第一話【技術使いは登校する】その②

 〈4-12〉

 生き別れの妹だよ。薙紫緑だよ。お兄ちゃん。

 俺が、「お前は誰だ」と聞いたら彼女はそう答えた。彼女は勝手に部屋に入っており、俺を待ち伏せしていた。

 それは、よく知っている顔だった。厳密に言うなら、よく知っている顔が成長したような顔だった。

 しかし、どうも信じられない。

そして、信じる気もない。だって、緑はもう…。

 よし、質問責めしよう。

「では妹よ、お前が本当の妹なのかどうか今からチェックするぜ」

「うん!」

「問題1、俺の好きな野菜は?」

「お兄ちゃんは野菜は全部嫌いだったよね!」

「…問題2、俺のハマってたカードゲームは?」

「スピバトだよね!」

「うん。問題3、俺が世界で一番好きなのは?」

「ん私だよ!」

「いえーい!」

「いえーい!」

 懐かしいノリだ。いつもこんな感じだったな。あれ?本物か?

「…やはりお前は俺の妹のようだな」

「当たり前じゃん!私は妹だよ!」

「じゃああれ言えるよな?あの暗号」

「えっ」

 表情が曇る。おお、怪しくなってきた。

 実のところ、俺はこの妹が本物か偽物かわからないのだ。何せ、世界を滅ぼせる能力を知ってしまっているから。

 本物の可能性がありありだから。

「あれ、言えないのかな?」

「いや、言えるよ」

「じゃあどうぞ」

 スタート!

「じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょのすいぎょうまつうんらいまつふうらいまつくうねるところにすむところやぶらこうじのぶらこうじぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがんしゅーりんがんのぐーりんだいぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなーのちょうきゅうめいのちょうすけって名前あるじゃん!あれおかしいだろ!呼ぶ時の不便さに気づけよ!名付ける時に!こんな呼びにくい名前は昨今のキラキラネームさんもびっくりだよ!いやぁ、ツッコミたくなってきた!よし、順番に見ていこう。じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょのすいぎょうまつうんらいまつふうらいまつくうねるところにすむところやぶらこうじのぶらこうじぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがんしゅーりんがんのぐーりんだいぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなーのちょうきゅうめいのちょうすけという名前は呼びにくいだけでなくただ単純にキラキラネームであることを教えてやろう!行くぞ!『じゅげむじゅげむ』。いや、毛虫か!なんだよげむげむ言いやがって!『ごこうのすりきれ』。ごぼうのすりきれか!『かいじゃりすいぎょの』。じゃりじゃりしやがって!『すいぎょうまつうんらいまつふうらいまつ』さっさと終末を迎えろ!『くうねるところにすむところ』ここが一番おかしいだろ!地名性のつもりでも名前の方に持ってくんな!『やぶらこうじのぶらこうじ』ぶらぶらするな!シャキッとしろ!『ぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがん』。ふざけてんのか!『しゅーりんがんのぐーりんだい』グリーンピースか!『ぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなーの』。ぽんぽこぴーはさすがにないだろ!頭ぽんぽこぴーかよ!『ちょうきゅうめいの』それは名前になった途端死亡フラグになるやつだよ!実際じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょのすいぎょうまつうんらいまつふうらいまつくうねるところにすむところやぶらこうじのぶらこうじぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがんしゅーりんがんのぐーりんだいぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなのちょうきゅうめいのちょうすけ君はその名前のせいで溺死したしな!『ちょうすけ』。なんでちょうすけにしなかった!長助だけ取ってみたら良い名前じゃん!全く、じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょのすいぎょうまつうんらいまつふうらいまつくうねるところにすむところやぶらこうじのぶらこうじぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがんしゅーりんがんのぐーりんだいぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなのちょうきゅうめいのちょうすけの親は何を考えてんだか…」

「…」

「どう?たしかこれだったよね!」

「お前…千文字も使いやがって…」

「お兄ちゃんが言えって言ったんじゃん!」

「2分も喋りやがって…」

「お兄ちゃんが言えって言ったんじゃん!」

「…だがまあ、確かにお前は俺の妹だよ」

「でしょ?」

 まだ信じられない。

「…じゃあ、最後に一つだけ質問」

「何?まだ何かあるの?」

「…」

「おい、答えろよ」

「…ああ、しまった。」

 曇っていた顔が晴れやかになる。なんだか、捕まって安心している犯罪者のようだった。

 彼女は顔に被っていた変装用マスクを剥がした。

「………」

「やっぱもっと入念に調べとくべきだったな。」

 それは、妹ではなかった。

まあそりゃそうだろうとは思っていた。でも、少し信じたくなってしまったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る