プロローグ【封印ラジオ】その⑦
〈1-4〉
プロローグももう終わりかと思うと、少し寂しい気分になる。まあ、一話10000字もあるのだから、そうなって当然だろう。
では、最後に俺はちゃんと自己紹介をしようと思う。
薙紫紅。15才。今度の春から高校生。
目にかからない前髪、うなじが見える後ろ髪。
黒髪。黒い心。重度の思考異常者。
悪の味方。達成使い。
クリムゾンという負荷能力の呪いを持つ。
5歳の頃から一日二件の事件を解決してきた。
これまでに約、8000件。
かっこいい。超絶かっこいい。いえーい。
病院暮らし。
「あ!え!い!う!え!お!あ!お!」
「か!け!き!く!け!こ!か!こ!」
「ねえ、まだ?」
俺の家は病院だ。ここ、皆砂糖県奈実田亜市にある大病院、通称、『黒の実験場』に俺の部屋はある。俺の達成に恐怖せず対等に話せる人物の1人である小学校の頃の保険の先生が、毎日事件のせいで傷だらけになって保健室にくる俺に紹介してくれた場所だ。ここでは、憲法スレスレの治療を実施しており、そのおかげか俺には目立った後遺症はない。一生傷はたくさんあるが。
で、そこに時破田を連れてきた。何故かというと、少しばかり頑張らなくてはならないから。
どういうことかと言うと、俺の達成、マゼンタ・エモーションは『感情』や『思考』、『精神』を操る達成であり、オート発動の防御時はともかく、攻撃するには、思考異常者には効きにくいのである。能力では抗えないが、感情では抗える。信号を無視して人を撥ね飛ばす車も、行き止まりでは進めない。そんな感じ(たとえが悪かった)。感情を操る達成は、思考異常者に対して、防御時、つまり発動MAXの1/10しか効かない。封印能力者は思考異常がマシとさっきは言ったが、この場合はそんなに関係ない。封印能力者もやはり1/10しか効かない。もちろん、それ以上も同様。
「よしっ発声できた」
「おお」
「じゃあ行くぜ」
「あたしは何もしなくていいの?」
「声を聞いてくれればいい」
「ふぅん」
1/10しか効かないから、気合をいれて、声も出さなくてはならない。叫び疲れるぐらい叫んで、喉が枯れるぐらいお腹をつかって声を出す。
俺は呪いを解くべく、達成を発動した。
叫ぶ!
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
決して、勘違いしないでほしいのが、これは伏字ではないということ。俺はアダルティな言葉を叫んだわけではない。ただ、思いっきり、空気砲のように声を出したからよく聞こえなかっただけである。
これの1/10で済むようになったのはいつからだったろうか。あの、『庵内』湖奈々と『巫』槍と戦った時からだろうか。まあ、その辺の話はまた今度するとして。
今は。
「…!」
「どうだ?」
「の、呪、えっ?」
時破田鋭利、弟君が残した残留思念を達成で書き換えた。能力を、何度か変質させた。消滅する呪いを創造する呪いに、創造する呪いを創造する能力に、創造する能力を想像する能力に。そして、想像する能力を、テレポーテーションに混ぜた。人の恨みによる呪いにだからできた技である。
「何か言うことは?」
「あ、ありがとう」
そう、俺はあくまでお前の為にやった。
俺は悪魔で、悪の為に動いた。
ラジオ局に迷惑をかけさせない為とは言ったが、あれは、ラジオ局の人と声優達を思っての言葉ではなく、ラジオ局の人と声優達から時破田がこれ以上恨まれない為を思っての言葉だ。
俺は悪の味方だ。
俺は、弱い者の味方。
だって、正義は強いじゃないか。
正義になれなかった奴もいる。
正義になりたかった奴もいる。
正義のつもりの奴もいる。
正義を憎む奴もいる。
正義とかけ離れてしまった奴もいる。
正義から嫌な目線を向けられる奴もいる。
正義に育てられなかった奴もいる。
正義の団結の為に悪にされた奴もいる。
正義に勝手に仮想敵にされた奴もいる。
正義なんかクソ食らえだ。そんな強い奴らは、1人でたくましく勝手に生きてればいい。
俺は、そんな強い奴らに、弱い悪が、貧弱な悪が蹂躙されないように悪を助けたい。この時破田心裏も同様だ。
俺は知っている。
悪の感情は、いついかなる場合でも弱い。
だから、助ける。
あの庵内湖奈々も、巫槍も、
いつか助けてみせる。
「よし、じゃあ…」
「ね、ねえ、紅」
「?」
「もう一つ、助けてほしいことがあるんだけど…!」
彼女がそう言った瞬間。
「緊急ニュースをお伝えします。避難指示です。ただいま奈実田亜市に隕石群が接近中です。奈実田亜市にお住いの方々は今すぐ避難してくださ…」
「あちゃあ」
最近多い隕石。まあ、多分俺のせいだ。
クリムゾンが働いた。本日2度目の事件。
「…チッ」
あれ?今舌打ちしたか?時破田。何がそんなに…
「紅、ちょっと待ってね」
「え、いや、待つけど」
すると。彼女は両手を広げて前に出した。
なんだろう。抱きしめられたいのだろうか。いやでも、女の人を正面からハグするっていうのは、俺にとっては結構ハードルが高いことなのであって。
俺がそう思っていると。
しゅんっ、と、彼女の両手に隕石が。
「!」
「紅、これは単なる交換条件だけど」
「お、おう」
隕石を地べたに置いて、仕切り直す。いや、さっきの俺のセリフを使っているあたり、意趣返しの意味もあるのかもしれない。
「あなたにも呪いがあるようね」
「うん…まあな」
「どうやらそれはあたしでも消せないらしいわ」
「………」
「だからというわけじゃないけど、一つ頼まれてほしいことがある。」
「…なんだ」
「あたしのたった1人の友達を助けてほしい」
それは悲痛な願いなのかどうかはわからないが、彼女はその時真剣だった。
「友達…?」
「ええ。その子、今、捕らえられているの」
「へえ…で、俺はどうすればいい?」
「思考異常者だけが集まる学校、『天角学園』に乗り込んで、あたしの友達、リリー・シエルを助け出してほしい!」
おお、なんということだ。今後のストーリーの舞台となる学校の紹介と、次の話での目標を一度にわかりやすく伝えてくれるとは。
もう、狂言回しはお前がやれよ。
「何と交換だ?」
「少なくともリリーを助け出すまでの間、あたしはあなたのその呪いを肩代わりする」
「………」
呪いには触れられなくても。
呪いの効果を自分に持ってくることはできるのか。
「…頼み事が通るのは、頼まれる方にメリットがある場合だけだ、俺はそれによって何を得られる?期待してるよ」
「天角学園は思考異常者の学園。つまり…」
「つまり?」
「あなたでも友達100人作れちゃう!」
「引き受けよう!」
交渉成立。
というわけで、
俺達の物語はここから始まった。
これは、思考異常者達の物語。
俺も含めた、俺達の物語。
プロローグはこんなもんでいい。
これから、長いんだし。
それでは、死なない程度にお楽しみください。
賢い人はこれを読むらしいよ。
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