第零話【達成使いは夢を見た】その④

 〈44444-13〉

 凶悪犯罪者クラス。

 連続殺人犯クラス。

 身体五感覚醒者クラス。

 異能力者クラス。

 そして、封印能力者クラス。

 天角学園では、戦闘力?によってランクをつけられ、それでクラスが分かれる。5組に。一見、1組が一番弱いように見えるが、まあ戦闘力なんていうのは全く参考にならないものであり、模試のアルファベットの判定みたいなものである。D判定の奴が等大に入ることもある。そんな感じ。因みに達成使いは裏口入学できる感じ。S判定。SはひょっとしたらRの後に来るかもしれないが。

 しかし達成使いクラスというのは無いので、俺は大量にある冤罪を利用して、凶悪犯罪者クラスに入ることとなった。

 当然。

 ホームルームが開始されても、クラスメイトは全然来ない。教室にはたった5人しかいない。俺を含めて。

 もともと5人ということはない。もともと5人なら、こんなに机は用意されていないはずである。

「…」

 どうしてこうなるのだろう。

 俺は、何故青春をさせてもらえないのか。

 結局その日は色んな説明を受けて解散だったので、誰とも話さなくてもやっていけた。問題は明日からだ。

 俺は通学路をとぼとぼと帰りながら、こう思う。

 何を隠そう俺は寂しい。

 そして寂しいのは嫌いなんだ。

 これから一生、おっさんとか時破田にべったりくっついて暮らすわけにもいかん。それに、おっさんの養子になって、時破田と結婚するぐらいの幸せなんて、向こうから勝手には歩いて来ない。

「きゃっ」

 幸せは勝手に歩いてこないが。

 俺は道の角で、歩いてきた少女にぶつかった。

 少女は転んだ。

「あ、ごめんなさい、大丈夫ですか?」

 俺は、その言葉を話す間に、

 驚愕と理解を済ませていた。

 曲がり角で少女に出会うなんて、これは恋の始まりか?もしかして、こいつ天角学園の転校生なのかな。でも、今は放課後だしな。最初はそんな呑気なことを考えていたのだ。

 でも、転校生どころではなかった。

 恋の相手どころではなかった。

 その少女の肌には、刻印があった。

 焼印のような、魔法の刻印が。

 3つ。

 首に一つ。

 右手二の腕に一つ。

 そして、足首に一つ。

 そう、まるでどこかから急いで逃げ出してきたみたいに。彼女は靴を履いていなかった。そして、その身に纏う衣服もボロボロになっており、あれやこれやを隠すのが精一杯という感じだった。

 そして、俺が何より驚いたのが、

「…お前」

「はい?…痛てて」

「魔法使い…」

「あ、うん、そうだけど…あっ、しまった」

 魔力の質が。

 あの、庵内湖奈々と同じだったのだ。それは、俺が今までに対峙した中でもっとも強かった能力者である彼女のものと。

 似ている、ではない。まったく、そっくり、同じ。それこそ、イコールを引きたくなるほど。

 はっきり言って。

 ここまで胃が痛くなったのは初めてだ。仕事のストレスで胃に穴が開く人なんてのが存在するらしいが、今の俺はまさにそんな感じで、この少女の顔が少しでも庵内に似ていたら俺も多分そうなっていただろう。

 この少女、

 リリー・シエルの顔が。

「…大丈夫、俺は味方だ。どうしてお前がここにいるのかは知らないが、見せてもらった写真の通りだ…お前がリリー・シエルだな?」

「いや、私はジャンヌ・ダルクだよ」

「むしろ時破田より誤魔化せてねえ」

「と、時破田!?」

 彼女は驚いた顔をする。見ず知らずの男が友人の名前を出したからだろうか。

「ああ。俺は時破田心裏に頼まれて、お前を助ける予定…いや、予定だった者だ。薙紫紅。俺のことは紅と呼んでくれ」

 しかし、これがよくなかったのか、

 俺があまりにフレンドリーに話しかけるから警戒されてしまった。彼女は身構える。でもまあ、埒が開かないので、とりあえず時破田に電話して、声を聞かせることにした。因みにあいつはあいつでやるべき仕事があるらしく、テレポートでこちらに来て話すほどの時間がないらしい。もっとも、テレポートに時間はかからないが。手が離せないらしいのだ。まあ、その辺は個人の事情だし、どうせおおごとになる前に巻き込まれるだろうから今は気にしないでおこう。

 電話越しに声を聞いて、リリーは安堵の表情を浮かべる。恐らく、時破田の方もそうなのだろう。

 で、電話が済んだあと、俺達はとりあえず今の状況を整理するために、オンボロの学寮の俺の部屋へ向かった。

 途中、視線を感じた気がしたが、

 まあ、気のせいだろう。

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