#34 狩り
『今だ!一斉射撃!』
アンシュの号令とともに4機が一斉に白兎に弾丸の雨を浴びせた。しかし白兎はそれを全てかわし、立射でニックを狙い撃った。それをギリギリのところで物陰に隠れ、ことなきを得る。
『あっぶね!なんだよあの動き、大隊長の比じゃねぇぞ!』
『動きが滑らかだ。人の動きをトレースしているように見える』
『操縦系の考察は後!とにかく今は奴をどうするか考えないと』
「奴が逃げます、他と交流するつもりだ!」
『逃すな!』
そのとき、白兎が突如振り返り、後方の山を立射で撃った。
『……おい、あそこはチャド准尉がいなかったか?』
『なぜ、バレたんだ?とにかく妨害しろ!』
「作戦があります。c小隊、協力してください」
c小隊が疑問を抱きつつも白兎を追撃していると、b小隊から中隊に連絡が入った。
『こちらb小隊。恐らく准尉の狙撃だと思いますが、白兎の頭部が爆発。その後なんとかとどめを刺しました。ミルナ機がやられましたが軽傷で済みました。それと、チャド准尉、返事をしてください。准尉』
しばらく応答はなかった。
『……ふぅ、なんとか山から降りれた。逆探知までが早すぎるぜあの機体ら。大丈夫、俺は生きてる。a小隊と合流するよ』
中隊の通信に安堵の声が広がった。だが、安堵ばかりはしていられない状況だった。
『d小隊だ。敵は2機を中破させ逃亡。パイロットはどちらも軽傷だ。各小隊警戒せよ、奴は近接特化だ』
ジェイコブも苦戦を強いられていた。ひとまわり体格の大きい白兎から繰り出されるハルバードの攻撃は受け止めるだけでも致命傷になりかねない。受け流した攻撃でコンクリートが粉砕され、地面に突き刺さった隙を狙って攻撃しても蹴りで反撃をくらう。距離をとって撃とうとしても間合いを開かせず追撃してくる。そのせいでレイノルドのカイラの支援を受けにくい。
そんなことを考えていると、思い切り腹部に蹴りをくらい吹き飛ばされ、浮いたところをハルバードで横薙ぎしてきた。それを重心をずらすことですんでのところで回避し、そのまま背面から落ちる。さらに追撃してこようとしたところに援護射撃を受け、敵は一時後退した。
「……くそ痛ぇじゃねえか。畜生が」
ジェイコブは頭から血を流しながら悪態をついた。そして傷ついた機体を起き上がらせた。
「俺が引きつける。俺の目の前で十字砲火を食らわせろ。俺に当たったって構わん。照準を固定しておけ。俺はここより前には出ない」
ジェイコブ機は瓦礫によってできた擬似的な一本道の前に立った。
「こいよ。タイマンだ」
白兎が飛び出し、低い姿勢で槍の部分を構えて突進してくる。ジェイコブが武器を構えようとしたところで白兎の後ろからもう1機飛びかかってきた。上に1、下に1。
……まずいな。
そう思ったときジェイコブ機の後ろから1発の弾丸が飛来し上からきた敵の右肩を捉え、相手はそのまま墜落した。下からきた敵はジェイコブが一歩下がったところを突き上げてきて、レイノルドとカイラのキルゾーンに入り、蜂の巣にされ沈黙した。
「チャド。ギリギリすぎるぞ」
『ちょっとはこっちの心配もしてくださいよ。新兵器やられたんですから』
『チャド、お疲れ様』
『お、紅一点カイラに心配されるのは心地いいね』
『殺す』
『怖いよ』
『チャド、死にたくなければ残党を処理しろ』
『レイノルドも怖いって』
右肩を撃たれた白兎がゆっくりと立ち上がり、全速力で後退した。それをチャドは逃さずジェイコブ越しに撃った。背中にあたり、白兎はのけぞったかと思うと倒れこみ、それ以降動くことはなかった。
『一件落着』
「しっかり1発でとどめを刺しておけば今のはなかったな」
『倒したんだからいいでしょう。つーか、さっきから俺だけ扱いひどくないですか』
c小隊ではニックが短機関銃と
『行くぜ行くぜ行くぜー!!』
