第4話 スクリーム

 凍てつくような蒼をたたえた湾のほとりを近頃親しくなった友人と歩いていた。友人というよりは命の恩人と言うべきだが。


 夕焼けはその赤をだんだんと濃くし、あるいはオレンジと緑と紺をブラシでなぞったようなグラデーションを映していたが、やがて今日の命の営みを燃やし尽くし、僅かな残滓となって消えていった。彼との別れの時も近い。


 感傷に浸る我々に、聞こえるべきではない声が聞こえている。


 --ねぇ


 振り向いてはいけない。


 --あたしよ


 惑わされてはいけない。


 --あたしを置いていくなんて酷いわ


 聞いてはいけない。


 --せんせいとあたしは一心同体なのに


 ダメだダメだ。耳を貸してはいけないのだ。


 --今、あなたの後ろにいるの


 っ!!


「あっちょんぶりけ!!」



 人前で自然を貫く果てしない叫びをあげられては連れて行くしかあるまい。友人はそう言って彼女を伴って去っていた。約束の診療報酬も受け取らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る