―森林地帯にて―


 少女達が殺人許可証とその所持者について話をしていた頃。

 ちょうど、カヤが既婚者疑惑が持ち上がっていた頃でもある。


 森林地帯。


 カヤは『探知』を使いながら、水地の行方を追っていた。


 別れた辺りに向かってはみたが、そこに水地の姿はない。大きな抉れた跡があっただけであり、その跡も降り止まない雪で白く化粧がされている。


 水地の気配がない。


 探知に引っかからないこういう時が一番厄介で、探すのにも時間がかかる。

 虱潰しに辺りを探すのもいいが、もし水地が致命傷を受けていたとしたら、手遅れになる可能性もある。


 水地自身は『ながれ』の型の使い手でもある為、自身の怪我さえも治すことも可能だ。

 ただそれは意識があれば、の話ではある。


 見つからないのであれば、治療し、寮へと別ルートで戻っている可能性もある。まだ寮で争いが起きていると考えているとすれば気配を消して向かっているのかもしれない。


 または、負けて死んだか。

 玲という男が寮に向かってこなかったことから、倒したのだろうとは思っているが、連れていかれた可能性も捨てきれない。

 もし人質となっているのであれば、再度の侵攻のための材料として使われる可能性もある。


「……面倒だ。今度探知をもう少し極めてみるか…?」


 水地が人質になっていようが再度の襲撃は起こさす気は更々ないカヤではあるが、ややこしい状況には変わらない。

 探知を更に広げてみるが水地の行方はわからず。

 次第にカヤにも焦りが生まれ始めた。


「……ん?」


 比較的新しいであろう、倒れた大木がそこにあった。

 辺りの大木から雪が落ちたのか、こんもりと雪が積っている。


「……『流』の型」


 カヤがため息をつきながら型式を発動すると、辺りの雪が水となり、流れて大地に消えていく。

 対象先のみ、雪のない大地が現れた。


「どんだけ近くにいるんだよ……」


 そこに、凍死寸前の水地が倒れこんでいた。

 腹部に大きな穴の空いた玲と一緒に。




 ・・

 ・・・

 ・・・・



「……ぁ」


 ぱちっと、水地が目を覚ます。


「やぁっと起きたか」


 目の前に煙草を吸いながら男が座っていることに気づき身構えようとするが、見知った顔だったのですぐに警戒を解いた。


「永遠名……寮は大丈夫だったか?」

「ああ。何とかな」


 その言葉に安堵のため息が漏れたが、


「メイが腕をもがれかけて、望は襲われかけ、他の子は失禁、気絶のオンパレードの人が死ぬ瞬間を目撃して怖がってるくらいだ」


 続いた言葉に大丈夫なのか不安になった。


「ああ、後な。茜がお前の事忘れてた」

「ああ~そういうとこあるある……愛の為せる技さ」

「……お前、それ言っておけば解決とか思ってないだろうな」


 めげない水地に呆れながら、煙草を差し出す。

 水地は自分の煙草を吸おうと断りポケットの中を見るが煙草がない。

 カヤから「遠慮するな。お前のだ」と言われ渡されるかえされる煙草に釈然とせず。

 煙草に火をつけて一服した後に自分の体の状態を確かめる。


 負傷そのものはカヤが治したようで、様々な箇所に空いた穴は塞がってはいた。

 カヤの『流』の型はそこまで癒しに特化しているわけでもないため、見た目が治った程度であることは体の状態から分かった。


「一応。致命傷だったが、仮死状態だったんじゃないかとは思っている。不必要に血も流れてなさそうだったしな」


 体は冷えきっていて動けそうもなかった。煙草をもつ手もがたがたと震えている。

 周りの寒さから仮死状態だったと言うことも頷けた。


「ああ、温もりが欲しい」

「寮に帰って暖まれ。今なら茜が暖めてくれるんじゃないか?」

「それはいつも通り」

「「愛の為せる技」」


 揃った声に笑いながら、カヤは水地の前に立ち、背を向けてしゃがみこむ。

 どうやら、おんぶして運んでくれるらしい。


 ありがたいと思いながら背に乗ると、カヤの体温の暖かさに心が溶けていくかのようにほっとした。


 暖かい背中に、耳を当てると聞こえる心臓の鼓動。自然と高鳴る自身の――


「あ、ああ、そう言えば。お前はこれからどうするんだ?」


 違う違う。俺は茜一筋。と、なにかいけないものに目覚めそうな気がしてすかさず切り出す。


「終わらせて、明日か明後日には帰る」


 そう即答が返ってきた。

 歩きながら、カヤは水地に解と駕籠がまだ生きている現状を話す。

 つまりは、これ以上何も起きないよう処理して、この場を去るということだとすぐにわかった。


「そうか……」



 すでに夜は明け、辺りも明るくなり始めている。

 ざくざくと、2人の耳に雪道を歩く音が届くだけの沈黙が訪れた。


 水地はその沈黙の中で、こんな終わり方以外にもあったのではないかと考えていた。



また、同じく、


 メグ。お前ならこんな時、どうしただろうな。


 カヤも、雪が降りしきる森林地帯の中、今は亡き女性を想いながら、心の中で呟いていた。


 自分の、もう1つの影が、悲しげに揺らいでいる。


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