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「全部
「いつ殺人を決めたんだ? 出発前であればわざわざ現地で凶器を調達なんかしないだろ。それに何で電話線だったんだ?」
「別荘を見るまでは、殺そうとなんて思ってなかったんだ。いや、それはちょっと違うな。俺はもともと桃子に殺意を抱いていた。そこにきて、お
「それにしても電話線って。キッチンを見たときに包丁でも掠め取っておけばよかったものを。物置には手斧だってあった」
と言って、僕は何か不思議な心地になったが、鈴木一が話を続けるのでその一瞬の違和感は流された。
「そのつもりで居たけど、奈美と一緒にキッチンを見てしまった手前、包丁の本数が減っているのは好ましくなかった。夕飯のときにそのキッチンで調理した人間も居るわけだしね。それに電話線なら、警察への連絡を遅らせることも出来るし、一石二鳥だと思ったんだ。だが、そこから自分の犯行がばれてしまうとは」
「藤本正樹が事故死しなかったらどうするつもりだったわけ?」
「さあね。LSDの摂取に加え眼鏡を忘れて出て行ったからある程度の期待はあったけど、ともかく運が良かったという一言に尽きるよ。あれで本当に警察を連れてのこのこ帰ってきてしまったらと思うとね」
にこりと笑うのが不気味だ。
仲が良かったはずなのに。
「どうして殺したのか、に関しては僕は興味がないから聞かないけれど、どうしてここに来たのかは聞いてもいいかな」
鈴木一が煙草を吹かし始める。
僕も同様に、彼の動作を目で追いながら火を点けた。
「君たちなら、俺の話を聞いて俺が犯人であることを見抜いてくれると思ってた。こけし村の一件について君たちの立ち位置を知っていると言ったね。期待したとおりの出来栄えだよ。
はっきり言えば、辛かったんだ。ずっと、桃子の死に顔が頭から離れない。誰かにこの犯行を知っておいて貰いたかった。一人で抱えるには、重すぎたんだ」
そして長い吐息が漏れる。
殺人者を前にしているにも関わらずやけに自分が冷静だなと、嫌悪感が沸きあがる。そのあたり、こけし村での事件やら何やらで、変に感覚が麻痺してしまっているのかもしれない。僕は正常な思考を行うことが出来るから自分を異常だとは思わないが、異常な人間が果たして正常な思考を行うことが出来ないのかどうかを知らないから、そんなことは改める意味もない些末な問題なのだろう。思い込みだ。
嫌悪感の一方で、役立たずだと言われていた僕こそが事件の真相を容易く見抜いたことに関し、巴里子への優越感があった。
しかし彼女のほうを見ると、つまらなそうにコーラを飲んでいる。
それが不服だった。
いつも彼女は何か知っているような顔をしている。
「なんだよ」
思わず僕が声をかけたので、鈴木一も巴里子のほうを見た。
巴里子は僕には視線を寄越さず、
「鈴木くん」
「何?」
「稔の話であなたが納得、大満足だと言うのならそれでいいわ。ただ、個人的に私から聞きたいことがひとつだけ」巴里子は自身の指を示しながら、
「指輪はどうしたの?」
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