第一話【技術使いは登校する】その③

〈5-2〉

 後悔していることがいくつもある。

 感謝していることがいくつもある。

 俺の人生には。

 俺の母親ほ平凡な人だった。俺の父親は画家だった。俺の妹は嫌な奴で、少なくとも俺を“お兄ちゃん”と呼ばなかった。

 俺が5歳になった頃、どこからともなくクリムゾンの呪いが俺に憑依した。俺には父親譲りの記憶力があるので、その時のことは鮮明に覚えている。

 その時はまだ、俺は少し関わる程度だったのだ。誰かと戦うこともなければ、誰かを助けることもなかった。殺人事件の証人になることはあっても、悪の味方なんてしていなかった。少なくとも死体なんて知らなかった。そして自分が人を救っていることも知らなかった。

 しかし、小学5年生の時。

 クリムゾンの呪いは酷くなった。

 俺は必ず事件の現場に遭遇するようになり、

 そのうち両親と妹は惨殺された。

 その後、俺は心を病んで、鬱になった。鬱をどうにか消そうとして、思考異常者になった。小学6年生の時、たまたまあのおっさん(当時はもう少し若い格好をしていた)がいてくれなければ、俺はきっとダークサイドに堕ちていただろう。

 その後少年君達や庵内や巫に会うことになって、悪の味方活動を始めて、庵内と巫を封印して、悪の味方活動を続けて、今に至るのだ。俺の人生は。

「『生き別れ』から間違いだよ。」

 生き別れの妹なんていない。妹とは、死に別れた。異能という物がなければ、本当はもう会えないはずなのだ。

「…はーあ…古いデータを参考にしたらいつもこうだ」

「お前、確か俺と同じ1組だったよな。名前は…」

「叶屋柳」

「そうか、カノヤさんか。さっき質問は最後と言ったが、もう一つだけ質問させてくれよ」

「……」

 ナイフを持っている。俺を刺すつもりだろう。しかし、構え方を崩している。殺すつもりはないらしい。

「お前、そのまま俺の妹にならないか?」

「殺す!!!」

 構えをちゃんとしやがった!

 襲いかかってきやがった!

「うおわぁっ!そんな、そんなに怒んなくてもいいじゃん!クラスメイトの冗談だぞ!?笑えよ!」

「ふざけんな!お兄ちゃんって呼ぶのどんだけ恥ずかったと思ってんだこの野郎!」

「…俺はお兄ちゃんなんて妹から呼ばれたことなかったから、結構うれしかったんだけどな!」

「殺す!!!」

 しかしまあ結局“殺す”というのは冗談のようだ。

 なにせ剣筋が崩れている。殺意の無い、意味の無いナイフ術なんか、このクリムゾン様の敵にもならない。

 そんなことを思っている間に、俺が避けたナイフが壁に刺さった。よく見れば、部屋中が既に傷だらけじゃないか。

「……」

 のんびりしてる場合ではなかった。

 俺は突き出されたナイフを摘んで奪い、刃を彼女の顔の前で寸止めした。

「‼︎…」

「…なんで俺の妹に化けた、答えてくれ」

「そ、それは…趣味だから…」

「趣味…?」

「趣味ってか特技ってか…」

特技。

それは、聞き捨てならない言葉だった。

「はあ…じゃあもしかして、お前が1組に、つまり『凶悪犯罪者クラス』に入っている理由はそこにあるのか?」

「まあね」

 彼女は語った。

 自分はストーカー気質なのだ、目に入った人間すべてにストーカーせずにはいられないのだ、と。

「だから、天角学園にしては珍しく真面目な俺が目についたから、ストーキングする為に妹に変装した、と」

「まあ、趣味だし特技だし…癖だから」

「ふーん…」

 俺は考えた。というより思いついた。閃きとまではいかなくとも。こいつ、使えるんじゃね?と俺は思いついた。

「…」

「なあカノヤさん、力を貸してくれないか?」

「え?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る