第零話【達成使いは夢を見た】その⑩
〈3-8642〉
ツガ先生。ミキ先生はそう言っていた。
破壊した机に書いてあった『都賀 生命』という名前の人物を指しているというのはわかった。
もう確実だ。次の相手は都賀 生命先生だ。
走りながらそんなことを考えていたその時。俺が南棟の二階と三階の間の階段踊り場を通り過ぎようとしているあたりの出来事だった。俺が踏んだ階段の段の一つ下の段に線が現れた。
いや、線ではない。それは一閃だった。
あまりにも綺麗すぎる一閃。
景色がズレる。
パルン四世のコンニャク芋が切れない剣で切られた感じ。えげつない。
とても信じられないけど。
南棟の校舎が、崩れていった。
〈3-7〉
つまり放たれたのは一閃だけではなかったようだ。
しかし、なんという切れ味だ。広範囲攻撃で複数回ってことは多分飛ぶ斬撃を使ったんだろうけど、それでこの切れ味とはちょっと普通ではない。章まで切れてしまったみたいだ。
「…やはり、ここはそういう学校なのか」
残念だ。
世間から隔離されているから、もしかしたらクリムゾンの呪いも止まるかな、とか淡い期待をしていたけど、駄目だった。この調子じゃあ、3年間で事件が尽きることはないだろうな…、と思った。
〈3-9〉
俺は崩れた校舎に埋もれていた。まだまだ斬撃が飛んでくる。多分、それをしているのは都賀先生だ。
もう放課後だから生徒もいない。思う存分剣を振るっているのだろうな。
「…俺を生き埋めにする気か」
そうはいくか。
俺は土竜のように校舎の山を掘り(殴り)進め、ついに山から抜け出した。
目の前には斬撃があった。
しかし、これこそ避ける必要はない。何度も言うが、俺に致命傷は存在しない。
「…………」
崩れた校舎の近くにで日本刀を鞘にしまう男教師がいた。自分の放った一閃が当たる直前で消える様を目の当たりにしたその男、都賀生命は大して驚愕していなかった。
冷ややかな目をしていた。まるで、“これも計算のうち”とでも言いたそうな雰囲気だ。
「こんにちは先生。校舎が崩れるなんて今日は変な日ですね」
「そうでしょうか。ここでは、さほど珍しいことではありませんよ」
淡々と、彼は答えた。
なら、これならどうだ?
「生徒が誘拐されるのもですか」
「…………」
「先生。先生はどうしてこんなことをするんですか」
「…その質問は美樹先生にもしたのですか」
「はい。」
「彼女はなんと?」
「仕事だから、と。」
「…ほう。まあ、彼女らしいですね」
「話をそらさないでください」
「まあこの際言ってしまうと、封印能力者には3年間、教室内で暮らしてもらう予定なんですよね。能力を封印しながら。まあそれには理由があって、それはここで言えるようなことではありませんが。とにかく、リリー・シエルさんとそれから時破田心裏さんには教室から出てもらっては困るのですよ」
「…」
「もちろん教室とは言っても衣食住はきちんとできていますし、それが原因で死ぬとか飢えるとかいうことはないですね。その辺は理事長先生と私が保証します。なんなら外より充実しているようなものです」
「………」
「…とまあ。これらのことを薙紫紅君に伝えるように私は理事長に頼まれたのです。どうですか?引き返す気になりましたか?」
「…」
なれない。この先生が今言ったことが本当なら理事長は思ったより人道的な人のようだが、少なくともリリー達が快適そうに暮らしているのを見るまでは。それと、だいたい、校舎の一角をぶった切った人を信じられるか!という気持ちもある。
不服な顔をしている俺を見て、教師・都賀生命はまるでマニュアルに沿った行動をしているかのようにこう言った。
「…わかりました。じゃあ仕方ない。続行ですね。」
咄嗟に!
都賀は前の空間へ居合斬りを繰り出す!
刀身が黒く染まっている刀によって出来た黒色の斬撃軌道はそのまま飛んで行き、それこそ殺人にうってつけの切れ味を見せる。
魅せる。斬撃は飛ぶ。しかし、これこそ避ける必要はない。当然俺はこれ以上被害を出さない為に、できるだけ早く決着をつけるべく駆ける。
ここからが正念場の終わりだ。
能力を統べる者を統べることのできる力。
それが達成だ。達成は異能ではない。
俺の達成は感情を操るもので、防御時にはとりあえず俺が死なないようになんとかしてくれる。そして達成だからなんとかなる。
よって、飛ぶ斬撃だろうがなんだろうが大丈夫。でも、これは俺もさっき気づいたことだけど、南棟が破壊されたということはつまり、飛ぶ斬撃を俺が避ければ職員室のある中央棟に向かうということだ。これもさっき気づいたことだが、職員室には電気がついていた。恐らく教師がそこにいるのだろう。
つまり、俺は飛ぶ斬撃に触れながら消しながら先生に近づかなくてはならない。後ろの校舎に斬撃が当たれば大惨事だ(まあ担任の先生に関しては達成使いのようだから心配ないようだけど)。だがそれでは防戦一方になるので、できる限り早く先生は殴り飛ばさなければならない。
進む!
しかし思ったより距離があって、斬撃抜きにしてもなかなかたどり着けない。話していた時は気にならなかった程度の距離のはずだが、しかしどうやらそれは、入学式の後ということもあって生徒が俺の他にいなかったことと、風が吹いていなかったことに起因していたみたいだ。体感距離は10m、しかし実際は16mぐらいはあったようだ。あの先生も結構声を張り上げていたんだな。
そんなことを思っている間も。
俺は前へ進めない。
飽きてきたのかそれともしびれを切らしたのか、都賀生命は刀に纏っていた魔法を解き、刀を本来の色である銀色に戻して俺へ向けた。
「!」
そんじょそこらの人間では絶対に生まれない発想である。わざわざ弱くするというのは。やはりこの人は、いや、この人だけではなく、この学校の人間はみな常識というものを持ち合わせていない。
この人は、俺を刺すつもりだ。
あの冷徹な目をしたままで。
先生は、刀を刺しますと言わんばかりに前に突き出し、俺へ向かってかけてきた。10数メートルの距離だから、勝負は一瞬で決まる!
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