第零話【達成使いは夢を見た】その⑪
〈3-15〉
刺しやがった。本当に、腹にぶっ刺しやがった。でも、それを見て一番驚いていたのは刺した本人である都賀生命だった。
何故なら。
それは俺にとって刀で腹を貫かれるのは致命傷ではないということを表しているのだから。
俺が持っているのは負荷能力と達成で、決して体を治癒する能力なんてもっていない。だからこれは、少し二つの力を合わせてズルをしたのだ。
達成は致命傷から俺を守ってくれる。でも、その力には一つだけ例外がある。俺が死のうとしている時。つまり自殺したい意思がある場合は、致命傷であっても相手の攻撃を受けることができる。俺はそれを利用したまでだ。
もちろん、こんなありきたりな救出劇で死ぬ気はない。さらさらない。死んでたまるか。だから、これは賭けだ。次のクリムゾンが発動するまでに、つまり強制的に生きなければならない時間のうちで、事件が終わるまでに誰かに傷を治癒してもらえれば、俺は助かる。
だから、できれば都賀先生とのバトルは長引かせたい。
「…お、お前…どういう…⁉︎」
そういうわけにもいかないだろう。
終わらせよう。右手で殴る用意をし、左手で教師都賀生命の剣を握る手を掴んで逃げられなくする。
「その勝負、そこまでだ」
しかし。俺が都賀先生を殴ることはなかった。
何者かの乱入によって、勝負は中断された。
「!」
地面から、大量の鎖が俺と先生に巻き付いてきた。
そこから先の記憶は途切れていた。
〈444-2〉
天角学園の教室のようだ。
確か俺は春休みに出会った時破田心裏という女子の同級生から頼まれてこれまた同級生のリリー・シエルという女子を生徒指導の先生と理事長から取り戻しに出陣して女教師美樹巴と戦って勝利して男教師都賀生命に日本刀で腹を貫かせてあともう少しで勝利というところで地面から出てきた謎の鎖に襲われて…
「これまでのあらすじをありがとう」
その声で、思考は中断された。
俺は起き上がって、周りを見渡した。確かにここは天角学園の教室で、しかも理事長室のようだった。いかにも理事長室に置いてそうなエンジ色のソファに俺は寝かせられていて、そんな俺を逆側のソファから誰かが座って見ていた。
「…あなたは……」
「私は理事長の須川だ。もちろん偽名だから、本名のように呼んでくれたまえ。」
なななななななななななななんてこった!
ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザっ、と俺はアクロバティックな動きで距離を取った。
「な、な、なななななななななななななな」
「おお、死ぬかと思いきや死なないと思いきや十分に元気そうで安心したよ」
「な、なんでででで」
「落ち着きなさい」
落ち着き、俺は体の異変に気付いた。なんと、日本刀で貫かれた腹が完全に治っていたのだ。
「…!」
「ああ、それは『怪我』を封印したんだよ。それはそうと、お茶を飲むといい。動き回って、水分が足りないだろう。」
「あ、ありがとうございます…」
何故か、お茶を淹れてくれた。しかも冷たいのを。なんだこの先生、めっちゃいい人じゃないか…?
「…では、何があったか聞こうか」
「?」
「都賀先生と戦っていたようだが…」
「あ、ああ…そう、そうですね。先生、そのことなんですが」
「ん?」
おっと、騙されそうになった。そうそう、この人は、リリーや時破田を教室に閉じ込めようとしているのだ。
「封印クラスの生徒を今すぐ解放してあげて下さい。お願いします」
「ははは…それはできないなぁ…すまない」
やっぱりいい人ではない。
「どうしてですか!」
「あの子達…7人の封印能力者にはそれぞれ特別な事情があってね。あの子達だけは行動を制限せざるを得ないのだよ。釈明ではないが、封印していない封印能力者も他のクラスにはいるのだよ?」
「‼︎…」
だ、駄目だ。
知らない話に持っていかれる。
ここで話をそらされたら駄目だ。
「…その事情とやらが何かは知りませんが、それはあなたが時破田をはじめとする7人を教室内に拘束する理由にできるほどのことなんですか」
「できるよ」
断言された。そんなものか。
「なら!俺に監視役をさせてはもらえないでしょうか!」
「…監視役?」
「はい!」
食らいつけ、食らいつくんだ。
なんとか、なんとかしないと。
能力はともかく、行動制限だけは駄目だ。
「…それは、どういう内容なのかな?」
「俺が、先生の封印を守るんです」
「…ほう」
「封印クラスの生徒の外出時、俺はついていき封印を守ります。先生は能力を使われることや自分の封印を解放されることを危惧してらっしゃいますね…?だったら、封印を解く可能性がある俺が先生の味方につくというのは、条件として結構いいのではないでしょうか!」
「遠回しに言わなくていいよクリムゾン君」
理事長は優しい目をする。
「…え?」
「そんなに丁寧に言ってくれたら、逆に断りやすくなってしまうよ…普通に、脅迫すればいいじゃないか。」
「脅迫って…俺はそんなつもりでは」
「普通に、『俺はあんたより強い』『味方でいてほしければ言うことを聞け』って、言えばいいじゃないか。」
「先生、俺はそんなつもりで言ったわけではありません」
「では、どんなつもりで言ったんだい?」
「……」
どんなつもり?
どんなつもり…?
そんなの一つに決まっている。
俺は頭を下げた。
「懇願です。」
そう、俺は時破田の代わりとして来ていたんだった。
あいつならきっとこうするだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます