第8話 B案

 八月、私の勤める会社は十日程の長期連休がある。

 この時期、珍しく地元のライブハウスで見たいイベントが無かったので他のライブハウスへ行ってみた。お隣の岩手県へ。

 

 その日は静岡県のバンドが来ていた、気になっていたバンドだ。

 初めて行くライブハウスなので案配がよく解らず端に居た。そしたら地元岩手の人だろうか、男の人に声をかけられた。


「地元の子?」と聞かれた。いいえ、隣の県から来ましたと伝えた。

 その男の人は岩手県でバンドをやっている人でよくライブハウスに来ているらしい。海外バンドのTシャツを着ていた。今夜のイベントで、女性客が少々珍しかったようだ。

 折角なので色々聞いてみた。普段のライブハウスはどんな雰囲気なのかとか、二番目に出たバンドはどういう人たちなのか等。

 話していたら、その男の人の知り合いが近づいてきて一緒に話をした。

 そのあとも何人か加わり、面白い話を色々聞いた。

 私の住んでいる県の事も聞かれた。少し前までライブハウスでバイトしていたと云ったら、会話が更に膨らんだ。


 しかし新幹線の終電時刻が迫ってきたので帰らなければならない。もっと話がしたい。又ライブハウスで会いましょうと云い、連絡先を交換した。

 最初に声をかけてきた男の人と交換した。その人は横山さんという名前だった。


                 ○


 数日したら、先日岩手県のライブで知り合った横山さんからメールが届いた。お勧めのバンド名を幾つか送信してくれた。

 

 早速ネットで試聴してみた。半分程、衝撃を受けるバンドだった。

 今までライブハウスで色々なイベントに参加していたつもりだったけれど本当にそれは、【つもり】だった。

 こんな音楽があるのか。初めて聞くリズムや形態。最初聞いた時はよく解らなかったけれど、段々聞いていく内に虜になる音楽がある。面白い。ネット試聴だと音質が良くない気がしたので、通販でCDを注文した。

 気に入ったバンドが居ました、と横山さんにメールを返信した。そのバンドが来月盛岡に来ると教えてくれた。丁度休みに当たっていたのですぐに盛岡のホテルを予約して、ライブに行く事にした。


                 ○


 東北地方だと新幹線ですぐに行ける距離なのでちょこちょこライブ遠征をした。

 昼間からのライブだと日帰りも可能なので、近郊のライブハウスのスケジュールをこまめにチェックしている。

 最初は岩手県に行く事が多かったけれど、岩手県のライブに仙台の人が来ていて知り合いになったりすると今度は仙台に行きたくなる。そんな風に輪が広がっていった。

 それに、ライブハウスに来る人達とお喋りする事が良い刺激になっている。

 発言や思考が物凄く前向きだし勇気がある人たちばかりだった。

 最初はバンドの話ばかりしていたけれど気づいたら人生相談みたいな事も話している。

 色んな人が居る。家庭を持っている人や一流大学を卒業した人やホストをやっている人や年齢不詳な人等。

 とにかく頭が良い人が多いと思った。学校のお勉強が出来る、という意味ではなく、初対面の人との会話の能力やピンチの切り抜け方とか。

 この人たちと話していると性別を超えたときめき、を感じる。


                 ○


 一つのライブに行くと、誰かが最低一つバンドを教えてくれる。

 私は気になったバンドを必ず試聴している。

 自分が見に行くライブに出るバンドは少しでも聞いてみる。

 そうしてアイドルの曲を聞く時間が減ってゆく。

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