過去編【絶級ティーチャー】その③

 巫くんに会っておよそ一ヶ月が経った。

 なんか彼、足を骨折したらしい。

 というわけで、しばらくは紅くんの方をじっくり観察させてもらうことにした。

 もちろん私はすぐ気づいたが、彼は世にも珍しい『負荷能力』を持っていた。まあ私は希少価値に興味が無かったけど、やはりかわいそうだと思った。負荷能力は異能適正や才能の有無に関係なく呪いのように会得してしまうもので、効果はどれも能力者自身を破壊しようとするものなのだ、と前に誰かから聞いていたからだ。

 まあ私ならそれを消せるが…そんな気は起こらなかった。むしろ活性化させたいぐらいだった。

 さすがに、活性化したせいで両親と妹を亡くし、挙げ句の果てに犯罪を犯して刑務所に入らないと飢え死ぬという状況にまでなってしまった彼にそんな酷いことをする私ではないが。

 彼はとっくに思考異常者だった。

 家族愛を失ったことで、自分に寄ってくる殺人鬼の味方をするようになっていた。だからこそ、計算尽くとはいえ放火することに躊躇いがなかったのだろう。

 40代前半の男は、そんな紅くんのお世話係に任命された。名前は…忘れた。平凡な奴の名前は覚えられないのだ。昔から。

 とにかくその男と紅くんは今現在まで仲良くしているようだ。よかったよかった。いやいや本当に良かった。彼がいなかったら紅くんは孤独から自殺していただろうからね。

 その男は紅くんに二つの指令を出した。

 まあこの時点でなんとなくわかる。心を読めなくても。要するにこの熟年警官は、警察の仕事を手伝わせることで紅くんに生きることの素晴らしさと社会の厳しさをやんわりと教えようとしたんだね。

 まあ彼は紅くんの負荷能力『クリムゾン』に自ら首を突っ込んだせいでどんどん地位が落ちていくんだけどね。

 では、【紅くんの指令】編スタートだ!



 指令『年下の2人を助けよ』。

 なんと。

 なんと。

 彼は、紅くんは新シリーズを一日でやり遂げた。

 完全に、私の予想を超えてきた。否、予想ぴったりの行動をされたのが予想外だったのだ。簡単に言わず複雑に言っても、彼の仕事は完璧すぎて、なんか、えっと、とりあえず、まとめると、簡単で難しいものだった。

 指令は具体的に言うと以下の通りだ。

『今、誘拐事件が二箇所で起きているから、俺と共に突撃して順番に人質を救出する。いいな?紅』

 というものだった。

『まっかせてくださいよ!』

 と、彼は意気込んでいた。大人に認められるチャンスと思っていたのだろう。張り切った様子だった。

 そしてそのままのテンションで、

 慣れた手つきで、

 いつものように。彼はたったの1時間で二箇所で発生していた誘拐事件を解決してしまった。もちろんクリムゾンが発動していたから殺し合いが起きたはずだが、彼は無傷で戻ってきたのだ。

 私は彼をたくましいと思った。

 彼に接触することにした。

『達成使いになれば、死ぬ危険はなくなるよ』

 そんな言葉をかけ、私は紅くんと同意のもとで達成使いになる為の修行を始めた。とはいっても、彼は既に負荷能力によって鍛えに鍛えられていたので、私が教えたのはコツだけだったが。

 まあとにかく彼はその修行の甲斐あって、感情を操る達成『マゼンタ・エモーション』を手に入れた。

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