それを白兎は飛び上がって回避し、回し蹴りをくらわせた。
『ぬおっ!』
ニックは吹き飛ばされたが、カトーはその隙を逃さず、一瞬浮いて動けない白兎をマニュアル照準で撃った。弾丸は対物ライフルにあたり使用不能にさせた。
白兎は対物ライフルを捨て着地し、銃撃を避けつつ煙幕を展開したニック機に迫り腹部に右の掌を当てた。
「ニック!」
カトーは思わず呼び捨てにして叫んだ。無慈悲にも右前腕に装備したパイルバンカーが作動しニック機の胸部を貫いた。
「畜生!」
カトーは怒りをそのままに弾薬の尽きた武器を捨て白兎に突撃した。白兎がゆっくりと振り返り腹部に回し蹴りを当てる。蹴られた衝撃の後に2度目の衝撃。パイルバンカーが作動したのだ。カトー機は吹き飛ばされた。
「……作戦通り」
カトーはニヤリと微笑んだ。
ニックの機体の周りの煙幕が穿たれ1発の砲弾が白兎の背中を貫き、爆発した。
白兎はよろけながらふらふらとニック機を振り返った。そしてその振り返った白兎に今度はウィルソン機から無反動砲の一撃が加えられ白兎は2つに千切れ、上半身が地面に落ちた。
煙幕の中から携帯式の無反動砲を背負った1人の男が出てきた。ニックだった。
「よかった。無事だったんですね。ニック軍曹」
「お前、呼び捨てにしただろ!」
「さあ、なんのことやら。皆さん危険な作戦に乗っていただきありがとうございました」
『リスキーな作戦だったがよかったんじゃないかね』
『大胆でよかったと思うよ。まさか機体を囮にしてパイロットが撃つとは。……さて。こちらc小隊、狩りは成功した。大破1、中破1、小破2』
『a小隊、白兎を2匹狩った。つまり発見された4機全てを破壊した』
『大隊長より各員、今さっき基地司令官より正式に降伏信号を受け取った。全員武器を下ろせ。停戦せよ。各中隊は被害を報告。繰り返す、停戦せよ。各中隊は被害を報告。第1中隊は大破2、中破4、その他全機小破。死者なし』
『第2中隊。大破1、中破2、小破4。死者なし』
『第3中隊。中破3、小破2。死者なし』
『第4中隊。大破1、中破1、小破3。死者なし』
『聞いたか?我々はこの戦いを1人の戦死者も出さず勝ち抜いたぞ』
その完勝に対して、大隊の通信が混雑するほどの溢れんばかりの歓声が広がった。
12月30日14時32分のことだった。
──
「未確認機は神経接続式のステルス有人機……。無人機ではない、か。クリシュナ、自律式無人機が中国に配備されつつあるというのは本当だろうな」
「少なくとも嘘ではないですよ。諜報部からそのような報告がありましたので」
S.A.T.O総合参謀長アールシュは背もたれに体重を預け天井を見上げた。
……中国の自律式無人兵器の存在。間違いなく今後のパワーバランスに大きな影響を及ぼす。恐らくそのパワーは中国としてではなく、もっと大きな何かにとっての。静観を決め込んだロシア。ロシアにも自律式無人機が配備されていると聞く。その軍事力があればS.A.T.Oもこれ以上無事でいられない。降伏したフィリピンの解放。海南島奪取。全戦線における全面攻勢。これらは本当に正しいのだろうか。もっと大きなものが動き出そうとしているのに。いや、大丈夫なはずだ。そのための独立部隊、S.A.T.O軍直轄の旅団戦闘団だ。相手が相手だから直接的な先手は打てないが、反抗のための布石は打ってある。
仮眠を取ろうとアールシュは目を瞑った。瞑ろうとした。しかし、副官クリシュナの言葉で眠気は全て吹き飛んだ。
「今すぐテレビをつけてください。ついにきました」
時計は5時30分を指していた。すなわちグリニッジ標準時1月1日0時。テレビには初老の白人が映っていた。
「聴け、全世界の民よ」
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