第一話【技術使いは登校する】その①
一連のちょっとした騒動が終わってから数日が経った。
結局、入学式の日から毎日登校してきた1年1組のクラスメイトは5人。たったのそれだけしかいない。
俺はクラスから出て5組封印クラスに遊びに行き、リリーと話していた。
〈422-1〉
つまりそれは拘束だ。
拘束から救ってもらっておいてなんだ。俺を拘束しようってのか?いや別に構わないけどなんか傲慢じゃない?
俺はそんな感想を微々たるものだが密かにちょっとだけほんの少し感じていた。いや、感じていないと言ってもいいぐらいだけども。
はい、では問題の一言がこちら。
「部活がしたい」
「は?」
「部活がしたい。だって、青春っぽいじゃん。クレナイ、手伝ってよ。心裏ちゃんも誘うつもりだよ」
「…このアマは…」
リリー・シエルはそう言った。
この5組に響き渡るような大きな声で。
監視役ということでこの俺、薙紫紅は特別に出入り自由になったのだ。あたりを見渡すと、確かに封印能力者は7人いる。
リリー・シエル。
時破田心裏。
そして、青髪の男子、赤髪の大男、金髪のお嬢様とその執事らしき少し太った男(この人はカウントしない)、ハリネズミ(こいつも封印能力者らしい。どういうことだ?)、そして影の薄い女。
「…どんな部活だよ」
「そうだね、『人助け部』なんてどうかな?」
「へえ」
人助け部。なるほど、『このアマ』だなんて酷いことを思ってしまった。立派じゃあないか。
「どう?」
「いいね」
「よし!」
「具体的にはどんな活動内容だ?」
「そうだね…この学校カウンセラーさんがいないよね。私たちでやっちゃうってのはどうかな?」
「おう、いいじゃん」
まあしかしこの思考異常者の学校でカウンセラーをやるというのは結構な大仕事のような気がする。
「溜まり場もできるしね」
「おう…」
結構計算尽くのようだ。
「どう?」
「いいじゃん。じゃあ、明日紙にまとめてきてくれよ。それで書類作ろう」
「オッケー!」
うむ。なんだか、早い決定だった。
まあ利害は一致しているし…?不思議な話ではないか。俺もリリーも、青春がしたいのだ。
「………」
帰宅中。俺は思いだす。
リリー・シエルという女の過去を、俺はつい最近知った。そこには、理事長・須川朝登も絡んでいた。
まあそれはちゃんと話せば長くなるから、簡潔に。
リリーの母親と父親、それから理事長は当時『要封印能力』の持ち主で、天角学園の生徒だったらしい。つまり3人はクラスメイトだった。その昔、リリーの両親は仲間の封印能力者と共に世界を滅ぼして自分たちだけの楽園を作ろうと画策したが、天角学園に駆けつけたリリーの叔父と理事長がそれを阻止した。ようはクラス崩壊だ。
そして。
理事長は立ち上がった。理事長になった。
理事長が危険だと判断した封印能力者の生徒を、教室に封印することにしたのだ。
能力を封じ、行動を封じて。
「まあでも結構快適そうではあるけどなぁ…」
そんな独り言が漏れるほど、都賀先生の言っていたことは正しくて、封印クラスはびっくりするぐらい快適だったのだ。
ここは、ほぼ娯楽施設だ。
まさか教室に教室以上の空間があるとは。
とまあ、そんなことを考えながら俺は学寮に帰ってきた。
その時俺は。
忘れてはいなかった。今度こそは、忘れてはいなかった。自分が既に面倒ごとに頭を突っ込んだことを。自らの意思で突っ込んだことを。
寮に帰ったら、見知らぬ女の子がいた。
いや、それは知っている顔で…
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