第10話 C案

 近頃、ファッションとメイクの変化のせいか男の人によく話しかけられるようになった。

 いわゆる女子力アップの服を着ると、仕草も自然とそうなる。こういうのを、外見と一緒に中身が変わったというのだろうか。

 でも女子力アップじゃない服で同じ仕草をしても、誰の目にも触れないのでしょう。何だかなぁ。


 私は今まで、そういう事を考えてこなかったんだなぁ。

 雑誌でモテ服特集とか書いていても、何の為にやるんだろうって思っていたし。

 自分が可愛いと思う服ばかり選んでいた。

 けれど今はアイドルの目を意識している。アイドルに見られる訳は無いんだけれど、気持ちが全然違うなぁ。


                 ○


 今日はライブハウスに行く。友達がバンドを組んでいて、ライブのデビュー戦だ。

 今日のイベントはそういった地元のバンドが集まるライブらしく、ジャンル的にもポップな感じらしいので何を着て行っても浮く事は無いだろう。

 一度着てからずっとお気に入りの幾何学模様の服をセレクトした。

 九月になってもまだ少し暑いと涼しい、両方の気候だ。

 アイシャドウは最近お気に入りの赤を選んだ。

 暗いライブハウスでは、少し濃い位のメイクが丁度良い気もする。


 地元バンドのライブとあって、バンドの知り合いばかりが来ている様子だ。

 バンドとその友達、という図式しか見えない。

 これがもし東京の人気のあるバンドのライブだったりすると全国各地からファンが来て、ファン同士も県境を越えて仲良しだったりするのだろうか。そういうの、ちょっと憧れかも。なんかイケてる。

 あ、でもアイドルのファンは違うのかも。あらかじめグループが出来ちゃって、友達の友達、とかじゃないと仲良く出来ないかも。

 友達じゃない子がもし「誰々を見ちゃった」とか「ライブの時、手が触れちゃった」とか聞くと、嫉妬心に包まれてしまうかもしれない。

 自分が心乱されない位置で愉しむのを本能的に守っているのだろうか。


                 ○


 友達の出番も終わり、もう帰ろうか他のバンドも見て行こうか迷っていると、知らない男の人に声をかえられた。


「こんばんは、今日は誰かお友達を見にいらしたんですか?」と。


 お洒落な人だと思った。カラフルなシャツが全然浮いていない。片手にビールを持っているのが自然だ。

 その人はよくライブハウスに来るらしく、今日は友達が出るから来たというありふれた、私と同じパターンの人だった。

 私の友達とも面識があるらしく、それならこのあとの打ち上げにも参加しないかと誘われた。友達も打ち上げに出ると云うので、一緒に過ごした。


 打ち上げでは色んな人と話をした。此処に居る人たちは職業も年齢もばらばらで、色んな話が出来て面白かった。

 その中でも年長組に属するであろう男の人が、男と女の恋愛論を熱弁していた。聞いていて面白かったので輪に入ってみた。

 隣の席では、最近彼女に振られたと嘆いている男の子が居た。しかし自分はバイセクシャルかもしれない、とも云っていた。

 本当に色んな人が居る。此処に来ないでアイドルの追っかけをして会社と女子会だけの生活だったら絶対に聞けなかった話が聞ける。


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