第零話【達成使いは夢を見た】その②
〈235-13〉
時破田心裏はテレポートの原理について説明してくれた。いや、テレポートの原理というより、封印能力の原理かもしれない。もっと言うなら、封印能力への対策を語ってくれたのかもしれない。そんなものはいらなかったが、俺は好意からの行動は否定しない主義であったので黙って聞くことにしたのだった。
「理事長の能力のランクはわからないけど、とにかくあたしで勝てないということは封印能力者以上ということになる」
「そだな」
「能力は『封印』。何を隠そう、『封印されるべき能力者』の『封印』は、理事長の能力のことなのよ」
「へぇ。じゃあやっぱり封印能力者より強いってことになるな」
というか、封印能力者が割と新しい単語だということが結構びっくりだ。
「ええ。その『封印』で生徒指導室の教員達は一時的に限界を封印されていた」
「…」
「つまりはまあ」
「その人達も本来よりえげつなく強化されてると」
「ええ」
まあ、俺には関係ない。俺は達成使いだから。
でも、時破田には関係ある。
「そこで、参考になるかはわからないけど、封印能力者の使う能力が、普通の能力とどう違うのかを教えるわ」
「おう」
知ってるんだけどなぁ。
彼女は説明を始める。
「封印能力は、実は元はそんなに、能力として強くなかったりする。ではそれがなんで世界を滅ぼせるようになるかというと、何かの拍子に『支配属性』が混ざるから」
「ほう」
相変わらずかわいい奴だ。でも、
恋愛感情が全く湧かない。何でだ?
「『支配属性』が生まれるきっかけは個人ごとに違うけど、とにかくそれが混ざると、その能力のすべての効果に支配力が取り付く。まるで憑き物みたいに。」
「へえ」
あ、そうか、こいつ色気がないんだ。
格好は男っぽいし体のラインも無いし。
「で、まあ、そういうことよ」
「時破田、とりあえずスカートを買おう」
「なんの話」
時破田心裏は紙を取り出した。ここは病院の一室であり俺の部屋だから、こいつは勝手に俺のテスト用紙を使ったことになるのだが、悪い点数だったからいいか。それに、学校にいい思い出もないし。だいたいそれ、いつのだ?中学のか。いやいや全く、義務教育のせいで中学のみんなには3年間も怖い思いをさせちゃって、本当に、ごめんなさいと言いたい。
そういえば、庵内湖奈々という人物と色々あって達成使いになったのは中学に入る直前のことだった。もしかして、俺は春休みに酷い目にあう呪いにもかかっているのかな?そう考えると、嫌な予感がしないでもない。
「ねえ、聞いてる?」
「ごめん。もっかい言って」
「仕方ないなぁ」
こいつ、かわいいんだけどなぁ。
顔と声と仕草だけは。でも色気無いなぁ。
いや、無くてはならないという義務はないけど、でもなんていうか、残念な奴だなぁ。顔と声と仕草がもったいない。
男女女みたいな?
「テレポートを例に見てみましょう」
「おう」
「普通のテレポートの原理はこう。」
紙に既に、A,Bの二つの点が書いてある。時破田は、その二つの点を、紙を折り曲げて合わせた。
「まあ、二点を繋げれば最短距離…否、ゼロ距離になるっていう、よくある奴よ」
「俺それ知ってる、ラドえもんで見た」
「ええ。SFじゃあよく出てくる。一般的な理論?ね。でも、支配属性を含んだ封印能力ではこうなる。」
時破田心裏は、《A=B》と書いた。
線が二本で、等号。
イコール。
「おお、考えたな」
「そう。支配属性があれば、物のあり方を操り、変えることができる。元々AもBは別の場所にある別の空間だけど、支配属性を使えば同じ存在であることにできる。だから、距離を無視するのでは無く、『距離を無視するまでもなくここに存在させる』、これが封印能力者のテレポート」
「おお…」
知っていても感動する。これと似たような説明を最後に聞いたのは中1の時だったか。
「だからまあ、限界を封印して支配属性を手に入れることはなくても、これに似たようなことはできるだろうとは思う。それに、理事長はそれ以上のことが普通に出来るのも忘れちゃいけない」
「………」
「だから、あのラジオのジャックは最終手段だったのよ。あたしが悪事を働いて、あたしより強い奴が来てくれればと思って」
…じゃあ何だ、哲学レィディオとかやりそうなのは封印能力者だとか、世界をわかった気になってるとか、ドヤ顔で推理してた俺はなに?黒歴史になっちゃったのか?生っちゃったのか?いや生えてはこない。
「そしたら達成使いに来てもらえるだなんて、強いどころか心強いったらありゃしない」
「俺は本当に心が強いしな」
「寒い」
「そんなに言うことないじゃん」
でもまあ、それでも、
はっきりはさせておかなくては。
「えへへ」
「でもな、時破田」
「ん?」
「お前が言った通り、達成使いってな、能力者より心が強くて、それ故に歪んでるんだよ」
「え?あたしの体で払えって?嫌だ」
「そんなことは言ってないし、ちゃんと貞操観念があるようでほっとしたよ、でも発想は腐ってる」
「腐ってないし」
「時破田、多分知ってるとは思うが、『達成』は相当苦難を乗り越えないと覚えることはできないんだ」
「うん」
「それこそ一日二件大事件に巻き込まれるようなことがないと、絶対に手に入らない。いやそもそも、これは身につくという表現の方が良さそうだ」
「…」
「それにだ。俺が達成使いになれたのも、庵内湖奈々という超激強の絶級能力者の協力あってのことだ。それに、俺がお前に会えたのもクリムゾンのおかげだ。」
絶級能力者のことはまた後ほど。でももしかしたら、理事長がそうかもしれない。
「…」
「なあ時破田、全部が全部偶然でいいのか?お前は大切な友達を救うのに、そんな他力本願な手段を使っていいのか?」
「………」
「別に俺は問題なくリリーとやらを救いだせるだろうが(大嘘)、お前はそれでいいのか?」
時破田はうつむく。
当たり前だ。
同年齢の奴に説教されるとかいう、最悪のイベントを迎えたからではない。一番痛いところを突かれたからだ。
「………」
「お前は強い者には頼っていいとでも思ってるのか?達成使いだから任せていいとか、そんな図々しいことを考えてるのか?」
「そ、そんなつもりじゃない!」
「そうか。安心したよ。因みに俺はいいと思ってる」
「!?」
勘違いしないでほしい。俺は弱い者の味方で、悪い者の味方だ。別にここで時破田が、うん!、と答えていても、普通に協力して普通に助け出していただろう。
それに、図々しくない人間なんて、存在しないだろう。
「だからな、俺は判断したかっただけなんだ」
「な、何を…?」
「リリーを助けた時、お前の名前を出すべきかどうか。それで初めて対等な、」
共犯者だぜ。
俺はそう言った。
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