。ずっと手を握ったり握られたりし続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます