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鈴木一も、巴里子も合点がいったのか、ああ、とため息が漏らされる。
「通常、そんな聞き方はしない。線なんて基本的に繋がっているしね。仮に殺人現場の異常な空気に晒されて、というのだとしても、電話線自体がない、というよりは、電話線が切られていて通じない、という発想が正常だと思うんだよ。創作ではそっちが定番だからね。だから、聞くとしても、電話自体がないのか? それとも線が切られて通じないのか? というようなものが普通だと思う」
「普通、か」
「線がなくなっていることを知っている人間でしか、そういった台詞は出てこない。僕はそう思う。それが、さっきの話に繋がるんだ。首を持ち去った理由。犯人は電話線で鷲見桃子の首を絞めたんじゃないのかな。それで、隠した。スリムタイプのものなんかだと、三本、細い痕が付いてしまうだろうからね。気付く人も居ると思うんだ」
「待って」止めに入ったのは巴里子だった。「稔は鈴木くんを犯人にしたいようだけど、それじゃあまだ確定には至らないわ」
「どうして?」
「結果論だからよ、それが。線がないことに気づいていたからと言って、それがどうして自分に繋がると思ったわけ? どうして首を隠さなければならないと慌てたわけ? その説明がなければ鈴木くんを犯人にする理由としては薄弱のように思うけど」
「それに関してはこんな理由を付けてみたけど」そう言って巴里子に向く。
「まず、この電話の配置だよ。事件後、朝野保彦が電話をかけようと席を立ったとき、彼はすぐにそれを見つけられなかった。鈴木くん自身が言ったように、花瓶の裏に隠れていてちょっと見えにくかったわけだね。それに玄関は薄暗がりだったとも言っている。本当に意識して探そうとしなければ、実際初見で誰もがスルーしたように、見つかりにくいわけだよ。電話なんかより、扉一枚抜けた建物全体の異様さのほうがよっぽど際立つしね。そもそも誰もそんなものあるのか気にしない。
次に、その見つかりにくい固定電話の位置を鷲見桃子が説明したとき、その場に居たのは鷲見桃子本人と鈴木くん、それから上田亜里沙と、中村梢、朝野保彦の計五人。後ろ二人は寝ていたから聞いていたかどうかは怪しいところだ。そして神崎奈美と竹本浩二はその直前に書庫へ移動しているし、藤本正樹は部屋に篭っていたからこの場には居なかった。これはいいね? ということは、実際鷲見桃子から話を聞いていたのは上田亜里沙と鈴木くんだけになる。さらに、電話の位置を確認したのは、鈴木くんだけだ。鈴木くんの話を聞いた限り、上田亜里沙が電話に近づいた形跡はない。つまり、鈴木くんだけが電話線を盗めた。そして、鷲見桃子は死んだが、上田亜里沙は自分が電話の位置を確認したことを知っている。彼女が絞殺痕を見て電話線のことに気付き、それを全体に摘発されれば、事実が露見する。だから首を切り取り、隠した」
「鈴木くんは鈴木くんの知っていることだけを話したに過ぎないわけでしょ。だったら上田亜里沙が実は電話に近づいている可能性もある」
「そういうことを言い出すと、そもそも僕に推理は出来ない。さっきも言ったけど、僕は鈴木くんから聞いたことだけを基に考えているだけなんだから。彼が知らないことは当然僕も知らないし、逆に彼が話してくれたことは全て真実だと信じてる。それにその辺は、鈴木くんが否定するかどうかの問題もあるよ」
そう言って鈴木一を見ると、彼はにやりと微笑んだように思われる。
「そう」
短く一言挟むと、
「俺が殺したんだ」
終幕となる。
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