第零話【達成使いは夢を見た】その⑥

 〈111-222〉

 残念ながらデータは機密情報なので公開できない。俺は一目見て即座に削除した。

 そこには、驚愕の事実があった。

 しかし俺は驚愕せず、ただただ怒りで、燻っていた。理事長のしようとしていることをわかってしまったから。

 玄関先へ走る。

 玄関から外へ出る。

 周りを見渡す。

 誰もいない。

 もうなんか、どうにでもなってしまえ。俺は怒りの中でそう思っていた。そして巫槍かんなぎつらぬきの言葉を思い出す。

「お前はもう随分立派なんだから、これ以上成長しないでくれよ。なんなんだ?どれだけ少なく見積もっても8000人以上救っておいて、まだ強くなりたいだなんて。少し強欲すぎるんじゃないか?もしお前がこれから8000回犯罪をしたって誰も文句は言わないほどヒーローみたいなことをしたのに、まだ、お前はヒーローを続けるのか?」

 馬鹿が。

 俺。

 あんな言葉を間に受けやがって。

 俺はまだ。

 8000回しか救えてなかったじゃないか。

 8000回ではリリーを救えてなかったじゃないか。

 自分のことばっか気にしやがって最低か。

 女の子が困ってたら迷わず助けろよ、俺。

 俺はまだ、終わっちゃいけなかったんだ。

 友達ができそうでも、学校に安心して通えるようになりそうでも、それを手放したくないだなんて思っちゃいけなかったんだ。

 何が、胸騒ぎだ。

 友達作って騒ぎたいだけだろ俺は。

 ふざけるな。

「うんうん。よく気づけたね。そうさ、君はまだ終わっちゃいけない。君の物語は、君という物語はまた始まるべきなのさ。一旦終わって。また始まるべきなんだよ。そういえば、今、あの口癖を言うチャンスだよ。あの、『〜なのは〜回目だ!』ってやつ。言わないのかい?」

 庵内湖奈々がもし隣にいたら、そんなことを言うのだろう。巫槍なら、別のことを言うのかな。

 おっさんは何ていうかな。わからない。

 少年君は賢いことを言うだろう。

 時破田は一緒に怒りの言葉を言うだろう。

 リリーは。

 リリーは『助けて』とは言わなかった。

「………」

 腑抜けた俺の目を覚まさせるのに、リリー・シエルは十分すぎる。

 彼女がなんと言おうが、俺はリリーを助ける。そして、理事長も助けてみせる。私情でリリーを助け、悪の味方として理事長を助ける。

「…じゃあ、行くか。」

 俺の、俺たちの新たなる物語へ。

 こんなことが起こったのは8001回目だ。

 こんなことで怒ったのは8001回目だ。

 俺は、いつものように激怒している。

 俺は昼飯を食べずに、天角学園へと駆け出した。

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